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第六章その12 ~魔王を止めろ!~ 決死の柱突入編

ここはうちらが引き受けたる!

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「てめぇっ……いやあんた達、こんなとこまで出張でばってたの……!?」

 鬼の長老どもの姿に、画面のカノンは表情を険しくした。

「その声は七月なづき姫か。里抜けした裏切り者め、それはこちらの台詞だぞ」

 最も巨体の鬼の言葉に、残りの老鬼達はあざ笑った。

 彼らは宙に浮いており、全身を赤い光に覆われている。

「我らが出張るのは当然だろう。天下分け目の大戦おおいくさだ、ここで手柄を立てておかねば、取り分が少なくなる」

「来てくれて助かったぞ。御器被ごきかぶりより生命力があるようだな」

 老鬼達はひとしきりはやし立てると、やがて巨体の1人が言った。

「もとより道は1つしかない……生き残りたくばれ。そやつらを殺すか、お前達が消えるかだ」

 老鬼が手にしたたまが光ると、特務隊の面々が叫び声を上げた。

「う、うわああああああっっっ!!!」

 そのまま誠達に、強化刀を抜いて切り結んできた。

 無茶苦茶な戦い方だったし、攻撃そのものは稚拙だった。

 しかしこちらの画面には、彼らの顔が映るのである。

 目をひん剥き、必死の形相の彼らは、半ば正気を失っているのだろう。それでもわずかに残った理性で、何かを呟くように唇を動かしている。

 見開かれたマキナの目から、涙が流れ落ちるのが見えた。

 それが誠達の決意を鈍らせ、防戦一方に陥らせたのだ。

「ぐははっ、そうだ、分かっていたぞ! 貴様らには殺せぬだろう?」

 巨体の老鬼が愉快そうに言った。

「どう威勢のいい事を言おうと、所詮は甘い人間だからな! おっと、七月なづき姫は我らと同じ鬼だったか?」

「……っ!」

 カノンも攻撃を防ぎながら、悔しげに表情を歪めた。

 だが老鬼達は追撃の手を緩めない。

「そら、もう1つ贈り物だ!」

 瞬間、虚空にどす黒い気が渦巻くと、そこから何かがずり落ちてきた。

 形や肌の質感は、低レベルの餓霊とよく似ている。

 ただ誠達を驚かせたのは、その体からせり出した『顔』だった。

 餓霊然とした皮膚や角に混じって、その部分だけが人の姿のままだったのだ。

「た、助けてくれよぉ……痛いんだよ……怖いんだよ……!」

 誠は『彼』に見覚えがあった。

 誠達の高縄半島避難区にいた少年であり、敵の甘言かんげんに引っかかり、怪物に改造された人物である。

「覚えておけ、くずは救えぬのだ! 甘い言葉に何度でも乗る!」

 老鬼の発言の合間にも、次々に同様の存在が床に落ちた。

 それはあのテロ組織、『自由の翼』のテレビ放送で発言していた少年達だ。

 彼らも同様に、救いを求めて邪神に身を寄せたのだろう。

 甘い楽園を夢見、安易に救われようとした結果、魂をもてあそばれる。あまりに惨めな末路だった。

「ぐっ……!」

 誠達は攻撃を躊躇ちゅうちょし、ますます応戦に踏み切れなくなる。

 老鬼達はもはや有頂天うちょうてんだった。

「ふはは、効果覿面てきめんではないか!」

「いいぞ、ここで神人と勇者を討ち果たせば、我らの手柄が大きくなる!」

 だが手をこまねいている間にも、事態はどんどん悪化していた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 巨大な柱全体を揺るがす、気味の悪い地響きが起こる。

 それと同時に、地の底からうめき声が聞こえてきたのだ。

 恐ろしく強大な何かが、この現世に這い出そうとしている……!

「くそっ、常夜命か!? もう時間が……」

 誠は歯噛みするが、そこで難波が口を開いた。

「鳴っち、あんた先に行きっ! ここはうちらが引き受けたる!」

「そうだ、早く行けよ隊長! 俺らも後から追いかけるからよ!」

遍路へんろで鍛えた足があるんだ、絶対追いつく!」

「そうよ、いいから早く行って! 敵の親玉が出てきてからじゃ遅いんでしょ!?」

 皆の言葉はもっともである。

「……………」

 誠は黙って機体をバックステップさせた。

 そのまましばし画面上の隊員達を見つめる。

 長い間、どんな苦難も共にしてきた仲間達だ。置いていくなどあり得ない。あり得ないが……しかし。

「すぐ戻るっ……!」

 誠は辛うじてそれだけ言うと、機体を操作してその場を離れる。

「行かせるか、小僧っ!」

 五老鬼達が殺気立つが、彼らを包む赤い光に、隊員が横手から射撃を加えた。

 間一髪かわされたものの、舞い上がる粉塵で老鬼どもは視界を失い、その隙に進む事が出来たのだ。
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