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コメディ編
17話 天条珈琲
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「何故、今日集まってもらったのか……理由は分かるわね?」
ゴクリ。
思わず俺は唾を飲み込んだ。
放課後、いつもの部室において俺は海野先輩と二人きりになっていた。
だけどもそこにドキドキはない。
ビクビクならあるのだが…………。
「えっと……桐生絡みっすよね……」
「察しが良くて助かるわ」
あんたらの場合それ以外にないからな!
一択問題と一緒だから!
「今度は何やったんですか? あいつ」
「颯がバイトを始めたのは知ってる?」
「あ~なんか言ってましたね。お試しでとりあえずやってみるって。それで今日はいないんですよね」
俺のバイトを見にきた時から、バイトをやりたいというのは常々言っていたことだ。
「じゃあ美咲も今日いないのは何故か、分かるかしら?」
「あ~そういえば天条さんもいませんね。何か用事ですか?」
「颯が働いている所が、美咲の実家なのよ」
………………………………なぬ?
「だから今日は美咲もいないの」
「え、確か天条さんの実家って喫茶店ですよね? 桐生の奴、そこでバイトしてるんですか?」
「あら、知らなかったのかしら」
「知らなかったっす……」
初めて聞いたぜそんな話。
美咲ちゃんの実家でアルバイト?
つまり美咲ちゃんと?
一緒に仕事?
もうそれ婿養子じゃん。
「そんなの…………実質的に婿養子と同じことじゃないかしら」
一緒のこと言ってる。
でも俺が言うのと海野先輩が言うのとじゃ、本気度が全然違く聞こえる不思議。
「そのあたり加藤君はどう思う?」
どう思うって………………考えすぎですとしか。
でもこの答えでこの人が満足するわけないんだよなぁ。
気遣いができる男っていうのは、先に言われる前に相手が求めてる答えを言ってあげることだって本で読んだからな。
不本意だけど仕方ない。
「直接見に行くのが一番いいんじゃないですか?」
「それもそうね」
こうして俺と海野先輩は天条さんの実家である、『天条珈琲』へと向かうことになった。
「ここね……」
鷹山高校から徒歩20分。
鷹山駅を越えて瑞都高校よりの商店街の一角に、『天条珈琲』があった。
時刻は16時半と中途半端な時間ではあったが、外から見るにそこそこ人が入っているように見えた。
「人気なんですかね……」
「雑誌にも取り上げられたそうよ。主に美咲がメインだったみたいだけれど」
「ああ……なるほど」
恐らく美少女女子高生が働く喫茶店、みたいな形で紹介されたのだろう。
全く、俗世はしょうもないことで一々取り上げるからな。
「入りましょうか」
カランコロン。
「いらっしゃいま…………葵さん! キヨ! 来てくれたんだ!」
「こんにちは。席は空いてるかしら?」
「丁度1つテーブル席が空いてるよ! ご案内しますね!」
「美咲、とても可愛い服を着ているのね」
「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます!」
確かに可愛い……。
ウェイトレス姿の美咲ちゃんは可愛いさ3割マシだった。
メイド服とかそういうのとはまた違うんだが、なんというか……着こなせる人が限られてるというか、美咲ちゃんだから似合うというか……。
ちなみに海野先輩が着たら、似合うという表現ではなくギャップ萌えになりそうだ。
「お父さんが選んだ服なんです!」
美咲ちゃんの父よ、ナイスチョイスだ!
確実に自分の娘に自信がある過保護者だと断言できる!
「天条さん、桐生は?」
「颯くんなら向こうにいるよ!」
美咲ちゃんが指差した先には、執事の格好をした桐生が注文を取っていた。
様になっている。
様になりすぎて、本物の執事かと疑うほどだ。
イケメンめ。
「なんかコスプレ喫茶みたいだな……」
「………………」
「海野先輩?」
「な、何かしら?」
………………今、見惚れてたなこの人。
恋する乙女感出てたぞ。
「とりあえず席着きましょうよ」
「そ、そうね」
俺たちは案内されたテーブルに座った。
メニューを見ると、俺が働いている店よりも種類は多くはないが、この喫茶店独自のメニューがいくつかあるのが伺えた。
「何にしようかな……」
「美咲ちゃーん! 注文お願いしまーす!」
「こっちもお願いします!」
メニューを見ていると、至る所から美咲ちゃんを呼ぶ声が聞こえる。
いまさら気付いたのは、このお店の9割が男性客であったということだ。
恐らく、9割の男性客の10割が美咲ちゃん目当てだろう。
しかも鷹山高校生の姿もちらほらと見える。
あそこのテーブルに座っている3人も鷹山高校の………………チキン3兄弟だアレ。
有馬、中西、長屋のチキン3兄弟がおる。
「美咲ちゃーん!」
「可愛いよー!」
「ビューティフォー!」
気配を消すんだ俺!
知り合いと思われたら負けだ!
「美咲も凄い人気ね……」
「ははは、ソウデスネ」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
桐生が注文を取りに来ていた。
「よう、桐生。この前の仕返しで来てやったぜ」
「別に俺は困らない。どうせなら美咲の店の宣伝をしてくれ」
「つーかスゲーなその服。正規の男性用の服なのか?」
「いや、そもそも男のアルバイト自体、俺が初めてらしい。今までは美咲の親父さんが男は断っていたみたいだ」
「ならなんで桐生は特別に?」
「美咲が直接頼み込んでくれたのと、どうやら美咲の親父さんに気に入られたっぽいからな」
ははは……美咲ちゃんがスゲー勢いで頼み込んでる様が目に浮かぶ。
「雇わなきゃもう口聞かない!」ぐらい言われてそうだ。
「この服もオーダーメイドで作ってくれたみたいだ」
「マジかよスゲーな。当分はやめらんないな」
「元からそのつもりはない」
「……………………」
…………海野先輩?
さっきから何黙ってんの。
あなたがここに来たいって言ったんでしょ。
ほら桐生と話さないと。
「葵先輩も来てくれたのか」
「え、ええ。美咲のウェイトレス姿を、見に、ね」
ダウト!
目的は桐生でしょ。
顔赤くしてめっちゃ目泳いでんな。
「スゲー似合ってるよな、美咲」
「そ、そうね…………」
「海野先輩、桐生の格好はどうですか?」
「えっ!? な、なぜそんなことを聞くのかしら……?」
「そりゃ女性目線の意見も欲しいからですよ。俺から見てもコイツ、かなり様になってると思うんですけど」
「そ、そうね……。とっても…………似合ってる……と思うわ」
「………………おう」
桐生もちょっと照れてる。
海野先輩はガッツリ照れてる。
青春してんなぁ。
俺と海野先輩はそれぞれ飲み物を注文して、2人が働いている姿を眺めながらまったり過ごした。
1つ思ったのは、男性客がほとんどのこの喫茶店が、その内桐生の影響で女性客が増えそうだと思ったことだ。
そしたらまたややこしいことが起きそうな気がする。
ま、その時はその時だよな。
とりあえずこの店のカフェラテは美味かった。
ゴクリ。
思わず俺は唾を飲み込んだ。
放課後、いつもの部室において俺は海野先輩と二人きりになっていた。
だけどもそこにドキドキはない。
ビクビクならあるのだが…………。
「えっと……桐生絡みっすよね……」
「察しが良くて助かるわ」
あんたらの場合それ以外にないからな!
一択問題と一緒だから!
「今度は何やったんですか? あいつ」
「颯がバイトを始めたのは知ってる?」
「あ~なんか言ってましたね。お試しでとりあえずやってみるって。それで今日はいないんですよね」
俺のバイトを見にきた時から、バイトをやりたいというのは常々言っていたことだ。
「じゃあ美咲も今日いないのは何故か、分かるかしら?」
「あ~そういえば天条さんもいませんね。何か用事ですか?」
「颯が働いている所が、美咲の実家なのよ」
………………………………なぬ?
「だから今日は美咲もいないの」
「え、確か天条さんの実家って喫茶店ですよね? 桐生の奴、そこでバイトしてるんですか?」
「あら、知らなかったのかしら」
「知らなかったっす……」
初めて聞いたぜそんな話。
美咲ちゃんの実家でアルバイト?
つまり美咲ちゃんと?
一緒に仕事?
もうそれ婿養子じゃん。
「そんなの…………実質的に婿養子と同じことじゃないかしら」
一緒のこと言ってる。
でも俺が言うのと海野先輩が言うのとじゃ、本気度が全然違く聞こえる不思議。
「そのあたり加藤君はどう思う?」
どう思うって………………考えすぎですとしか。
でもこの答えでこの人が満足するわけないんだよなぁ。
気遣いができる男っていうのは、先に言われる前に相手が求めてる答えを言ってあげることだって本で読んだからな。
不本意だけど仕方ない。
「直接見に行くのが一番いいんじゃないですか?」
「それもそうね」
こうして俺と海野先輩は天条さんの実家である、『天条珈琲』へと向かうことになった。
「ここね……」
鷹山高校から徒歩20分。
鷹山駅を越えて瑞都高校よりの商店街の一角に、『天条珈琲』があった。
時刻は16時半と中途半端な時間ではあったが、外から見るにそこそこ人が入っているように見えた。
「人気なんですかね……」
「雑誌にも取り上げられたそうよ。主に美咲がメインだったみたいだけれど」
「ああ……なるほど」
恐らく美少女女子高生が働く喫茶店、みたいな形で紹介されたのだろう。
全く、俗世はしょうもないことで一々取り上げるからな。
「入りましょうか」
カランコロン。
「いらっしゃいま…………葵さん! キヨ! 来てくれたんだ!」
「こんにちは。席は空いてるかしら?」
「丁度1つテーブル席が空いてるよ! ご案内しますね!」
「美咲、とても可愛い服を着ているのね」
「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます!」
確かに可愛い……。
ウェイトレス姿の美咲ちゃんは可愛いさ3割マシだった。
メイド服とかそういうのとはまた違うんだが、なんというか……着こなせる人が限られてるというか、美咲ちゃんだから似合うというか……。
ちなみに海野先輩が着たら、似合うという表現ではなくギャップ萌えになりそうだ。
「お父さんが選んだ服なんです!」
美咲ちゃんの父よ、ナイスチョイスだ!
確実に自分の娘に自信がある過保護者だと断言できる!
「天条さん、桐生は?」
「颯くんなら向こうにいるよ!」
美咲ちゃんが指差した先には、執事の格好をした桐生が注文を取っていた。
様になっている。
様になりすぎて、本物の執事かと疑うほどだ。
イケメンめ。
「なんかコスプレ喫茶みたいだな……」
「………………」
「海野先輩?」
「な、何かしら?」
………………今、見惚れてたなこの人。
恋する乙女感出てたぞ。
「とりあえず席着きましょうよ」
「そ、そうね」
俺たちは案内されたテーブルに座った。
メニューを見ると、俺が働いている店よりも種類は多くはないが、この喫茶店独自のメニューがいくつかあるのが伺えた。
「何にしようかな……」
「美咲ちゃーん! 注文お願いしまーす!」
「こっちもお願いします!」
メニューを見ていると、至る所から美咲ちゃんを呼ぶ声が聞こえる。
いまさら気付いたのは、このお店の9割が男性客であったということだ。
恐らく、9割の男性客の10割が美咲ちゃん目当てだろう。
しかも鷹山高校生の姿もちらほらと見える。
あそこのテーブルに座っている3人も鷹山高校の………………チキン3兄弟だアレ。
有馬、中西、長屋のチキン3兄弟がおる。
「美咲ちゃーん!」
「可愛いよー!」
「ビューティフォー!」
気配を消すんだ俺!
知り合いと思われたら負けだ!
「美咲も凄い人気ね……」
「ははは、ソウデスネ」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
桐生が注文を取りに来ていた。
「よう、桐生。この前の仕返しで来てやったぜ」
「別に俺は困らない。どうせなら美咲の店の宣伝をしてくれ」
「つーかスゲーなその服。正規の男性用の服なのか?」
「いや、そもそも男のアルバイト自体、俺が初めてらしい。今までは美咲の親父さんが男は断っていたみたいだ」
「ならなんで桐生は特別に?」
「美咲が直接頼み込んでくれたのと、どうやら美咲の親父さんに気に入られたっぽいからな」
ははは……美咲ちゃんがスゲー勢いで頼み込んでる様が目に浮かぶ。
「雇わなきゃもう口聞かない!」ぐらい言われてそうだ。
「この服もオーダーメイドで作ってくれたみたいだ」
「マジかよスゲーな。当分はやめらんないな」
「元からそのつもりはない」
「……………………」
…………海野先輩?
さっきから何黙ってんの。
あなたがここに来たいって言ったんでしょ。
ほら桐生と話さないと。
「葵先輩も来てくれたのか」
「え、ええ。美咲のウェイトレス姿を、見に、ね」
ダウト!
目的は桐生でしょ。
顔赤くしてめっちゃ目泳いでんな。
「スゲー似合ってるよな、美咲」
「そ、そうね…………」
「海野先輩、桐生の格好はどうですか?」
「えっ!? な、なぜそんなことを聞くのかしら……?」
「そりゃ女性目線の意見も欲しいからですよ。俺から見てもコイツ、かなり様になってると思うんですけど」
「そ、そうね……。とっても…………似合ってる……と思うわ」
「………………おう」
桐生もちょっと照れてる。
海野先輩はガッツリ照れてる。
青春してんなぁ。
俺と海野先輩はそれぞれ飲み物を注文して、2人が働いている姿を眺めながらまったり過ごした。
1つ思ったのは、男性客がほとんどのこの喫茶店が、その内桐生の影響で女性客が増えそうだと思ったことだ。
そしたらまたややこしいことが起きそうな気がする。
ま、その時はその時だよな。
とりあえずこの店のカフェラテは美味かった。
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