最弱かつ最強の魔獣掃除人

もぐのすけ

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11話 正体

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【アルバス=トリガー】

 なんとか間に合うことができた。
 まさか調査に来ていた騎士団が、リオナ達のことだとは思わなかった。

「お前は…………アトラス王国の魔獣掃除人ビーストスイーパー、アルバス=トリガーだな?」
「俺のことを知っているとは驚いたな」
「俺達の中では有名人もいいとこだ。要注意人物としてだがな」

 フードを被っていて顔は見えないが、俺がここに来た目的の人物であることは予想できた。
 五ツ星の神獣を持つリオナが苦戦するレベル。
 こいつは恐らく──────。

「さすがに魔獣掃除人ビーストスイーパーと今戦う予定は無い。大人しく引かせてもらおう」
「そりゃありがたいな」
「次会う時が楽しみだトリガー」
「───なんて、逃すと思うかよ」

 フードの男目掛けて後方上空から、神獣【天翔鷹ホークレンス】の足に掴まった師匠が剣を構えて猛スピードで突っ込んだ。
 男はギリギリのところで気付いたのか横に跳び、攻撃をかわした。

「ちぃっ!すまんアルバス、外した!」
「さすがにそんな上手くはいかないか」
「不意打ちとは…………やってくれる…………!!」

 師匠が神獣から離れ、俺の近くへ降り立った。
 できれば今の一撃で決めたいところではあった。
 決めきれないのであれば仕方ない、プランBに変更だ。

「アル…………どうしてここにいるの?」
「話せば長くなるんだけど……」


 ────────────

 ──────

 ───


 ~5日前~

『アトラス王国領土内、アイトヴェン町近くにある森林地帯において、【災厄】が発生します』

 世界に8つある大国の一つ、天神てんじん教団の聖地フェイス皇国。
 そこの魔獣掃除人ビーストスイーパーであるアレクシア=ルーリアには、災厄が起こる場所を予知することができる未来視の力を持っていた。
【災厄】とはすなわち、魔獣の発生のことである。
 そして今回、予知された場所は奇しくもアトラス王国の領土内であった。

『師匠、人のいないはずの森林地帯で魔獣が生まれるっていうのはおかしくないですか?』

 師匠…………ヴァリアス=シューターは俺の質問に頷いた。

『場所もそうだが魔獣が出現する頻度もおかしい。前回予知が行われたのは3ヶ月前だぞ?現れるスパンが異常だ』
『彼女の予知がなかったら世界は終わってますね』
『今回の予知は少し警戒した方がいいかもしれないな』

 これまで、アレクシアの未来視のおかげで魔獣が成長する前に討伐することができているため各国の魔獣討伐人ビーストスイーパーに死者は出ていない。
 しかし、ここ3年の間に魔獣の出現回数は10回を超えている。
 数年に1回のペースだった頃からしたら異常な数値だった。

 そして俺達は5日かけてアトラス王国領土内へと戻ってきた。
 軽く情報収集を済ませたところで見慣れない生物がいるという話を聞き、すぐに森林地帯へと入り込む。
 すると森の奥から騎士団が走ってきた。

『何で副長は一人で離れたんだ!』
『主犯を見つけたと言っていて…………』
『単独で追うなどと…………判断能力に若さが出たか…………!』

 主犯……?
 騎士団がここに来ているということは、町から応援要請が掛かったということ。
 それは憲兵や傭兵では手に余る案件…………つまりは【災厄】に関係している案件。
 その主犯を単独で追いかけている人がいるのか。

 そういや噂ではリオナも副長に昇進したって話だったな…………。

『師匠』
『ああ。騎士団が出てきた方向を広範囲に索敵すればいいんだな…………顕現』

 師匠が自身の神獣を召喚した。
 師匠の神獣は二ツ星の鳥型で、とてもじゃないが戦闘で戦えるようなステータスはしていない。
 だけど空から索敵するには便利すぎるスキルを持っている。

天翔鷹ホークレンス反響エコー

 空高く飛んだ神獣がキィーッと大きく鳴いた。
 そしてすぐさま移動を開始する。

『どうやら人間の反応を見つけたみたいだ』
『万が一見つけた場合は俺が先に姿を表します。師匠は状況を見て動いてください』
『ああ』


 ───

 ──────

 ─────────

 という流れで俺達はここまでやってきた。
 だが今それを長々と説明するわけにもいかない。

「とある情報筋から情報を得て仕事をしにきた」
「仕事…………なるほど」

 仕事ということでだいたいの察しはついたはずだ。

「そっちは…………ヴァリアス=シューターか。最近は冒険者として有名みたいだな」
「私のことも知っているとはな。いよいよ逃すわけにはいかない」
「…………だいぶ予定が狂ってしまった。出来損ないフェアリアのデータと実験体の確保だけのつもりだったんだが…………そもそも魔獣掃除人ビーストスイーパーが俺のような普通の人間を捕まえようというのが間違っているんじゃないのか?」
「普通?」

 俺は頭を捻った。

「普通の人間だって?面白い冗談を言うな」
「…………なに?」

 よくもまぁ堂々と普通の人間だなんて言えたもんだ。
 そもそも魔獣掃除人の存在を知っている時点で普通ではない。
 それに、俺は既にこいつの正体に確信を持っていた。

 ゆっくりと黒ずくめの男を指差す。

「お前………………魔人だろ」

 俺の言葉に対して男は反応を示さなかった。
 否定するわけでもなく、動揺する様子もない。
 それが逆に怪しさを際立たせていた。

「魔人って確か……」
「心の壊れた人間。魔獣を使役する人間のことだ」

 師匠がリオナに対して説明した。
 人の心が憎悪にあてられて魔獣を生み出した時、その人間は魔人と呼ばれる。
 一般的な常識ではなく、一部の人のみが知る秘匿された情報だ。

「でもっ、私が昔見た魔人は自我が無いように見えたよ!?あの人は普通に受け答えもできるし……心の壊れた人には見えないよ」
「それについては俺も理由は分からない。だけど魔人は普通の人間とは違って一目で判断できるものがある。奴が着ている黒ずくめの服、理屈は分からないがそれで隠してるんだろうな」
「…………中々に頭もキレる奴のようだな」

 男はフードを外して素顔を表した。
 褐色の肌に長髪の白髪が一際目立ち、年齢的には俺やリオナと一回り違うぐらいだろうか。
 そしてフードを外したことによって魔人特有のオーラが可視化されるようになった。
 本人から漏れ出ているような黒いオーラが男の体の周辺を包み込んでいる。
 これこそが人と魔人の一目で分かる決定的な違いだ。

 男の着ている黒ずくめの服、きっとアレが魔人のオーラを隠し込む役割をしているのだろう。

「いかにも、俺はお前らが言うところの魔人だ」
「意志がある魔人…………アルバス、これは八カ国緊急招集会議を開く案件だぞ!」
「なぜお前は魔人になりながらも自我があるんだ?」
「話せばこの場を見逃してくれるのか?」
「そんなわけないだろう。話さなくてもお前は拘束して連れ帰る。ナナドラ」

 俺はカードを手元に召喚させた。

「…………噂には聞いているぞアルバス=トリガー。お前の神獣も普通ではないらしいな」
「お前の魔獣よりかはよっぽどまともだよ。スキル『七大進化、歓喜ラプチャー』」

 カードに表記されているデータがキュラキュラと書き変わっていった。


 ──────────────────

【ナナドラ】 Lv8

 ○攻撃力:80
 ○防御力:80
 ○素早さ:80
 ○特殊能力:80

 スキル:『七大進化【悲哀、歓喜、慈愛、???、憤怒、???、???】』

 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

歓喜の龍神ラプチャー・オブ・ドラゴン】 ☆☆☆☆☆☆☆ Lv8

 ○攻撃力:6500
 ○防御力:6500
 ○素早さ:6000
 ○特殊能力:6000

 スキル:『次元一閃ディメンション・スラッシュ

 ──────────────────

「顕現」

 カードから光が飛び出し、稲妻のような轟音と共にナナドラが姿を変えた神獣が俺の前に現れた。
 歓喜の龍神ラプチャー・オブ・ドラゴンは二足で立つ人型のタイプで、全身が緑色の龍の皮膚のような鎧に包まれており、右手には巨大な方戟を手にしている。
 人型とは言っても本質的には龍であり、言葉を発することはできない。
 それができるのは何故か慈愛の龍神チャリティー・オブ・ドラゴンの時だけだ。
 あれは完全な人型になる。

「ナナちゃん……また変わった?」
「ああ。ナナドラの新しい姿だよ」
「なんという威圧感…………!素晴らしい神獣だ……!」

 男はまるで神でも見るかのような目で俺の相棒を見ていた。
 その手にはカードがあり、相棒のステータスを見ているようだった。
 スカして見ているということはコイツの魔獣は既に顕現されているはずなのだが、どこにもその姿がないのが気がかりだった。

「このレアリティ…………!もしもこの神獣が魔獣に変わったとするならば…………とんでもないことだ!!」
「俺の相棒を視姦するのは構わないけど…………自分の心配でもしたらどうだ?」

 相棒が動いた。
 その動きは既に俺ですら目で追うのも難しいほどのスピード。
 圧倒的な速さから繰り出される方戟の一振りが魔人を襲った。

 ドォォン!!

 雷でも落ちたかのような轟音が鳴ったと思えば、魔人は大きく吹き飛ばされていた。
 しかし、すぐに受け身を取って態勢を立て直した。ダメージを負っている様子はない。
 奴は相棒の一撃に対して懐にあった剣を抜き出して受けることで防いだんだ。
 剣は一撃で粉々に砕け散ったが、恐るべきは奴の反応速度。
 剣で攻撃を受けると同時に奴は後ろに跳ねて威力を殺しやがった。
 一瞬の判断でそこまでできるのは普通じゃない。

「アル、魔人っていうのはあんなにも人間離れな動きができるものなの?」
「魔人はそもそも魔獣のエネルギーの供給源でしかないはずなんだ。魔人の憎悪の力を糧として魔獣は強大な力を得る。だがそれは同時に魔獣と繋がっている魔人も恩恵を受けることになる。本来の魔人は自我がないからそこまで脅威になり得ないんだが…………奴は違うみたいだな」
「だ……大丈夫なの?」
「ああ、余裕だよ」

 再び相棒が動いた。

 確かにあの魔人は自分の意思で魔獣の力を使いこなしている。
 並の神獣じゃ魔獣と同程度の力を持った人間なんて倒すことは出来ないが、生憎と俺の相棒は並の神獣じゃあないからな。

「ぐ、ぬっ」

 相棒は上から振りかぶるように方戟を振り下ろした。
 その一撃を魔人は右腕で防ごうとし、バッサリと切り落とされた。

「うおお!?」
「ラプチャー、次元一閃ディメンション・スラッシュ

 相棒が方戟を横に構え、180度体を後ろに捻る。
 方戟がぐるりと一周してしまっている。

「足を狙え」

 俺の指示と同時に方戟を尋常ではないスピードで横に薙いだ。
 あまりの衝撃に空間がぐにゃりと歪み、放った先の空間が波打ったかと思えば魔人の両足は既に切り落とされていた。

「なんという…………強さ……!!」

 ドサリと右腕と両足を無くした魔人が地面に落ちた。
 さすがに左腕一本では何も出来ないだろう。

「勝負アリだな。私が奴を拘束しよう」
「す……凄い…………!!凄いよアル!こんなに強くなったんだね!!」
「ほとんどナナドラのおかげなんだけどな」
「私がアルを守るつもりだったのに…………あーあ、知らない間に差がついちゃったなぁ」
「リオナが俺を守る時なんて今後も来ないよ。俺が常にリオナを守るからな」
「もー何ですぐそんなマウント取ろうとするのー?」

 リオナこうやって話すのも3年ぶりなのか。
 久しぶりのはずなのに、リオナはあの頃と全く変わっていないみたいだな。
 いや…………それは俺も同じか。

「ふ…………ふふ」

 不意に魔人が笑った。
 まだ笑えるような余裕があるのか?

魔獣掃除人ビーストスイーパーアルバス=トリガーのデータは充分すぎるほど取れた」
「あっ、もしかしてこいつ!」
「またいずれ会おう」

 魔人はニタニタとしたニヤケ面を顔面に貼り付け、残った左手で指をパチンと鳴らすと空間に裂け目が生まれた。

「ラプチャー!!」

 相棒が動き出したと同時に裂け目から蛇のようなものが現れ、魔人を咥えて裂け目の中へと消えていった。
 相棒もすんでのところで間に合わず裂け目は綺麗に閉じられてしまい、魔人を逃してしまった。

「くそっ逃げられた!」
「一瞬見えたアレはもしかして魔獣か?」
「そうです。あの次元の裂け目のようなものは魔獣のスキルなんでしょうね。奴は魔獣をずっと裂け目の中に待機させていたんですよ。最初から逃げるための布石は置いていたわけで…………どんだけ用意周到なんだよ」
「それじゃあ…………あの人が空間から魔物を生み出していたのも…………」
「魔獣のスキルを魔人が使用していたってことだろうね。逃したくなかったな」

 魔獣を殺せば魔人は力を失う。
 それが分かっていたからこそ、奴は俺の前に魔獣を一度も現さなかったのか。
 魔人云々の前に、奴の戦い方が非常にやりづらくて厄介だぞ。

 何はともあれ、未来視によって予知された災厄とはこのことだったんだろう。
 あそこまでの致命傷を負わせた以上、治癒系等のスキルが無ければ奴は何も出来ないだろう。
 歓喜の龍神ラプチャー・オブ・ドラゴンはナナドラの姿に戻り、ヒョロヒョロと飛びながら俺の頭の上に乗っかって眠そうにアクビをした。

「それにしても、リオナはどうしてここにいたんだ?」
「それは───」

 リオナからある程度の話を聞いた。
 見知らぬ男と謎の魔物の発生を調査するため。
 謎の魔物というのはそこら中に散らばっている魔物の死体のことだろう。
 これらもあの魔人が操っていたのなら、今後の貴重なサンプルになるはず。

「だがリオナ嬢、単独で主犯を追いかけたというのは良くない判断だな」
「うっ…………そうですよね」

 師匠が嗜めるようにリオナに忠告した。

「騎士団の戦闘は基本的に五人一組。いくら指揮官として浮いている駒だからといって単独で戦ってしまっては、五ツ星の神獣持ちとはいえ囲まれれば殺されかねない。そうすれば二度と神獣は生き返らないんだぞ」
「すいません…………おっしゃる通りで…………」
「自分の力に自信を持つことは大事だが、過信してはいけない。神獣は道具ではなく自分の分身であると理解する必要がある」
「うう………………」
「指揮官というのは判断を間違えてしまえば部下を危険にも晒してしまう恐れがあり、部下からの信頼の構築も──────」
「師匠ストップストップ!!久しぶりに会ったのにそんなに追い込む必要ないじゃないですか!」

 止まらない指導にリオナがシュンとしてしまっている。
 久しぶりに師匠の悪いところが出た。
 ハッキリ物事を告げる性格というか、言い方に配慮が足らずに棘があるような言い方になる。
 旅に出始めた頃は俺もよくグチグチ言われたものだ。

「む、すまない……」
「いえ……ヴァリアスさんの言う通りです……」

 ポロリとリオナの頬に雫が伝う。

「あーあーリオナを泣かしたよ師匠これどうすんの」
「なっ!?まさか泣くほどとは!すまないリオナ嬢」
「これはもうロートルおじさんにチクるしかないね」
「勘弁してくれ!!」

 ロートルおじさんに説教される師匠、見てみたいかもしれない。
 まぁ冗談はこれぐらいにして、今後の展開としてかなり忙しくなるかもしれない。

 多発する魔獣の存在。
 自我を持つ謎の魔人。
 奴の言い分からすれば自我を持つ魔人の存在は、奴一人だけではない可能性がある。
 各国の魔獣掃除人ビーストスイーパーと連携して、これに対処していかなければいけなくなるかもしれない。
 国同士の仲が悪いとしても、俺達魔獣掃除人ビーストスイーパーは別だ。
 師匠がさっき話していたように、各国の魔獣掃除人ビーストスイーパーに緊急招集を掛けて情報交換を行う必要性があるだろう。

「アル、どれぐらいアトラス王国にいられるの?」
「そんなにいられないかもしれない。魔人の情報について各国と共有しないといけないから」
「そ、そっかぁ…………」

 リオナが露骨に落ち込んだ表情を見せた。
 その顔を見て俺はすぐに心変わりした。

「…………ま、まぁ久々に帰ってきたわけだし、少し長めにいてもいいかもな」
「ほんと!?やったぁ嬉しいなぁ」

 落ち込んだ表情から一転、子供のような弾けた笑顔になった。
 昔からリオナの笑顔に俺は弱いのかもしれない。
 父さんの墓参りにも……行きたいしな。
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