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コメディ編

27話 ババ抜き

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「トランプを持ってきたの」

 唐突に海野先輩が机の上にトランプを置いた。
 部室で特に何もせずにダラダラしていた俺達は、特に断ることもなく、自然に席に着いた。

「内容は?」
「ババ抜きでもしようかしら」
「いいですね。一番無難な奴ですもんね」
「ディーラーは俺にやらせてください」

 海野先輩からトランプを受け取った俺は、中学生の頃に密かに練習していた、トランプの山を2つに分けて交互に重ねていくショットガンシャッフルを行った。

 バララララララララバシャッッ!!

 散らばった。

 初心者あるあるだ。
 イキッたら失敗する奴。

「あ、すいませんすいません、ありがとうございます。あ、すいません」

 仕切り直し。

 バララララバシャッ!!

 さっきよりも早い段階で失敗した。

「加藤君、次その切り方でやったら散らばった数だけ指を切り落としてもらうわよ」

 ひええええええ!!!
 両手両足じゃ足らなくなる!

「…………それでは配ります」

 普通にシャッフルし、4つに配っていく。
 最初の手札が肝心だ。
 ここで如何にカードを減らすことができるかが肝になる。

「ちなみに罰ゲームはどうする?」
「あ、やっぱりあるんだねそういうの」
「なるべく重すぎないものがいいわね……」
「実現可能な奴ですね」
「じゃあ…………負けた奴が勝った3人の言うことを何でも1つ聞くこと」
「重い!」

 実質一番重い罰ゲームじゃねーか!
 よりにもよってそれを選択するなよ!

「「何でも…………」」

 おや、狩人ハントの目をしている2人が。
 獲物は同じなんでしょうな。

「え、とりあえず罰ゲームは桐生が言ったやつで決まり?」
「ええ」
「うん」

 …………これはある意味負けられない戦いになってしまった。
 2人は意地でも桐生を負かしにくるだろう。
 俺が負けたら誰得展開になってしまう。

 こうなったら俺は海野先輩か美咲ちゃんを負かして、合法的に非合法な事を…………!

「俺は残り7枚」
「私は6枚ね」
「私も葵さんに同じです」
「…………俺2枚! めっちゃ有利だぜ!」

 最速であがれるんじゃないか俺!?
 神は俺に微笑んでいる!

「じゃあ最初は…………加藤君が私の所から1枚とっていいわよ」
「いいんですか? じゃあすいません勝っちゃいますね」

 俺は動きを止めた。
 海野先輩が一枚だけを明らかに突出させている。
 これはまさか…………。

「葵さん、早速心理戦か。キヨはどうするよ」
「どうしたの? とっていいわよ」

 いや……これさぁ……。
 たぶんジョーカーだよね。
 心理戦って、桐生が思ってるような内容じゃないよね。

 これがジョーカーなのかどうか探る心理戦じゃなくて、海野先輩のこの行動の意味を考えろってことでしょ?
 こんなん桐生まで回せって言ってるようなものじゃん。

 ほら、神だけじゃなく海野先輩も微笑んでるよ。
 怖すぎ。

「う、うわー海野先輩ジョーカー持ってるってことじゃーん。えーどれ取ろうかなー迷うなー」
「迷う必要ある?」

 くっ!
 何だこのプレッシャー!
 こんなプレッシャーをかけられるトランプはアメリカ大統領ぐらいかと思ってた!

 だけどこんな横暴な要望が通っていいはずがない!
 いつの時代も、テロリストの要求が通ることはありえないんだ!

「ていっ!」
「ありがとう加藤君」

 はいジョーカー。
 ごっつぁんです。

「ジョーカー移動したのか。声出したらダメだろ」
「え~。じゃあ私が引くかもしれないの?」
「くっ……どうぞ天条さん」

 むむむ……と天条さんがどれを取ろうか悩んでいる。
 個人的にはジョーカーを引いてくれるとありがたいんだが、どうだろうな。

 ……というより長いな。

「天条さん?」
「どれにしよう~! どれもジョーカーな気がして怖いよ~!」
「はは。どれ引いても確率は一緒なんだから勘にかけるしかないよ」
「どれか一目でジョーカーじゃないっていうのが分かればなぁ…………もしくは海野先輩みたいな心理戦でもやってくれたらなぁ…………」

 ブルータス!! お前もか!!

 この2人……!
 アイコンタクトだけでチームを組みやがった……!
 なんて陰湿かつ悪質な……!
 我が校のアイドルは腐敗していたというのか!
 BL的な意味ではなく!

「そ……そんなの分かったら勝負にならないじゃないかぁ~」

 ススス……。

「あ! これかもしれない! これはジョーカーじゃないと思う! ビビッときた!」

 すまん桐生。
 俺個人としてもジョーカーが手元から離れるのはありがたいことなんだ。
 winーwinだったんだ。

「あれ!? ジョーカーだった!」
「だから言ったらダメだろ美咲」

 えらい棒読みですよ美咲ちゃん。
 アイドルでも女優向きではないな。

「よっと……。揃わないか」
「私の番ね…………。揃わないわ」

 進展ないな。
 だけど今度こそはカードを揃えて俺が最初に上がってやる!

「はい、加藤君」

 ……………………待ってくれ。
 カードが1枚突出してるんだけど。
 デジャヴなんだけど。

 嘘だろ?
 ジョーカー回ってきた?
 1ターン目みんなジョーカー引いたの?

 同じカードを渡し合うだけって、何この生産性のないゲーム。

「どうしたの? 加藤君の番よ」

 そして俺はジョーカーを引いた。

 2周目。

 ジョーカーはブルータス……ではなく美咲ちゃんに渡された。
 予定通りというか何というか。
 俺の顔は間違いなく最強のポーカーフェイスだっただろう。

 そして桐生が一枚引く。
 ここで初めてゲームが動いた。
 いやまぁ、ジョーカーが動いてるのにゲームが動いてなかった方がおかしいのだが……。

 とにかく、桐生がジョーカー以外を引き、ペアを机の上に捨てたのだ。
 初めてカードが減ったのである。

「あと6枚か」
「じゃあ私も引くわね…………あら、私も揃ったみたい」

 海野先輩も2枚捨てる。
 俺の番だ。

 俺の残された2枚はダイヤの3とスぺードの4。
 つまり3か4が来れば俺の勝ち。
 3も4も既にセットで捨てられてるため、1枚ずつしか残されてない。

「よし来い来い来い来い…………」
「そんなに見つめられると照れるわね」
「へ!? ち、違いますよ! 見てるのはトランプですから!」
「からかっただけよ」

 く、くそ!
 踊らされてる!
 とんでもない魔女がいたもんだ!
 魅入られたら死ぬぞ俺!

「せいっ!」

 クローバーの6。

 ファック!

「はいどうぞ」
「あ、ダメだったんだ。じゃあ~…………こっち!」

 3を持ってかれた。

「やった揃った!」

 美咲ちゃんが残りの3持ってたのかよ!

「はいはやての番!」
「ん。連続だ」

 そしてまたしても2枚捨てる。
 減らすスピードが早すぎる!

「それじゃあ…………ふふ。私もね」

 待ってくれ。
 減らすスピードが早すぎる。
 俺があがるまで待ってくれ。

 現在俺は2枚。
 桐生が4枚。
 海野先輩が4枚。
 美咲ちゃんが5枚。

 着実に追いつかれている。

「どうぞ」
「今度こそ…………」
「加藤君、一番右のカード…………実は6なのよ」

 な、何ですと!?
 急な心理戦がキタ!

「何で……俺にそんなこと教えるんですか?」
「理由は君が一番分かっていると思っているのだけれど……」

 ………………なるほど。
 標的はあくまで桐生であると。
 俺というイレギュラーな存在は早めにあがらせたいわけですね?

 理解しましたよ。
 じゃあ俺は遠慮なくいただきます!

「せいっ!」

 ハートのK。

「なんっっっっっでやねん!!!」
「クスクスクス。すまない加藤君。私からみて右だった」

 うわーん悪い魔女に騙された!

「やられたなキヨ」
「葵さん、さっきからキヨを手玉にとってるね!」

 う、うるさい!
 本当のことを言わないでくれ!
 次!
 次は反対側を取ればいいだけだ!

「じゃあね~…………これ!」

 6持ってかれんのかい。

「やった~揃った~」

 えええええええ!!!
 海野先輩が持ってたんじゃないのかよ!!!

「何で!? ちょっと海野先輩!!」
「私は颯から引いたカードは全て捨てていたんだよ? もし私が今6を持っていたら、最初から2枚持っていたことになるじゃない。少し考えれば分かることだと思うのだけれど」

 た、確かに!
 ぐうの音も出ないセイロンティー!
 もう俺のメンタルはボロボロさ。

「俺は……揃わないか」
「私も……ダメね」
「俺っすか…………はい、揃った…………揃った!?」

 感情の起伏がエグすぎる!
 揃ってるよおい!

「すごいじゃんキヨ!」
「おめでとう」
「あっさりだったな」
「やったぜ!」

 2枚捨て、最後の1枚を美咲ちゃんにとってもらいフィニッシュ!
 まさかの1番!

「さて、勝者は優雅に決着を待つとしようかな」



 そして、順当に海野先輩が勝ち抜け、残るは美咲ちゃんと桐生の一騎打ち。
 美咲ちゃんにジョーカーがあり、桐生が引く番だ。

「絶対負けない!」
「さて…………どちらにあるか……」

 残された2枚を、桐生が交互に触れていく。
 右か……! 左か……!

「……………………」
「えっ、えっ? な、何? 颯。そんなに……じっと見ないでよ……」

 桐生がじーっと美咲ちゃんの目を見続けている。
 一線も逸らさずに。
 美咲ちゃんはそれに耐えきれずにワタワタとしている。

 そして俺の肩は、それに耐えきれない海野先輩によって鎖骨がひしゃげている。
 替えの骨とかないんだから勘弁してよね~。

「目を見てればトランプの図柄が映ってるかと思ったんだが」
「も、もうっ! そんなわけないじゃん!」

 ぺっ!

 もし他の男子がいたら唾ではなく血反吐を吐いていただろう。
 海野先輩に至っては瘴気を吐き出している気がする。
 いや、もちろんそんなことはないんだが。

「じゃあこれで」
「あっ!」

 決着!!

 敗者は美咲ちゃん!!!

「さてお待ちかね、罰ゲームの時間だけれども……」
「うう……。あんまり怖いやつにしないでね……」

 震える小動物可愛い。
 家に持って帰りたいぐらいだ。

「何がいいかしらね」
「キヨはどんなのがいいよ」
「そうだなぁ……」

 色々あるけど……これかなぁ。

「俺は………………で」
「……ふふ。いいわね」
「ああ、俺もそれで」

 3人とも同じ意見ということで。
 それじゃあ発表しますか!

「それでは、天条さんへの罰ゲームは!!」
「うう…………」
「今度は別のゲームで勝負すること」
「へっ?」

 美咲ちゃんが拍子抜けした顔をする。

「さ、次は何やります?」
「大富豪なんてどうかしら」
「ああ、いいな」
「え? え? 罰ゲームは?」
「今言っただろ? 別のゲームをやることだって」
「でもそれって……」
「いーんだって、もう決めたんだから」
「そうよ美咲、罰ゲームには従わないと」

 美咲ちゃんのキョトンとした顔に笑顔が戻ってきた。

「…………うん! 次は負けないよー!」
「よし。俺が配ろう」

 なんかいい感じにまとまってるように見えるけど、美咲ちゃんへの罰ゲームを続行にしたのは別の思惑がある。

 要は桐生を負かしたいということ。

 海野先輩はさすがだ。
 その意図をいち早く見抜いて賛同した。

 魔女怖すぎ。

 だから勘違いしないでよねっ!
 別に、美咲ちゃんが可愛そうだとか思ってやったことじゃないんだからねっ!

 なんてな。
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