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二章

三、悩めるゼウス

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――今日は村がひとつ出来たぞ。村人を増やして発展させていけば行商人ぎょうしょうにんが来て、物々交換もできるようになるな。
 
心地よい疲労と達成感に満足し、背中に重ねたクッションに倒れ込んだ。
外が騒がしかったが、もう各所への配慮にはほとほと疲れていたので、ヘッドホンを付けて聞こえない振りをする。
――俺はこれまで創造神として、魔王と平和協定も結び平和な暮らしを守るために尽力してきた。広い世界をまとめる為、各所に担当の神を置き、それぞれに適した能力も与えた。
 
結果として、魔王になった者ただ一人が絶対的な権力を持ち数多あまたの魔物を統率とうそつする魔界に対して、天界だけではなく、人間界に散らばった神々の意見にも神経を使わなければならなくなってしまった。

――高すぎる理想に熱意だけで突っ走るのはもう止めだ。

    
 若き日の優しいゼウスは、誰もが不満なく暮らせる世界を夢見てひとり奮闘ふんとうしていた。
 

あれから何百年も経ったが、どうやっても小さな争い事は無くならなかった。

 人間は自分が信じたいモノだけを信じるし、自分と違う考えを認めなくなった。山の神をあがめる者は海をかろんずるようになり、海の神を信じる者は自分達の神だけをあがめる。

 これまでずっと異種族いしゅぞくとの共存共栄きょうぞんきょうえいを目指してきたというのに、年月が過ぎる程、同族間ですら排他的はいたてきになっていく人間どもには心底がっかりだ。
 
――人間とは、仲間はずれが好きな生き物だ。 
 
 モニター越しに見る魔界は、圧倒的な力に支配されているものの、魔王に逆らう者はおらず、また魔王も罰は与えども、下っ端の小さな魔物ですら悪いようにはしなかった。

 それが、権力への恐怖によるものだとしても、一枚岩いちまいいわと言うに相応ふさわしく思えた。


 元々、相互不可侵そうごふかしんの約束破られていないかを監視する目的で出来たモニターだった。
 それがいつの間にか、魔界と、思うようにいかない自分の世界とを比べるようになり、やり方が悪かったのだろうかと長年苦悩することになってしまった。
 
ーー知らなければ、それで済んでいたのかもしれないな。 
    
 弟は自分をしたってくれてはいるが、理想に燃えている内には思いもよらない悩みなのだろう。

 ゼウスもまた、昔の自分と同じ夢を見る弟に弱みを見せられないでいた。
 
最近は呆れた顔で見られている事にも気づいているが、今更いまさらどうにもできない。する気力も湧かない。
 

「……あの頃は良かったなぁ」


天井を見上げたままそう呟くと、初代魔王をしのび、また現実から目を背けるのだった。

  
   
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