まっくらなショー

卯之はな

文字の大きさ
1 / 1

まっくらなショー

しおりを挟む

わたしは、お店のショーウィンドウから街を眺めている まねきん。

ずっと、みんなを見守っているの…。

まっくらなショー

奥さまがお洋服屋さんをきりもりしているんだけれど、
めっきり売れない。

それでも、お客さまはやってくる。
お茶会をしに。

奥さまはお客さまのためにあらかじめ作っておいた
自慢のアップルパイをテーブルにおくと、にぎやかに話し始める。

ほぼ毎日やってくるけど、
毎日違う話題がでる。
わたしは外に出ることはないから、外の話を興味津々で聞いていた。

紅茶の香りが消える頃には、
それぞれ帰り支度をする。

 またね

 また遊びに来るわ

笑顔でお別れをしたあとは、少しさみしそうに片付けをしていた。



お店番が長引くと、
退屈しのぎに奥さまの試着のファッションショーがはじまる。
それがおかしくて、かわいくって、わたしは心のなかで微笑んだ。

でも毎日かかさずやっていたことは…
わたしのお手入れだった。
ほこりがかぶらないように全身を拭いてくれて、
すてきな服に着せ替えてくれる。

奥さまは、まねきんのわたしにやさしかった。



この家には夫妻のほかに、住んでいる動物がいる。
いたずら好きの子猫だ。

子猫はわたしにもちょっかいを出したことがある。
足元をちょろちょろと駆け回るものだからくすぐったかった。



奥さまも旦那さまもお出かけをしていた、ある日。

その子猫がドアの隙間からお店に入り込んできたの。

普段入れない場所だからもの珍しそうに店内を見渡していた。

そして、興味をそそられたお洋服にがしっとしがみつく。

あぁ! だめよ。
奥さまが大切にしているお店のものを傷つけちゃ。

わたしはことを見守ることしかできなかった。

そのとき。
夫妻がかえってきた。
居間に子猫がいないことに気付いた奥さまが、お店にやってくる。
まだじゃれついていた子猫を抱いて一言。

 わたしが開けっ放しにしていたのが悪いのよね

奥さまは、やさしく猫を抱いて居間に帰っていった。

奥さまは、まねきんにも…子猫にもやさしかった。



前に、奥さまと旦那さまが居間でけんかしていたときがあった。
泣きじゃくった奥さまがお店に転がり込んできて、
いすに座って泣いていた。

ずっと。 ずっと。

そのうち、なんだかいい匂いがしてきた。

旦那さまがばつが悪そうに、その香りをつれてきた。

 ごめんね

奥さまは最後の涙をぬぐった。

 いいのよ

そして、旦那さまが作ったアップルパイを一緒に食べた。

それは、奥さまが作るよりいびつなものだったけど…
奥さまは最高の笑顔で頬張って、
お皿にもった大きめなアップルパイを食べきった。



そんな仲の良かったふたりなのに、
奥さまがある日、ぱったりと姿を表さなかった。
お店はずっと締め切ったままで、お客さんも入るに入れない。

シャッターを叩いたお客さんに気付いた旦那さまは、
廊下にある扉を開けた。

会話の内容は遠くて聞こえなかったけど、
お客さんのすすり泣く声だけはしっかり聞こえた。



それから、旦那さまはわたしにお洋服を着せた。
それは、よく奥さまが着ていたお気に入りの花がらのワンピース。

 今まで、見守ってくれていてありがとう

旦那さまがそう言った。
まるで、わたしが生きてここに存在していたかのように。



わたしはずっと、暗いお店でひとりぼっち。
でも、さみしくない。
奥さまのための華やかなファッションショーは、
ずっと続いていくのだから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

ふしぎなえんぴつ

八神真哉
児童書・童話
テストが返ってきた。40点だった。 お父さんに見つかったらげんこつだ。 ぼくは、神さまにお願いした。 おさいせんをふんぱつして、「100点取らせてください」と。

魔女は小鳥を慈しむ

石河 翠
児童書・童話
母親に「あなたのことが大好きだよ」と言ってもらいたい少女は、森の魔女を訪ねます。 本当の気持ちを知るために、魔法をかけて欲しいと願ったからです。 当たり前の普通の幸せが欲しかったのなら、魔法なんて使うべきではなかったのに。 こちらの作品は、小説家になろうとエブリスタにも投稿しております。

ふしぎなおばあちゃん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
おばあちゃんは、病気で寝込んでいました。 ベッドの上で、おばあちゃんは、いろんなことを考えていました。

サッカーの神さま

八神真哉
児童書・童話
ぼくのへまで試合に負けた。サッカーをやめようと決心したぼくの前に現れたのは……

処理中です...