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第六章その1 ~絶対勝てない!?~ 無敵の邪神軍団編

サクヤ姫からのメッセージ

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 誠は忙しく機体の機器をチェックしながら尋ねた。

黄泉醜女ヨモツシコメ!? どんな相手だ?」

「とにかく強くて……もうどうにもこうにもならないよ!」

 コマは見た事が無いほど動揺していた。

「何も効かない、絶対に倒せない、ほとんど死そのものだ! とにかく逃げるしか手がないんだ!」

 誠達の会話をよそに、輸送班は速度を限界まで上げていた。

 黄泉醜女ヨモツシコメが何なのか、どういった相手なのかは分からなくても、その脅威だけは本能で感じ取れたからだ。

 タイヤも路面も火花を上げて、切り裂く風の甲高い音が、断末魔の叫びのように耳に刺さった。

 モニターを見れば、押し寄せる黄泉醜女ヨモツシコメは3体いる。

 道幅に収まらない巨体の彼女らは、山を蹴立て、木々を跳ね飛ばし、崖を飛び渡って追いかけて来ていた。

 あたかも巨大な山津波が、こちらに迫っているかのようだ。

「各員、射撃開始! 目くらましでも何でもいい!」

 誠達は一斉に攻撃を加えるが、相手はまるで怯んだ様子も無い。

 先ほどの餓霊と同様、慣性力で弾く事も試みたが、根本的に力の総量が違いすぎて、速度は全く緩まなかった。

 ……そしてバスの1台がよろめいたのだ。

 先ほど修理を施したバスだった。応急処置のスペアタイヤのため、走破性に問題が出ているのだ。

「駄目よっ、もう掴まっちゃう!」

 カノンが悲痛な叫びを上げた。

 あの車両には、大勢の子供達も乗っているのだ。

 だがその先の惨劇に、誰もが絶望しかけた時。

 彼方から一条の光が閃いた。

 まるで桜花のような桜色の光は、薙ぎ払うように降り注ぎ、怪物とバスの間を横切ったのだ。

 爆発、そしてもうもうと上がる土煙に、さしもの黄泉醜女ヨモツシコメも速度を緩める。

 そして誠達は目にした。

 全身を光に包んだ佐久夜姫が、後方の地に降り立つ様を。

「だっ駄目よ、サクちゃんっっっ!!!」

 誠の後ろの補助席から、鶴が身を乗り出して叫んだ。

「駄目よ、絶対に駄目っ!!! ナギっぺもいなくなって、サクちゃんまでそうなったら、私……!!!」

 そこで佐久夜姫の顔が画面に映った。

 全身を光に包んだ女神は、静かに、そして優しく微笑んでいる。

「……心配無いわ。自分で言うのもなんだけど、こう見えてなかなか立派な神様なのよ……?」

 佐久夜姫はおどけるように言うと、真剣な表情に戻った。

「最後まで希望を捨てないでね。お姉ちゃんの分まで、しっかり生きて頂戴……!」

「サクちゃんっっ!!!」

 鶴は必死に叫んだが、女神はもう画面から消えた。

 どんどん遠ざかる彼女の後ろ姿。

 思わぬ獲物を発見し、狂喜する黄泉醜女ヨモツシコメ達。

 次の瞬間、

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 天も地も、その場の全てが光に変わったかのような輝きと共に、山々が崩れ落ちていく。

 女神が最後の力を使って、相手を足止めしてくれたのだ。

「…………………………」

 誰も言葉を発せなかった。

 誠も鶴も、コマも隊員達も。鳳も神使も。

 ただ子供達だけが、こらえ切れず泣き声を上げていた。

 理屈は分からなくても、心で理解していたからだ。

 この国を守り、人々を助けてくれた女神に起きた出来事を……魂で感じ取っていたのだ。

 けれど足を止める事は許されない。

 恐らく黄泉醜女ヨモツシコメは倒されていないのだ。

 崩れた山から這い出して、再びこちらを追いかけるだろう。

 言葉を発せぬ一同に代わって、ただ行き交う風の音だけが、悲鳴のように響き渡る。

 あたかもこの世の終わりを嘆くかのようにだ。
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