最弱かつ最強の魔獣掃除人

もぐのすけ

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10話 出来損ない

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 翌日、早々にアイトヴェン町へと向かった私達は道中に時々現れる魔物を討伐しつつ、夕暮れ時には町に着くことができた。
 団員のみんなには先に宿舎で休むように指示し、私は町長さんの元へと話を聞きにいくことにした。

「お待ちしていました騎士様。遠いところご足労頂き感謝致します」
「状況を教えてください。憲兵や傭兵では対処出来ないと聞きましたが……」
「はい、実は…………」

 町長さんの話では、およそ1ヶ月ほど前から直近の森林地帯において見慣れない黒ずくめの男達を見かけるようになり、その頃から6足の獣が森林地帯を徘徊するようになったという。
 その獣は獰猛性が強く素早いということで薬草などを採りにきた人を襲い、戦いに慣れていない神獣では殺されてしまうケースが多発してしまっているらしい。

 憲兵の人達は神獣の実力に自信があるというわけではないから討伐が難しいというのは分かるけれど、傭兵の人の中には冒険者として戦い慣れている人達もいるはずなのに、その人達ですら討伐が困難というのは気になる。
 それに黒ずくめの男達。
 そもそも今回私達騎士団が派遣された理由の主な理由はそっちがメインなのよね。
 森林地帯は明確に私達の領土だから、もしその人達がフォースの人達だったら明確な領土侵犯だ。
 魔物討伐どころの話じゃなくなってしまう。

「明日、明るくなった頃に調査に向かいます」
「よろしくお願い致します」

 その日は用意して頂いた宿舎で休み、次の日の朝、私達は森林地帯へと向かった。
 木々が深く生い茂っている場所で、太陽の日は既に昇っているというのに森の中は光が遮られ、雨でも降った後なのかと思わせられるほど湿気っていた。

「足元が不安定です。気を付けてください」

 団員に対して注意を促し、2隊に分かれて隊列を組み、散策することとした。
 私の隊は私を含めて6人になる。
 行動指揮は私が取っているけど、部隊の戦闘指揮は班長に任せている。
 班長が真ん中に位置し、他の団員4人が班長の前に扇型に展開して進む騎士団のセオリーな陣形。
 私は班長のさらに後方につき、全体を見渡せる位置にいた。

「副長、改めて確認ですが、6足の魔物が現れた時は生捕りでなく討伐でよろしいのですよね?」
「はい。今回の魔物は普段討伐しているようなレベルアップのための魔物とは違います。憲兵や傭兵でも対処出来ないということですので注意してください」
「ははは、我々は王国のエリート部隊です。選ばれなかった憲兵や冒険者風情などとは違いますよ」

 班長のダルゲンさんが笑い飛ばすように言った。
 騎士団に入っている人達のほとんどが四ツ星の神獣を持つ人達だ。
 エルロンドもそうだったけど、中には貴族の人も多く、選民意識からか憲兵や傭兵の人達のことを酷く下に見ている人達が多い。
 良く言えば実力さえあれば私のように認められる世界ではあるけれど、差別的な思想は私に取ってあまり気持ちのいいものではなかった。


 森の中に入ってから1時間ほど経った。
 特に魔物と出会うことなく、静かな時間だった。

「副長…………少しおかしいと思いませんか?」

 ダルゲンさんが違和感を覚えたように、私もその不審さに気が付いていた。

「ええ…………静か過ぎ・・・・ますね」

 ここまで一度も魔物と接触していないんだ。
 この森は元々一般の人が薬草の材料や山菜を取りに来るには危険な場所で、今回の目撃情報もクエストを受けた冒険者からだった。
 6足の魔物ならともかく、普通の魔物すらもいないというのはさすがにおかしい。

「何か不気味ですね……」
「副長!左正面です!!」

 団員の声で左正面をすぐに確認する。

 いた。
 6足の獣。
 姿形は狼に似ている。
 だけど…………とても歪だ。
 まるで狼になり損ねた昆虫のようにも見える。
 サソリのような顔で、口元がカチャカチャと不気味に動いていた。

「戦闘準備だ!!」

 ダルゲンさんの声で全員がカードを手元に召喚する。

「「「顕現!!」」」

 カードから放たれた光がそれぞれ形を成して神獣となる。
 全員が四ツ星の神獣であり、中でもダルゲンさんは騎士団に入団してから20年が経っているベテランだ。
 戦闘において遅れは取らないと思う。

「敵は一匹だ!確実に対処……を…………」

 一体今までどこにこれほどの数が隠れていたのか。
 6足の魔物は一匹だけではなかった。
 私達の周りをぐるりと囲むようにして大量の魔物が突如として現れた。

「う……嘘だろ……」
「撤退です!!」

 私がすぐさま指示した。

「そんな副長!?魔物ごときに撤退するなどありえませんぞ!?」
「魔物の強さが分からない以上、包囲網を抜けないと危険です!態勢を立て直すためにも一度引きましょう!」
「ぐっ…………了解!!撤退だ!!」
「私が道を作ります!!顕現!!」

 私はカードからレオを召喚した。

 同時に魔物達が一斉に飛びかかってくる。
 その速度は今まで見たどの魔物よりも速かった。

「レオ、咆哮シャウト!!」
「ガオオオオオオ!!!」

 私は元来た方向に向かって指を差し、レオのスキルを発動した。
 レオの咆哮によって後方にいた敵や木ごと全てまとめて一直線に吹き飛ばした。

「今です!!」
「撤退撤退!」

 私はそのままレオの背中に乗り、殿を務めるとともに撤退をしようとした。
 だけど私は視界の端に黒ずくめの男が立っていたのを見つけてしまった。
 まるで私達の動向を監視していたかのように、男はこちらを見ていた。

「皆さんはそのまま撤退しつつ迎撃を!私は一度離れます!」
「副長!どちらへ!?」
「主犯を見つけました!」

 男は私と目が合ったことに気が付いたのか、反転して逃げ出した。

「待ちなさい!」

 ここであの男を逃してはいけない気がした。
 レオは魔物を吹き飛ばしつつ、軽快なステップでかわしながら男を追いかけた。

 男の人の逃げ足は速かった。
 魔物の妨害はあるにしてもレオはあまりスピードを落としていない。
 それなのに距離があまり縮まらないんだ。
 あそこまで早く動ける人も騎士団の中ではみたことがない。

「こうなったら…………レオ、咆哮シャウト!」

 再びレオがスキルを使って攻撃をした。
 先程よりも距離は伸びないけど、避けられないように前方広範囲に衝撃波を放った。
 衝撃波は男の人に命中し、うまくガードをされてダメージを与えるほどではなかったけど足止めをすることには成功した。

 男の人は観念したのか逃げるのをやめた。
 フードを深く被っているせいで顔は見えない。
 私はレオから降りて剣を抜いた。

「逃がさないよ。貴方が6足の魔物を発生させている主犯ね?」
「………………アトラス王国騎士団、第五番騎士隊副隊長リオナ=ベルガード」
「どうして私の名前を……!?」

 男の人の声はまだ若く聞こえた。
 姿が分からないからか、この人からは不穏な気配を感じる。

「今の時代、情報こそが最大の武器だ。情報戦を制するものは世界を制すると言っても過言ではない。五ツ星の神獣を手にしている者を俺達が把握していないわけがない」
「貴方は一体…………何者なの」
「俺はお前のことを知っている。だがお前は俺のことを知らない。そしてこの立地。初めて来たと言わんばかりのお前達と準備をしてきた俺達。既にアドバンテージに差があると思わないか?」
「逃げたんじゃなくて…………誘い込んだと言いたいのかしら?」
「世界でも希少な五ツ星の神獣持ち。まさか釣れたのがこんな大物だったとは…………実験には丁度いい」

 男の人が指をパチンと鳴らすと、空間に裂け目がいくつも生まれ、6足の魔物が現れてた。

 (やっぱり魔物を操っていたのはこの男……!)

「かかれ」

 男の人掛け声で魔物が一切に襲ってくる。
 通常の魔物よりは危険だけど、レオの敵ではないことは既に分かっている。
 前方、左から来る6体の魔物はレオに任せて、右からくる2体の魔物に対して正対した。
 騎士団で訓練してきたのは神獣を用いた戦闘訓練だけじゃない。
 アルは剣術においても秀でていた。
 だから私もアルに負けないように剣術も鍛えたんだ!

「はあああ!!」

 飛びかかってきた魔物の攻撃をかわすと同時に足を一本切り落とした。
 続けて2体目の魔物の噛みつきを剣で防ぎ、押し返しながら蹴り飛ばした。
 足の1本程度ではものともしないのか、先程の魔物が地を這うようなスピードで突っ込んできたのを確認し、私は下から上に剣を振り抜くようにして魔物を真っ二つにした。
 蹴り飛ばした魔物が再び襲いかかってきたので、大きく横に開いた口に向かって剣を突き刺し、串刺しにした。

 レオは既に6体の魔物を倒しており、1体は咥えて噛み殺している状況だった。

「試作段階とはいえ『出来損ないフェアリア』を苦戦することなく自身の力で倒せるか。参考になる。ではこれはどうだ」

 男の人が再び指を鳴らすと空間に裂け目が生まれ、先程までの歪な生き物ではなく4足の狼に近い魔物が現れた。
 その魔物の体には微弱ながらも黒いオーラが纏われていることに私は気が付いた。

 どこかで見たことがあるような……。

「これもまだ試作段階ではあるが…………出来損ないフェアリアの中では成功作だ。かかれ」
「レオッ!」

 魔物が瞬時に動く。
 先程の魔物達よりもさらに速い。

 (魔物の動きを見極め…………ここっ!!)

 魔物の攻撃を剣で防いだ。
 そして初撃を防いだところで横からレオが魔物に飛び掛かる。
 レオ達は揉み合いながら転がり、レオが魔物を組み伏せた。

咆哮シャウト!」
「ガオオオッッ!!」

 至近距離で魔物に向けてスキル発動。
 地面がぐらつき、跳ね返った衝撃波が木々を揺らした。
 魔物は体の内側から破裂し、弾けた。

「ほう…………」
「魔物を出す貴方をこのまま放ってはおけない。拘束します。レオ!」

 レオがすぐさま男の人へと走り出し、右前足を振り下ろした。
 多少の怪我を負わせてしまうけども仕方ない!

「充分なデータは取れたか…………残るは俺自身の確認」

 派手に衝突するような轟音が鳴り響き、空気が大きく震えた。
 大地をも砕くレオの一撃を、男の人は片手で防いでいた。

「そ、そんな……!?」
「五ツ星といえど、恐らくレベル20前後ではこの程度か…………ふんっ!」

 浮いているレオの腹部目掛けて、男の人が空いた片手で拳を入れた。
 3m近くあるレオの巨体が軽々しく吹き飛んでいった。

「レオ!!」
「殺す気で殴ったのだが…………さすがに丈夫だな」

 レオが一撃で沈められてしまった。
 神獣ではない普通の人にだ。
 私はこの3年間、少なくとも誰かを守ることのできる力を身に付けることができたと自負していた。
 だけど現実は甘くない。
 神獣でなくとも人の力だけでレオの一撃を防いで、一撃で倒せる人がいるんだ。
 人の力は…………あそこまで強くなれるものなの?
 私が目指していた世界は一体…………。

「レオ…………自動回復オートヒール

 レオの傷がみるみるうちに回復していき、立ち上がった。
 しかし、傷が治ったところで状況が好転したわけじゃない。
 それほどまでにあの人と私達では実力差が離れている。

「そんなスキルが残っていたか。攻撃系はえるだけで間違いなさそうだが」
「まさか…………魔物をけしかけることでレオのスキルが何かを確認したというの…………!?」
「言っただろう情報が全てだと。レアリティとレベルはカードでも確認は出来るが、危険なのはスキルだ。ものによってはレベル差やレアリティすらも覆す可能性がある。五ツ星のレベル20前後であれば、基本的にスキルは一つか二つだからな」

 この人は…………戦い慣れている。
 レオを一撃で倒す力があるにも関わらず、勝ち筋をしっかりと見極めていた。

「さて…………貴重な五ツ星の神獣持ち。殺しはしないから安心しろ。だが、俺達の元へ来てもらう、実験台としてな」

 逃げる選択肢しか…………!!
 でもレオとの距離は30m近く離れている。
 レオと同じくらいの速さで逃げていたあの人であれば、私がレオと合流する前に私を捕まえることができるはず。

「うう…………」

 男の人がジリジリと近づいてくる。
 考えてるヒマはない。

 一か八か──────

「まだ生きてるか?」
「っ!」

 私と男の人の間に、突然として人が割り込んできた。
 年季が入ったであろう茶色い外套がいとうをなびかせ、腰に携えた剣に手を掛けていた。
 その人は私に安堵の表情を向けた。

「間に合ったみたいで…………良かった」
「………………ア、アル……!」

 私の心は喜びで大きく宙返りをした。
 当時の面影をしっかりと残しながらも身長はさらに伸び、一段と逞しくなったアルの姿がそこにはあった。

 でもどうしてここに??
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