生まれる前から隣にいた君へ

紫蘭

文字の大きさ
10 / 25
エピローグのその先で

お泊り

しおりを挟む
「受け取ったなら、そこ積んで。レンタカーの返却時間も迫ってるし行くよ」
「了解」
 手早く一颯が荷物を積み込み、明日香は車を発進はせる。
 ここから明日香の家までは、車で約15分。荷物と一颯を家の前で一度下ろし、レンタカーを返しにいこうと明日香は頭の中で段取りをを立てる。
「一旦私の家の前で下ろすから、そこで待ってて。レンタカー返してくるから」
「わかった。あー、レンタカー代いつ払えばいい?」
「後で請求する。そういえばバイトとかしてたの?貯金あるの?」
 図らずも当日に買うことになった飛行機のチケットはゆみさんが払った。「私はいつも節約して格安航空にしてるのに!」という叫び声が電話口から明日香には聞こえていた。
「してた。飲食店でバイト。貯金はない、わけではないけど。卒業旅行で使いすぎた感はある」
 なるほど、と明日香は納得する。明日香も4年間かけて貯めていた貯金を使って卒業旅行は思いっきり楽しんだ。
「私も今は金欠。社会人しばらくは節約生活だなー」
「俺もー」
 2人はこの先の生活を想像して、ため息をついた。

「はい、到着」
 15分のドライブはお互いの金欠具合の共有をしていたら飛ぶように過ぎた。
「荷物下ろしてエントランスにいて。15分ぐらいで戻る」
 一颯をエントランスに残し、明日香はレンタカーの返却に向かった。

「ここが、明日香の家」
 エントランスで一颯はひとり呟いた。
 一颯の中の明日香の家というと、地元にあった庭にウッドデッキがついた一軒家の印象が根強く残っている。
 木造で家の中に入ると木の香りがした。
 家具も木製のものが多く、全体的に温かい印象の家。
 対して、東京の明日香の家は鉄筋コンクリート造りのマンション。
 一颯はどうしても違和感がぬぐえなかった。
 エントランスの端にベンチを見つけ、一颯は腰かける。
 母親への連絡の返信が着ていることに気づき、スマホを見るとそこには「合流したなら安心。あとは明日香ちゃんに任せておけばどうにかなる!あんた1人だと心配で眠れなかったけど、明日香ちゃんいるしもう寝るね」
 という早めの就寝報告が入っていた。
 息子への信頼のなさと滅多にあっていない明日香への信頼に苦笑いしつつ、「了解、おやすみ」と一颯は返信する。
 他にも溜まっていたLINEに返信したり、スマホをいじっていると、あっという間に明日香は帰ってきた。
「部屋、3階だから。荷物1回では運べないよね。スーツケースもあるし。1瞬ここに置いとくしかないか。案内する」
 明日香の後に続き、エレベーターに乗る。
 明日香の家は3階の一番奥だった。
 玄関にスーツケースを置き、荷物を取りに行く。
「お邪魔します」
 全部運びこんでリビングに入ると、そこはなんだか懐かしい雰囲気が漂っていた。
 家自体は北海道の家と全く異なる。マンションだし、広さも違う。でも、子供の頃一緒にお絵かきをしたテーブルとか、ゲームが入っていたテレビ台とか、いたるところに見覚えのあるものがあった。
「夕飯食べた?私食べてないから今からなんか作るけどいる?」
 懐かしさに浸っていると、キッチンから顔を出した明日香にそう問われた。
「あー、腹は減ってるけど、コンビニで何か買ってくからいい。荷物だけ頼むわ」
 エントランスで先ほどこのあたりのネカフェは検索した。
「何?ネカフェでも行くつもり?言っとくけどこの辺のネカフェ、この時間身体とほぼ満席だよ」
「嘘!」
「まぁ、ネカフェって考えてただけましか。まじ、地元とは違うんだからって地元にはそもそもネカフェないか」
「あ、1年前ぐらいにできたよ」
「あ、そうなの?まぁ、そういうことだから一颯の今夜の寝床はそこのソファ―」
「は?え、明日香今この家1人だよな?」
 あきさんは地元に帰ってるようだし、明日香の父親は単身赴任中のはずだ。
「そうだけど、何?今更なんかあるとでも?ほぼ兄弟でしょ。ゆみさんも母親も知ってるから」
 一颯が放心してる間に明日香はキッチンに引っ込み遅めの夕食を作り始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

君の声を、もう一度

たまごころ
恋愛
東京で働く高瀬悠真は、ある春の日、出張先の海辺の町でかつての恋人・宮川結衣と再会する。 だが結衣は、悠真のことを覚えていなかった。 五年前の事故で過去の記憶を失った彼女と、再び「初めまして」から始まる関係。 忘れられた恋を、もう一度育てていく――そんな男女の再生の物語。 静かでまっすぐな愛が胸を打つ、記憶と時間の恋愛ドラマ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

もうあなた達を愛する心はありません

賢人 蓮
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...