「ぼっち」が結ばれるわけがない!

前田 隆裕

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5話~土日(続)~

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5話~土日(続)~
 花崎さんが僕の家にやってきた。ぼっちのオアシスである土日が今、ジャマされようとしている。この天下分け目の決戦を制し、ぼっち太平の世を築かなければならない。

「こちらへどうぞ」

 僕はためらわずに客間に案内する。畳にちゃぶ台、床の間に掛け軸、典型的な和室である。そしてすかさず座布団、緑茶、和菓子を提供する。

「あっどうも・・・・・・ってなんか違う!」
「?」
 なにが違うのだ。しっかりと客人として対応しているではないか。

「ピチピチの高校生の男女だよ!?これじゃ、結婚の許可をもらいに来たお嫁さんだよ!?」

 いちいち恋愛脳なのは高校生所以か。いや僕も高校生だが、これは例外中の例外だ。

「僕は丁重におもてなししているだけですよ。で、なにかご用件は?」

 結論ファーストこそ、もっとも効率の良い会話である。余計なことは不要だ。

「ご用件ってほどじゃないけど、うーん、それじゃ高校生らしくゲームでもする?」

「ふむ、よくわかりました。用件はなしということで、それじゃ」

「ちょっと待って待って待って!」

 席を立とうとする僕の服の裾を引っ張る。

「わかった、はっきり言うのが好きなのなら、私、はっきり言う」

 花崎さんの面持ちが変わった。重要な用件なら聞くほかあるまい。

「・・・・・・実は私、未来から来たの」

 ウザさマックスの対応から、今度は不思議系のお話。コミュ力の低い僕はもう頭がパンクする。ひとまず冷静になろう。頭の中で一呼吸を置く。

「よくわからないですが、それをなぜわざわざ僕に言いに来たんですか?」

「前田君も未来から来たんでしょ?さっき玄関で吹き飛ばされて気づいたのよ。前田君、不思議な力を使うよね?」

 何を言われてものらりくらりかわそうと思っていた。しかし、能力について追及されるとは思いもしなかった。このご都合主義の能力にも限界が来たのか。それに僕が未来から来ただって?もしそうなら、この学歴社会なんぞに甘んじることなく、株やFXで大もうけして、学校など行ってやしない。

 意味がわからないが、ここは肯定も否定もせずに様子を見るのが得策だ。

「もしそうだとしたら、どうするんですか?」

「どうしよっかな~ニマニマ。というより、未来から来てたら私のこともわかるよね?」

 わかるよね?といわれても困る。不思議な力はあるが、花崎さんがどういう者なのかはさっぱりだ。そもそも興味もない。

 花崎さんの先程までの真剣な面持ちはすでに消え去り、ウザさマックスモードである。もどかしい、もどかしいったらありゃしない。この手玉にとられたような感じは実に屈辱である。ぼっちに過度な干渉は毒薬である。花崎さんは話を続ける。

「その不思議な力、人の『ありえない』って意識を強化して、勝手にあり得る話へ自己変換させるの。この時代の人には前田君の不思議な力は当然『ありえない』はずだから、それが強化されて、気付かれない。勝手に自分の常識の範囲内でつじつま合わせしてしまうから気づかれない」

「それなら、なぜ気付くはずのない不思議な力とやらに、花崎さんは気付くことになるんですか?」

「それは、私が未来から来たからだよ。未来には前田君の不思議な力は十分あり得る話。だから今の人ほど『不思議な力』への『ありえない』って気持ちが薄いから、最初はもやがかかったような感じだったけど、今ははっきりわかる。でもまたもやがかったようにわからなくなっちゃうこともあるから怖いんだよね~」

 たしかにしっくりくるような、でもどこかふわふわした話だ。だが、それがどうしたというのだ。

「なんとなく話はわかりました。花崎さんが未来から来たこと、僕が不思議な力を持っているのではないかという主張、はい、で?」

「それで、その、なんというか、未来の私は・・・・・・って前田君わからないの!?」

「はぁ、まったく」

「そっか・・・・・・じゃあ、やっぱりいいや」

 そういうとチラッと花崎さんはこちらを見た。何かを言いたそうだ。とあるゲームで言うところの「仲間になりたそうな目」に見えた。しかし僕はガン無視する。僕は、その目が戦闘終了、退散チャンス、あるいはとどめを刺す頃合いだと捉える。今まで攻撃してきて何が仲間だ。他人は仲間ではない、敵だ。

「では、話も尽きたことですし、どうぞこちらが玄関です。さぁ、靴べらです。さぁさぁ」

 なりふり構わない。ここで力を行使し、花崎さんを起立、かつ直立不動で、北朝鮮の兵隊行進のように前に進ませる。

「ねぇ!ここまで言っておいて、なにか気にならないの!?」

 甘いな。ぼっちは他人に一切の興味を持たないのだ。花崎さんがどんなに美少女だろうが、どんなにあざとくウザく絡んでこようが、未来から来てようが、知ったことではない。

「はい、人には人の事情があるのは重々承知しております。大変貴重かつ興味深いお話をどうもありがとうございました。では」

「高校生同士のおしゃべりの返しじゃないよ!」

 そしてそのまま玄関先に花崎さんを丁重に吹っ飛ばし、扉を厳重にロックした。またね~という声が外から聞こえた。また来るのかと思うと気が重くなった。天下分け目の決戦は強引に終わらせたものの、こちらが消耗しただけだ。実質の敗北。無念。

 そもそもなぜ僕のようなぼっちにここまで干渉してくるのかがわからない。

 ぼっちは大きく分けて3つのパターンがあると思っている。

 一つ目は周りから嫌われて孤立しているバターンだ。自分に原因がある場合もあれば、周りに原因がある場合もある。いじめでよくある話だ。消極的ぼっちともいえる。

 二つ目は自分から積極的に個を貫いているパターンだ。自己中というか、フリーダムというか、個人的にはぼっちをプラスに捉えている。

 三つ目は空気化しているパターンだ。印象が薄く周りに気付かれない。

 三つのパターンは単独で分類できるものではなく、さらに細分化したり、二つあるいは三つすべてを兼ね備えたぼっちもいる。それが僕であると自負している。

 僕は周りから嫌われている。友達がおらず、だれからも声をかけられない。おまけに毎朝陰口のシャワーを浴びている。勝手に言ってろ!と思う。だが、一人はすごく楽しい。ジャマは入らない。好きなことを好きなだけ、誰に気をつかうまでもなく楽しめる。他人とのスケジュール調整も不要だ。一人で楽しめる娯楽も今や飽和状態である。むしろ生きているうちに全部消化できるのかが不安なくらいである。加えて、最近はぼっちとして悪目立ちしているが、ひとたび時間がたてば、周囲は僕の存在を忘れる。みんな友達と遊ぶ計画で頭一杯だ。ぼっちという彼ら彼女らにとって不要な情報は即切り捨てられる。

 このぼっち三パターンをすべて兼ね備えた僕に、なぜか花崎さんやら雪本さんやらが攻撃を仕掛けてくる。僕は一生安定したぼっちライフを送りたいだけなのに。

 頭をかきむしる。ひどく疲れる。なにしろ普段は全く動かさない口の筋肉、短い業務連絡しか震わない喉が悲鳴を上げている。

 そしてまたインターホンがなった。カメラを確認する。今度は雪本さんだ。今日は厄日か。

「あの・・・・・・雪本です。すみません、旅行行ってきたのでお土産を渡したくて」

 ・・・・・・気持ちは非常にありがたいが、僕に渡しても一円のメリットにもならない。クラスのモテモテ集団、イケメン集団、人気者集団あたりにでも渡したほうがよっぽとそのお土産は効果をもつ。彼らなら女子の気持ちを巧みに突いた言葉と、気の利いたお返しをプレゼントしてくれるだろう。そしてぼっちとつるむ者は迫害されるのが僕の経験則。

 ここから導き出される最善の手段は、居留守だ。執るべき手段は何も変わらない。

「いない・・・・・・のかな。せっかく持ってきたのに、このお土産・・・・・・どうしよう。初めてできたお友達に渡すってお母さんに言って来たのに、結局私は・・・・・・」

 いつから僕と雪本さんは友達になったんだ。ただの同じ図書委員、ただの隣の席の一生徒である。しかもその要素は昨日追加されたばかりだ。あ、雪本さん、目が潤んで、今にも泣きそうな様子だ。まったく、なんなんだ!

「はい、前田です。どちら様でしょう」

 あえてインターホン越しに話す。いきなりドアを開けるのは、先程の花崎さんとの一件もあり危険だ。

「・・・・・・ぐすっ・・・・・・あっ雪本です、お土産をですね、前田君いますか」

「はい、前田君です」

「あっ、えっ、そのごめん・・・・・・なさい・・・・・・その、お土産渡してたくて」

 ここで僕の本心をさらけ出すのは野暮である。大人な対応をしよう。

「わざわざありがとうございます。玄関開けます」
 ドアを開けると、すこし目を赤くした雪本さんが立っていた。服のことはよくわからないので名状しがたいが、かわいらしい長いスカートに長袖の服だ。それ以上はわからない。

「あの、これ旅行のお土産です。あっ口に合わなかったら捨ててくれていいですから」

「・・・・・・お饅頭ですか!わざわざありがとうございます!おいしくいただきますね」

 圧倒的社交辞令定型文こそ、コミュ障の強い味方である。

「よかった・・・・・・」

「雪本さん、どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないです。明日から一緒に図書委員頑張ろうね」
 そう言うと、もじもじ恥ずかしそうにして、雪本さんはそこから逃げ出すかのようにさっと帰って行った。

 その後耳にした言葉は、「あっらー、カップル?朝からいいわね~」「なんか言い合ってるわ~、若いっていいわね!」

 まだ居たのか、近所のおばちゃんズ。どうやら高校生だけではなく、ここら一帯に住むおばちゃんも同様に恋愛脳のようだ。

 そんな話は徒労に終わることも知らずに、嬉々としておばちゃん同士の会話は弾んでいる。僕はぼっちだ。誰からも好かれず、自分の愛するぼっち道を貫き、空気と化している(はずの)この僕に、そんな青春は訪れることはない。

 ひねくれて、小説やラノベに出てくるどんなぼっち系ひねくれ主人公よりもねじ曲がり、性格が悪いと言われようとも、潔いまでに開き直った僕に何が寄ってくる?答えはもう自分の中で出ている。
 誰とも結ばれることはない。恋人?友人?親友?愛人?あらゆる人との良好な関係を示す言葉は、僕の人生には出てこない。卑屈といわれても仕方ない。

 しかし、後になってわかったことだが、これはちょっと不思議な力を持った男子高校生のぼっち生活の記録ではなかった。
 恋愛物語の序章であった。
 言うなればこれは「誰とも結ばれることのない恋愛物語」だ。

 これから可愛く言えば「ドタバタ劇」が起こるだろう。そして僕はひねくれ続けるだろう。
 そして、唐突に死ぬ。

 過去の僕にこの力を授ける。未来の僕が作ったオリジナルの力だ。悩むことはない。僕は今のままでよい。種は巻いた。未来を変えてくれ。自由な未来を守るために。
未来の僕

 夜、ぼっちのライフを充足するはずのオアシスたる土日が毒沼土日となり、ライフが尽きかけの中、以前送られてきたアドレスとは違う、しかし送信者は同じ「未来の僕」からのメールが届いた。今日までの出来事が小説のように記載されていた。
 何も考えたくなかった。ただの迷惑メールと割り切り、それ以上は考えずブラックリストに登録して眠ってしまった。
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