24 / 160
第六章その3 ~敵も大変!?~ 川の魔王の反乱編
あの女神は手ごわかった
しおりを挟む
「……仕留め損なったか。なかなかにしぶとい」
笹鐘の予想を裏切り、夜祖大神様は殆ど表情を動かさなかった。頬杖をついたまま、わずかに口元を歪めただけだ。
笹鐘達がいるのは、巨大な砦の内部である。
黒くごつごつした堅固な壁、死角なく設置された各所の櫓。
極限まで機能性を追求した姿だったが、創り主の性質を表すように、隠しきれない造形美もまた備えている。
守りのための呪法具も、あちこちに輝く照明も、溜め息が出る程に洗練されているのだ。
「まあ仕方あるまい。高天原がよこした聖者と守り手だ。一筋縄ではいかぬだろう」
夜祖様はそこでようやく、明確に笑みと分かる程に表情を変えた。
「厄介な女神どもも始末できた。あとは如何様にでもなる」
笹鐘にとって、その物言いは不思議だった。
偉大なる夜祖様にとって、あんな女神達などとるに足らない相手のはずだし、実際こうして討ち取る事が出来ている。
無礼かとは思ったが、笹鐘は思い切って尋ねてみた。
「恐れながら夜祖大神様。あれらの女神、夜祖様が警戒される程の相手だったのでしょうか?」
「……あれは手ごわかった。特に姉がな」
夜祖様は頬杖をついたまま、片手を開いて前に差し出す。
すると例の女神・岩凪姫が戦う姿が映し出された。
闇の神人・天音と交戦した女神は、相当に弱っていたにも関わらず、接近戦ではかなりの優位に立っていた。
夜祖様はしばしその様を眺めていたが、やがて手を握って映像を消した。
「瀕死でこれだ。そもそもが大山積の娘、頑丈すぎて手に負えん。ヤツがその才を十全に発揮していれば、仕留める事は出来なかっただろう」
「……そういうものでしょうか」
笹鐘はまだ納得していなかったが、夜祖様はそこで話を戻した。
「人間どもは恐らく北に逃げるだろうが、これ以上追う必要は無い。常夜命が復活されるまで、この地を守ればそれでよい」
「仰せのままに」
笹鐘はうやうやしく頭を下げたが、そこでけたたましい歓声が耳に入った。
男女を問わず、大勢が発する笑い声、叫び声。
同時に夜祖様の顔が苛立ちに歪むのを、笹鐘は見逃さなかった。
「……阿呆どもが。乱痴気騒ぎなど、終わってからでよかろうに」
夜祖様がにらむ先……そこにあるのは、場違いを体現したかのような建物だった。
言葉で例える事すら難しいのだが……戦国の城のような巨大な館に、祭りの屋台の提灯を飾りつけ、そこにギラギラした成金風の装飾をこれでもかと足していると言えば、その混沌さが伝わるだろうか。
壁は重力を無視したように立体的に突き出て、各所に見える赤い鳥居の湯口からは、膨大な湯が滝となって流れ落ちている。
館のあちこちから桜の巨木が伸びており、今が盛りとばかりに無数の花を咲かせていた。
城の壁には絵画の類が描かれていたし、建物のちょっとした隙間にも、神々を模した彫像が飾られている。
あたかも悪趣味なテーマパークのようなごてごて感であり、それら全てが極彩色の光を帯びて、闇の中に輝いているのだ。
善神どもが保養する竜宮城に対抗したつもりなのだろう、と夜祖様はおっしゃっていたが……なるほど、保養所や遊郭の派手さを目指したのならば、納得のいく姿だった。
笹鐘の予想を裏切り、夜祖大神様は殆ど表情を動かさなかった。頬杖をついたまま、わずかに口元を歪めただけだ。
笹鐘達がいるのは、巨大な砦の内部である。
黒くごつごつした堅固な壁、死角なく設置された各所の櫓。
極限まで機能性を追求した姿だったが、創り主の性質を表すように、隠しきれない造形美もまた備えている。
守りのための呪法具も、あちこちに輝く照明も、溜め息が出る程に洗練されているのだ。
「まあ仕方あるまい。高天原がよこした聖者と守り手だ。一筋縄ではいかぬだろう」
夜祖様はそこでようやく、明確に笑みと分かる程に表情を変えた。
「厄介な女神どもも始末できた。あとは如何様にでもなる」
笹鐘にとって、その物言いは不思議だった。
偉大なる夜祖様にとって、あんな女神達などとるに足らない相手のはずだし、実際こうして討ち取る事が出来ている。
無礼かとは思ったが、笹鐘は思い切って尋ねてみた。
「恐れながら夜祖大神様。あれらの女神、夜祖様が警戒される程の相手だったのでしょうか?」
「……あれは手ごわかった。特に姉がな」
夜祖様は頬杖をついたまま、片手を開いて前に差し出す。
すると例の女神・岩凪姫が戦う姿が映し出された。
闇の神人・天音と交戦した女神は、相当に弱っていたにも関わらず、接近戦ではかなりの優位に立っていた。
夜祖様はしばしその様を眺めていたが、やがて手を握って映像を消した。
「瀕死でこれだ。そもそもが大山積の娘、頑丈すぎて手に負えん。ヤツがその才を十全に発揮していれば、仕留める事は出来なかっただろう」
「……そういうものでしょうか」
笹鐘はまだ納得していなかったが、夜祖様はそこで話を戻した。
「人間どもは恐らく北に逃げるだろうが、これ以上追う必要は無い。常夜命が復活されるまで、この地を守ればそれでよい」
「仰せのままに」
笹鐘はうやうやしく頭を下げたが、そこでけたたましい歓声が耳に入った。
男女を問わず、大勢が発する笑い声、叫び声。
同時に夜祖様の顔が苛立ちに歪むのを、笹鐘は見逃さなかった。
「……阿呆どもが。乱痴気騒ぎなど、終わってからでよかろうに」
夜祖様がにらむ先……そこにあるのは、場違いを体現したかのような建物だった。
言葉で例える事すら難しいのだが……戦国の城のような巨大な館に、祭りの屋台の提灯を飾りつけ、そこにギラギラした成金風の装飾をこれでもかと足していると言えば、その混沌さが伝わるだろうか。
壁は重力を無視したように立体的に突き出て、各所に見える赤い鳥居の湯口からは、膨大な湯が滝となって流れ落ちている。
館のあちこちから桜の巨木が伸びており、今が盛りとばかりに無数の花を咲かせていた。
城の壁には絵画の類が描かれていたし、建物のちょっとした隙間にも、神々を模した彫像が飾られている。
あたかも悪趣味なテーマパークのようなごてごて感であり、それら全てが極彩色の光を帯びて、闇の中に輝いているのだ。
善神どもが保養する竜宮城に対抗したつもりなのだろう、と夜祖様はおっしゃっていたが……なるほど、保養所や遊郭の派手さを目指したのならば、納得のいく姿だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる