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第六章その13 ~もしも立場が違ったら~ それぞれの決着編

神々の戦い

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 人々は、その光景を食い入るように見つめていた。

 唸り声を上げ、空へ攻め昇る無数の邪神。

 迎え撃つは、少数ながらも勇猛果敢な日本神話の神々。

 恐らく降臨できる人数に限りがあったのだろう、数の上では邪神達が圧倒的に優位である。

 だが、よこしまなる神々が舞い上がった時、建御雷タケミカヅチが片手を前に差し出した。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 次の瞬間、空を埋め尽くす無数の雷が、邪神の群れに直撃していた。

 1発1発が凄まじい威力を誇る雷撃が、かなりの邪神を焼き滅ぼし、見守る人々の鼓膜を叩いた。

 辛うじて耐えた邪神もいたが、そこで剣神・経津主フツヌシが進み出、手にした剣を横薙ぎに振るった。

 空を切り裂く巨大な刀気が、邪神達の鎧を砕き、刀や槍を断ち割っていく。

 この開幕の打撃により、邪神達は出鼻をくじかれた。

 そもそもまとまりがなく、快楽や支配欲で集まっただけの彼らは、相手が強ければ、たちどころに気勢をがれるのだ。

 勿論それを見逃すような善神達ではない。敵軍に突進すると、散々に蹴散らしていくのだ。

 剛力を誇る須佐之男スサノオが、その子孫たる建御名方タケミナカタが……そして山神の総大将たる大山積おおやまつみが、逃げる邪神を掴み、振り回し、叩きつけては踏み砕いていく。

 この10年に及ぶ悪行あくぎょうで、己が氏子うじこを大量に殺された事を、決して忘れていなかったのだ。

 …………だがもちろん、善神達の攻めに怯えぬ邪神もいる。

「うおおおおおおおおっっっ!!! このクソ野郎どもがっっっ!!!」

 怒り狂った六道王子は、粉塵を巻き上げながら身を起こした。

 体のあちこちが焼け焦げ、蒸気を立ち昇らせた彼は、片手で顔を押さえながら神々を睨み付ける。

「何だあの光はっ!? 下らねえ小細工しねえで、真っ向から勝負しやがれっっっ!!!」

「高天原の神気だ。戦いにかまけ、上をおろそかにするからだろう」

 答える邇邇芸ニニギは、少し馬鹿にするように六道王子を見下ろす。

 勿論これもわざとだろうが、頭に血がのぼった鬼神族の王子は、そんな事は考えなかった。

「ふざけるなっ、天照あまてらすの七光りがああっっっ!!!」

 六道王子は金棒を振り上げ、大地を蹴って突進した。

 凄まじい力を込めた一撃が繰り出されたが、邇邇芸ニニギは剣で受け止める。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 激しい光と爆風が入り乱れたものの、邇邇芸ニニギは僅かに後ずさっただけ。

 涼やかな顔立ちの天孫だったが、その膂力りょりょくは並々ならぬもののようだ。

「こっこいつ、ただのボンボンじゃねえっ……!!?」

 倒したはずの一撃を受け止められ、六道王子は目を見開いた。

 力に絶対の自信を持つ鬼神族にとって、これはかなりの屈辱なのだ。

「舐めるなよっ、腕力でこの俺様がっ……!!!」

 なおも腕に力を込め、押し切ろうとする六道王子だったが、その時ふいに邇邇芸ニニギが言った。

「守る者が多すぎる。貴様と遊ぶいとまは無い……!」

 そのまま相手の腕を掴むと、前に出る力を利用して投げ飛ばしたのだ。

「ぐおおおおおっっっ!!?」

 もんどりうって倒れた六道王子だったが、すぐに身を起こした。

「舐めるなっ、この程度で俺が……」

 叫んで駆け出そうとする六道王子……しかしそこでたたらを踏んだ。

 岩肌から隆起した巨大な腕が、彼の足を鷲掴みにしていたからだ。

「なっ、何だこりゃ……!? 大山積おおやまつみか!?」

 山神の能力で岩の手を形作り、六道王子の動きを止めたのだ。

 更に次の瞬間、建御雷タケミカヅチの雷が彼を打ち付ける。

「こっ、こんなもんで、俺が……!」

 六道王子は金棒を振り上げ、岩の手を砕こうとしたが、その右腕は経津主フツヌシによって斬り飛ばされていた。

「ふ、ふざけっ……!」

 片腕を失ってもひるまぬ六道王子だったが、言葉を発しかけた顔面を、突進した建御名方タケミナカタが蹴り飛ばしていた。

「ぐおおおっっっ!?」

 ようやく岩の手から解放されたものの、六道王子は吹っ飛ばされた。

 回転し、大地に何度も叩きつけられ。

「クソってめえら、寄ってたかって……」

 だが、何とか身を起こそうとした六道王子の眼前に、須佐之男スサノオが立ちはだかった。

 彼は燃えるような闘気に身を包み、十束とつかの剣を振り上げた。

「……おい、め………」

 言葉も中ほどに、六道王子は頭蓋を叩き割られていた。
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