生まれる前から隣にいた君へ

紫蘭

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エピローグのその先で

再会②

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「7年ぶり、だよな?」 
 心地よい沈黙の中でぽつりと呟いたのは一颯だった。
「元気だった?」
 空気が変わったのを感じつつ、明日香は「うん」と答える。
「一颯は?」
「まぁ、俺も」

 また、車内に沈黙が広がる。
 ただ、今度は長く続くわけではなくぽつ、ぽつ、と会話は続いた。

「大学、一人暮らししてたんだっけ」
「あぁ、うん」
「料理とかできるの?」
 昔から手先は器用だったな、と思いつつ明日香は問う。
 ゆみさんが風邪をひいた時に、まだ小学一年生だった一颯がおにぎりを握って、枕元に置いてあげていたという話は未だに母親が“親思いの優しい子”の例として上げるおかげで、明日香は耳にタコができるほど聞いている。
「簡単なものなら。でもコンビニとかが多かった。明日香は?まだ実家だっけ」
「うん、でも来週引越し」
「そっか」
「一颯はさ、東京でなんの仕事するの?」
「グッズとか作ってる会社の企画営業。多分ブラック」
「まじか、私は不動産の企画営業。不動産会社なのに信じられないぐらいホワイトなところ」
「へぇー、事務なの?どっちかっていうと自分で営業するタイプだと思ってた」
「向いてるのは正直そっちかもしれないけど、残業とか嫌だし、プライベート最優先」
 もともと明日香は事務職で応募していた。ただ一颯の言う通り、営業に向いているように見られ、明日香は面接で営業やりませんか?と声をかけられた。でも、趣味が大事と断ったのだ。その結果、営業事務ということで収まった。
「もうすぐ着くよ。何とか間に合いそう」
 現在8時43分。本当にギリギリだ。
 近況報告をしている間に車はもう営業所のすぐそばだ。
 煌々と光る看板ば見えてくる。
 入口で一颯を下ろし、車の後ろの扉を開けて待っていると、でっかい段ボールを2つ載せた荷台を押しながら一颯がやってきた。
 これは、どう考えても安いホテルやネカフェには持ち込めるサイズでは無い。
 明日香ははぁーっとため息をつく。
 レンタカーの返却時間も迫っているし、荷物を受け取ったらどこか適当な場所に一颯を放り込んで帰ろうと明日香は思っていた。
 幸いにここは東京だ。地元と違ってこの時間からでも泊まれる場所はいくらでもある。最悪ネカフェやカラオケでも夜は越せる。
 だが、そういう訳には行かないらしい。
 今夜の宿のことなんてすっぽり抜け落ちた様子で「受け取れたよ!」と笑顔で明日香の元へやってくる一颯を見て、明日香はもう一度、深いため息をついた。
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