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第六章その7 ~みんなで乾杯!~ グルメだらけの大宴会編

夏もシチュー。ヴィシソワーズみたく冷たいのか、熱々をクーラー効かせて楽しむのか

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 一同はあまりの口福こうふくに悶絶した。

「おっ、おいしい……! 何これ、贅沢とかそういうレベルじゃないわね……!」

 カニの殻ごとスナックのように噛み砕きながら、カノンは素直に喜んでいる。

 カニイクラ丼は、バケツからイクラをすくってお代わり出来るという暴挙のため、全員のテンションがおかしくなっていた。

「ホイル焼きもありますよ。残したらチョップしますからね?」

 なぎさは姉より豪快な性格なので、ホイルで包んだサケやジャガイモ、ホタテを調理機に放り込んでいく。

 あっという間に熱処理が終わると、辺りにバターのいい香りが漂うのである。

「ええなあ、さすが北海道や。旨いもんしかないでほんま」

 難波は上機嫌でジャガイモを頬張っている。

「……あれっ、けどよお考えたら、夏はどうなるんやろ。北海道ちゅーたら冬にうまいもん集中しとるやん?」

 そこでひよりが口を挟んだ。

「夏は夏で楽しいですよ。よくスープカレーとか食べてましたし」

『ええーっ!!』

 一同は不満げな声を上げた。なんかショック、という感想まで聞こえてくるので、難波が皆の心を代弁した。

「せやな、うちもがっかりやわ。そこはシチューって言って欲しかった」

「偏見でしょっ! しかも夏に!」

 ひよりは必死にツッコミを入れるが、鶴がその誤解を広げる。

「よく分からないけど、夏にシチューというものがあるのね? ぜひご馳走になりたいわ」

 そこでヘンダーソンが立ち上がった。

「おっと、そろそろ焼けるぞキャシー。世界は広いぜお姫様、アメリカングルメも忘れちゃ困るさ!」

「アメリカングルメ???」

 鶴が不思議そうに尋ねた途端、ヘンダーソンとキャシーが巨大な長方形の箱を運んできた。蓋を開けると、そこには6畳ほどもある四角いアメリカン・ジャンボピザが湯気を立てていたのだ。

「まあ、これは素晴らしいわ! なんて大盛りなのかしら!」

 テレビでしか見た事のない本場のアメリカンサイズに、少年少女の喜びもマックスだ。

「いいよなあ、アメリカのでか盛り! いかにもご馳走って感じでよ!」

「休日はあれや、ポップコーン食べながら家族でアメフト見るんやろ?」

「そりゃあ偏見さ……やるけどな!」

 ヘンダーソンの答えに、一同はどっと笑った。

 それから皆は全力で食事を楽しんだ。普段ならとても食べられないような量だったが、なぜだかおいしく食べられてしまう。

 もしかしたら最後の戦いに備えて、パイロット達の体が……そして操縦に使う逆鱗細胞が、エネルギーを欲していたのかも知れない。



 とにかく夢のように楽しい時間だったし、誠も出来ればこのまま笑っていたかった。

 ……それでも今のままだと、鶴は言わずに終わらせるつもりだろう。誠は何度かためらったが、思い切って鶴をうながした。

「…………ヒメ子。そろそろ言えよ」

「えっ……?」

 鶴は一瞬戸惑った顔をしたが、誠はもう躊躇ちゅうちょしなかった。

「本当は、治ってないんだろ? その力一時的なんだろ? 顔見てれば分かるから」

「そ、それは……この鶴ちゃんが……」

「冗談とか言わなくていいから」

 鶴が話を逸らしそうだったので、誠は急いでさえぎった。

「前は隠してたんだから、今度はちゃんと言ってくれ。一緒に命かけるんだし」

「………………」

 鶴は目線を逸らし、それからしばし無言になる。

 言葉を発せない鶴に代わり、コマが口を開いた。

「黒鷹の言う通り、鶴は治っていないんだ。岩凪姫様と佐久夜姫様から霊気をもらって、戦う力は戻ったけど……命の期限が延びたわけじゃない。その時が来たら、魂は砕ける」

「……でも、でもね。きっと、この戦いが終わるまではもつと思うのよ。私はこう見えてガッツがあるし、こんなにおいしいものを食べたんだもの……!」

 鶴は無理に明るく言った。

 それから一同を見渡し、真剣な顔で語りかける。

「今度の相手は邪神だし、私1人じゃ勝てないわ。だからみんなの力がいるの。でも凄く危ないし、生きて帰れないかもしれない」

 鶴はそこで言葉を区切り……けれど力を込めて言った。

「それでも言うわ、力を貸して。あいつらを倒して、もう一度みんなの幸せを取り戻したいの。そしたら私も、胸を張って帰れるから……!」

 一同は無言で頷いた。

 誰も言葉を発せなかったが、思いは鶴に伝わっただろう。

「ありがとう、みんな」

 鶴は目をこすりながら笑顔を見せる。

 コマもつられて涙ぐみ、前足で目元をぬぐう。

「立派になっちゃって。らしくないんだよ、まったく……」

 しばし静かになった一同だったが、そこで壮太が口を開いた。

「……あのよ。あの時、白い蛍っていうか、ピンポン玉ぐらいの光が降ってきたじゃん。女神様の魂……だっけか?」

 壮太が誠の方を見たので、誠は黙って頷いた。

「……だよな。それであの時思ったんだ。ああ、これ2回目だって」

「2回目……?」

 誠が尋ねると、壮太はこくりと頷いた。

 胡坐あぐらをかいた足首に手を置き、少し俯きながら言葉を紡ぐ。

「2人が九州に来てくれて、一緒に戦った時さ。後で考えたら、なんであんなすぐ信用したんだろうって思った。だって第5船団そっちとは敵対してたんだぜ?」

「確かに……おかしいっちゃおかしいけど」

 誠もそう言われると困ってしまうが、壮太はなおも続けた。

「自分でも良く分からなくてよ。それがあの時、神さんの光が降ってきて分かったんだ。前に似たような事があったって。そん時に、お前とお姫さんの声が聞こえたって」

「あっ……!!!」

 誠はようやく思い当たった。

「あの時の……幸魂さきみたまか……!!」
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