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第六章その3 ~敵も大変!?~ 川の魔王の反乱編

邪神達は遊びほうける

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 夜祖様の砦の機能美を汚すような無粋さに、文句の1つも言いたくなる笹鐘だったが、厄介な事に、その館の主は邪神達である。

 反魂の術で魂の一部がよみがえった彼らは、すぐに巨大な館を魔法で築き、そこで宴に興じているのだ。

 長い間地の底で封じ込められていた鬱憤うっぷんを晴らすべく、飲めや歌えの大騒ぎなのである。

 館のそばには鳥居で囲まれた魔法陣があり、そこが光に包まれる度に、次なる邪神が地上に戻ってくる。

 その様を館の窓から見下ろして、邪神達は喝采かっさいを送った。

「おお、群山むらやま殿が戻られたぞ」

「ほほほ、待ちくたびれたぞえ」

 歓声を総身に受けるのは、邪神の中でも高位の火之群山大神ひのむらやまのおおかみだ。

 山神達のまとめ役であり、国土の総鎮守にかかわる彼は、善神達で言えば大山積おおやまつみに匹敵する邪神だった。

群山むらやま殿、はようこちらへ」

「そなたがおらねば始まらぬわ」

「次は誰が上がってくるか、賭けようではないか」

 邪神達は大音量で騒ぎ続けており、流石の夜祖様も苛立ちを隠せない。

 だが事態はそれだけでは終わらなかった。


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 凄まじい地響きとともに、巨大な竜の首が落下したのだ。少し遅れて、胴体と尾も大地を叩く。

 それはこの砦の守りのため、夜祖様が召喚した邪竜だったのだが……数瞬の後、竜のむくろに降り立ったのは、鬼神族の王子である。

 長身で引き締まった体躯であり、裸のままの上半身は、隙間無く彫刻のような筋肉に覆われていた。

 長い髪は荒々しく乱れ、そこから2本の角が伸びていたが、頭だけでなく、肩や背中にも幾本もの角が生えていた。

 下半身は裾を引き絞ったはかまで、胴回りには倒した相手の頭蓋骨を、数珠じゅずのようにぶら下げていた。

 彼は再び宙に飛び上がると、次々邪竜をほふっていく。

「おお、お見事、六道王子りくどうおうじ殿!」

「さすが双角天殿のお子よ!」

 邪神達は拍手しているが、夜祖様はたまりかねて念を送った。

「鬼の御子よ。あれらが竜は、守りのために呼んだものだぞ」

 すぐに相手の顔が夜祖様の前に映った。

「別にいいだろうが蜘蛛助。こっちにゃ俺がいるんだぜ?」

 六道王子はあざ笑うように答える。

「長い事地の底で押し込められてたんだ。まだ暴れ足りないんだよ」

 それだけ言うと、六道王子の映像は掻き消えた。

 再び地響きが起きたので、まだ戦いを続けているのだろう。

 邪神の中でもずば抜けた剛力のため、大地は大きく揺れ動き、さながら大災害のようだった。

 眼下を見ると、館の外にいた魔族の面々……つまり熊襲くまそや虎丸兄弟、鬼神族がおびえていた。

 彼らを守護する熊襲御前、無明権現、双角天はこの場にいないため、見知らぬ邪神がひしめく館に入りづらいのだろう。

「笹鐘、奴らも呼び寄せておけ。何かあれば双角天達が怒り狂うからな」

 夜祖様はそう慈悲深い事を言う。

「くれぐれも、這い出た神々には近寄るな。かなり鬱憤うっぷんが溜まっている、何をしでかすか分からぬぞ」

「かしこまりました」

 だが、笹鐘がうやうやしく頭を垂れたその時である。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 再び凄まじい地響きが起こった。

「こ、今度は何でしょうか……!?」

 流石に浮き足立つ笹鐘だったが、夜祖様は静かに呟いた。

「……大蛇おろちだ。肥河ひのかわいかっている……!」
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