8 / 25
エピローグのその先で
再会①
しおりを挟む
「とりあえず、飛行機降りて荷物受け取ったら、電車とかじゃなく外でなさい。強力な助っ人頼んだから」
一颯が飛行機に寄る前に母親に連絡を入れたらそんなLINEが返ってきた。
強力な助っ人?と頭を傾げつつ、今の自分の状況がやばいことはさすがに分かっているので、母親の言いなりになる。
一颯は自分でもこんなに自分がポンコツだとは思っていなかった。
今まで、旅行の時は友達や母親がチケットを取ってくれていたから、早めに予約がいることをすっかり忘れていた。
まさか、日時を間違えて荷物を送っているなんて考えてなかった。
手荷物が多いと邪魔だからと全て突っ込んでしまったのもミスだ。鍵と交換に不動産屋さんに渡す書類まで入れてしまった。
ほとほと自分自身に呆れつつ、一颯は大量に流れてくる荷物の中から自分のスーツケースを探す。なんだかんだと入りきらなくてボストンバッグも預けたので、大荷物だ。
荷物を受け取り、母親に指定された場所へ向かうと、1台の車が止まっていた。
母親の言う“強力な助っ人”が一切思い浮かばず、一颯はその場で立ち尽くす。
明日香は成田空港の到着ロビーから近い送り迎え用の乗り場で、一颯がやってくるのを待っていた。ゆみさんから一颯の最近の写真はもらったし、真っ赤なスーツケースで行ったという目印も教わっていたので、遠目からでも一発で分かる。
スマホを見ながらきょろきょろと辺りを見回す姿を見つけ、明日香はなんて声をかけようとか考える間もなく、助手席の窓を開け、勢いで話しかける。
「一颯!詳細はゆみさんから聞いた。とりあえず時間内から乗って!」
「は?」
状況が一切つかめていない一颯を急かし、スーツケースを後部座席に乗せ、助手席に座ったことを確認するや否や、明日香は車を走らせた。
横で一颯がうわっという声を上げながら慌ててシートベルトをする。
明日香が運転に集中している間に少しだけ状況がつかめてきたのか、一颯は明日香に話しかけた。
「明日香、だよな。久しぶり。俺、いまいちよくわかってないんだけど、母さんが言ってた強力な助っ人っていうのが」
「そう。私」
「なんで?」
「知らないよ。今日たまたまうちの母親がゆみさんとランチしてたからじゃない?」
「あぁ、そういえばなんか会うって聞いたかも」
「そ、それで一颯が何かやばいことになってるからっていうヘルプが来た。当日までチケット取ってないとか何?飛行機の当日チケットなんて春休みは満席だし、何より割高すぎでしょ。ゆみさんが請求額高すぎて信じられないってぼやいてたよ。あとさ、なんで大事な書類段ボールに入れちゃうかな?挙句の果てに日にち間違えるとか。まぁ間違えてなかったら鍵受け取れなくて明日の引っ越しやばいから結果オーライなんだけどさ」
明日香が怒涛の勢いでイライラをぶつけていると、急に一颯は笑い出した。
「何笑ってんの?こっちは残り僅かの春休み潰されてるんだけど」
「ごめんごめん。なんか、明日香だなぁと思って。俺よりよっぽどしっかりしてて、いつも引っ張ってくれる。あ、でもパワーアップした?」
一颯ののほほんとした空気に明日香も思わず毒気を抜かれる。
「一颯はよりマイペースになったというか、なんというか」
「うん、最近やばいって自覚し始めた」
素直に認める一颯に明日香は呆れつつ説明を始める。
「とりあえず、一颯の荷物はゆみさんに頼んで営業所止めにしてもらったから、今から受け取りに行く。9時に営業所が閉まるのに、間に合うかギリだから急いでた。その後のことは荷物受け取ってから考えよ」
「了解、助かる」
「あ、レンタカー代後で請求するからね?高速代も。こうでもしなきゃ間に合わないからさ」
「……了解」
ポンポンと繋がる会話に、明日香は一颯に合うのが7年ぶりとは思えないなと心の中でつぶやく。勢いで会うことになったけれど、意外と何でもなかった。
「そういえば、ゆみさんに合流したって言った?」
「あー、忘れてた」
「しときなよ。心配してたから」
「今する」
スマホをタップし始めた一颯を横目で確認して、明日香は運転に集中する。免許を取って4年も経つが、そこまで運転する回数が多くない東京住みでは、未だになれない。
無言になった車内は、思っていたよりも居心地がよく2人はそのままその心地よい空間に身を任せた。
一颯が飛行機に寄る前に母親に連絡を入れたらそんなLINEが返ってきた。
強力な助っ人?と頭を傾げつつ、今の自分の状況がやばいことはさすがに分かっているので、母親の言いなりになる。
一颯は自分でもこんなに自分がポンコツだとは思っていなかった。
今まで、旅行の時は友達や母親がチケットを取ってくれていたから、早めに予約がいることをすっかり忘れていた。
まさか、日時を間違えて荷物を送っているなんて考えてなかった。
手荷物が多いと邪魔だからと全て突っ込んでしまったのもミスだ。鍵と交換に不動産屋さんに渡す書類まで入れてしまった。
ほとほと自分自身に呆れつつ、一颯は大量に流れてくる荷物の中から自分のスーツケースを探す。なんだかんだと入りきらなくてボストンバッグも預けたので、大荷物だ。
荷物を受け取り、母親に指定された場所へ向かうと、1台の車が止まっていた。
母親の言う“強力な助っ人”が一切思い浮かばず、一颯はその場で立ち尽くす。
明日香は成田空港の到着ロビーから近い送り迎え用の乗り場で、一颯がやってくるのを待っていた。ゆみさんから一颯の最近の写真はもらったし、真っ赤なスーツケースで行ったという目印も教わっていたので、遠目からでも一発で分かる。
スマホを見ながらきょろきょろと辺りを見回す姿を見つけ、明日香はなんて声をかけようとか考える間もなく、助手席の窓を開け、勢いで話しかける。
「一颯!詳細はゆみさんから聞いた。とりあえず時間内から乗って!」
「は?」
状況が一切つかめていない一颯を急かし、スーツケースを後部座席に乗せ、助手席に座ったことを確認するや否や、明日香は車を走らせた。
横で一颯がうわっという声を上げながら慌ててシートベルトをする。
明日香が運転に集中している間に少しだけ状況がつかめてきたのか、一颯は明日香に話しかけた。
「明日香、だよな。久しぶり。俺、いまいちよくわかってないんだけど、母さんが言ってた強力な助っ人っていうのが」
「そう。私」
「なんで?」
「知らないよ。今日たまたまうちの母親がゆみさんとランチしてたからじゃない?」
「あぁ、そういえばなんか会うって聞いたかも」
「そ、それで一颯が何かやばいことになってるからっていうヘルプが来た。当日までチケット取ってないとか何?飛行機の当日チケットなんて春休みは満席だし、何より割高すぎでしょ。ゆみさんが請求額高すぎて信じられないってぼやいてたよ。あとさ、なんで大事な書類段ボールに入れちゃうかな?挙句の果てに日にち間違えるとか。まぁ間違えてなかったら鍵受け取れなくて明日の引っ越しやばいから結果オーライなんだけどさ」
明日香が怒涛の勢いでイライラをぶつけていると、急に一颯は笑い出した。
「何笑ってんの?こっちは残り僅かの春休み潰されてるんだけど」
「ごめんごめん。なんか、明日香だなぁと思って。俺よりよっぽどしっかりしてて、いつも引っ張ってくれる。あ、でもパワーアップした?」
一颯ののほほんとした空気に明日香も思わず毒気を抜かれる。
「一颯はよりマイペースになったというか、なんというか」
「うん、最近やばいって自覚し始めた」
素直に認める一颯に明日香は呆れつつ説明を始める。
「とりあえず、一颯の荷物はゆみさんに頼んで営業所止めにしてもらったから、今から受け取りに行く。9時に営業所が閉まるのに、間に合うかギリだから急いでた。その後のことは荷物受け取ってから考えよ」
「了解、助かる」
「あ、レンタカー代後で請求するからね?高速代も。こうでもしなきゃ間に合わないからさ」
「……了解」
ポンポンと繋がる会話に、明日香は一颯に合うのが7年ぶりとは思えないなと心の中でつぶやく。勢いで会うことになったけれど、意外と何でもなかった。
「そういえば、ゆみさんに合流したって言った?」
「あー、忘れてた」
「しときなよ。心配してたから」
「今する」
スマホをタップし始めた一颯を横目で確認して、明日香は運転に集中する。免許を取って4年も経つが、そこまで運転する回数が多くない東京住みでは、未だになれない。
無言になった車内は、思っていたよりも居心地がよく2人はそのままその心地よい空間に身を任せた。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
冷たい王妃の生活
柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。
三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。
王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。
孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。
「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。
自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。
やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。
嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。
君の声を、もう一度
たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。
だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。
五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。
忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。
静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
もうあなた達を愛する心はありません
賢人 蓮
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。
差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。
理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。
セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる