異世界で牛乳配達とかして生きる。

アルファポリスにゃんこ

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4.フルボッコ

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 昼前には村に戻って来れた。カバンに蚤の市で買った戦利品とポケットに銀貨1枚を携えて意気揚々と玄関をノック、中からの返事を受けてからドアを開いた。
「ミルさん、ただいまー!」
「おかえりなさい、どうでしたか」
「ええ、実は3本とも売れて……って、その腕どうしました」
 見れば腕の部分の衣服が裂け、赤い傷口がのぞいていた。ミルティさんは潰した薬草の汁を付けた布を患部に押し当てながら答える。
「近くの森でキノコを採取中に魔物に襲われてしまって」
 近くの森にも出るのか魔物。恩人であるミルティさんを傷つけるとは許すまじ。
「大丈夫ですか」
「はい、しばらくすれば薬草の効果で回復しますから」
 改めてすごいなこの世界の薬草。しかしこれでいて希少品という訳でもないらしく、キノコと同じように近くの森とかで当たり前のように採取出来るらしい。
「それよりすぐにご飯の支度にしますね」
「ああそんな、せめて傷が良くなってからにして下さい。そうだ町で売ったミルクなんですが、銅貨3枚では安過ぎましたよ」
「あら、そうなんですか?」
 キョトンとしたミルティさんに実際の相場を教えると驚いて口に手を当てていた。
「まあ、そんなに」
「それでこれ、売り上げで買った食料と余った銀貨1枚です。空き瓶もこちらに」
「ありがとうございます。でもその銀貨はひじたかさんのですよ、持っていて下さい」
「そんな、悪いです。そもそもミルティさんのミルクなんですから、僕はただそれを運んで売っただけです」
「その手間を感謝しているんです。私1人では出来ない事なので、それはひじたかさんの取り分です」
 そこは譲らないといった感じにピシリと言い切られる。情けない話だが無一文は辛い。きっとそのうち屋根の修繕費に充てようと心に決めて、今の所はそのお言葉に甘えることにした。

「それにしてもその魔物、許せませんね」
 少しだけ豪華になった昼食を終えて、眠らせておいた敵意をメラメラと再燃させる。
「森は彼らの住処ですから仕方ありませんよ」
「それはそうですが…」
 この世界の危険な場所については、まだベッドでうめいていただけだった頃にミルティさんから聞いてある。不思議そうな顔をしながらも、人間の居住圏と街道を除けば大体が魔物と呼ばれる敵対生物のテリトリーだと教えてくれた。
「よし、それじゃあ僕がちょっと行って奴らを蹴散らしてきますよ! ミルティさんはここで待っていて下さい。ついでにキノコや薬草も採ってきますから」
「あっ、危ないですよー」
 やっと動けるようになったので世話になった分の恩を返さないとな。ミルティさんの心配そうな声を背に玄関のドアを開けて外に出る。近くの森についての経路はすでに聞いている。待っていて下さいミルティさん、あなたの身の安全は僕が守ってみせますから!

「ごふっ、げふっ、がはぁっ――!!」
 森に付いた矢先、僕は目鼻口のない緑色のぶにぶにした流動性の球体生物3体に囲まれてボコボコにされていた。
 その体だけの生態でどこからそれ程の速度が出るのか、彼らの体当たりが地味に速くて痛い。例えるなら水をいれた巨大な割れない水風船をフルスイングでぶち当てられているような衝撃が3方からやってくるので、僕はさながら吊られたサンドバッグのように左斜め後ろ、右、真後ろと波間に揺れる昆布ようなステップを踏む事しかできない。いつまでもぶにぶに生物のターン。死ぬ、死んでしまう。いま骨が軋んだ。一撃ごとに確実に生命が削り取られていっている。
「大丈夫ですかぁーー!」
 そんな感じで死に瀕していると、突如、聞き慣れた声が響く。後方に目をやると木の棒を持ったミルティさんがこちらに駆けているところだった。
「やぁーーっ!」
 ミルティさんらしい少し間の抜けた掛け声で振られた棒の先が、僕を囲んでいたぶにぶに一体に当たる。ぶにぶには液を四散させながら弾け飛んでいった。
「無事ですか」
「だっ、だいじょうぶれひゅ・・・」
「これ食べて下さい」
 満身創痍気味の目の前に薬草が差し出される。ムシャリと噛みしめると青臭さと苦味が口いっぱいに広がった。薬草は経口摂取することでも効果があるらしい。ほんと万能。塗る方が効くとのことだが。
「すっ、すみません、助かりました」
 何とかまともに口を聞けるくらいに回復してミルティさんに礼を言う。
「いいえ、ご無事で何よりです」
 乱入してきたミルティさんを警戒してか、様子見をしていたぶにぶにの一体が再度こちらに突っ込んできた。
「ほっ、はぁっ!」
 ミルティさんはそれを木の棒で受けると押し返す。体当たりを防がれたぶにぶにが地に着地した。
 くっ、やられっぱなしでいられるか。
「うおおっ」
 落ちていた木の棒を拾うと着地したばかりのぶにぶに向かって殴りかかる。棒はぶにぶにの体に当たったが、手ごたえが薄い。どうやらわずかに体積を削っただけらしく当たった相手は元気にぶにぶにしている。こっ、こんなはずでは――
「げひゃっ」
 左脇腹に衝撃を受けて僕は地面を転がった。遅れて鈍い痛みが襲う。
「ひじたかさん!?」
「ら、らいひょぶ、げっほ・・・」
 寝転がった状態でなんとか応答する。生存を確認してかミルティさんはホッとした表情を浮かべて、再びぶにぶにに向き直った。
「てぇぇーーい!」
 僕を体当たりで吹き飛ばした個体に向かって木の棒を振り下ろす。棒はぶにぶにの身体のちょうど真ん中らへんに当たり、ぶにぶには液を地面に撒き散らすとその動きを止めた。そうか、芯でとらえないと威力がのらない。さっきの自分のヒットは端過ぎた。
 木の棒を構えたミルティさんは最後に残った一体に向き直る。
「まっ、まってください!」
 一方の僕は棒を杖代わりにようやく立ち上がった所だった。
「ひじたかさんっ、大丈夫なんですか」
「だ、だいじょうぶ、やらせてください…」
 肩で呼吸をしながら敵を視界の中心に留めた。これ以上の失態を演じるのはごめんだ。きちんと芯を捉えて当てる。きちんと芯を捉えて当てる。それだけを頭に木の棒を構える。
 数秒の沈黙の後、ぶにぶにが仕掛けてきた。相変わらず体当たり。こいつはこれしか出来ないのだろう。一方こちらは半歩踏み込みの両手持ちスイング、狙ってはいたがこれは運が良かったのだろう、棒は視界のフレームの中心、つまりはぶにぶにの体の真ん中に当たるとそれを後方に弾き飛ばした。今度は確かな手ごたえ。
「た、倒せたー……」
 それだけ呟くと糸の切れた人形のように大の字で地面に転がる。全身にドッと押し寄せてくる疲労感。身体のあちこちが痛い。
 すぐさま駆け寄ってきてくれたミルティさんは僕を膝枕すると口に薬草を押し込んでくれた。
 この格好の悪さは生涯忘れないかもしれない。
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