5 / 6
道中
しおりを挟むクマとの激闘から少しして、俵とフィリスはヒュームの街へと向かっていた。
勿論フィリスは俵に質問していたた。
あの身体能力はどういうことか、何故あんな無謀な事をしたのか、ていうか何なのよその袋!食料とか飲料が無限に出てくるとか!ふざんじゃないわよ!等々…。
それをのらりくらりと躱す俵。
なお彼の腕には子狐が抱き抱えられており、当の子狐はスヤスヤと安らかな寝息を立てている。
因みにクマはそのまま放置してきた、何しろヒュームの街までまだ距離もあり、食料などは俵の鞄で解決する上に毛皮の剥ぎ方など2人とも知らない。
そして何となく俵は一方的にクマを好敵手と思っており、殺すのは忍びないとフィリスに告げたのも大きい。
その謎理論に溜め息を吐きながらフィリスはわかったわよ、と一言で済まして俵を連れてヒュームの街へと向かったのだ。
「しかし、遠いんだなぁ…。」
俵はボヤきながらフィリスの後をついて行く。
時折此方を伺うように小さな獣が覗き込んでくるがそれ以外は何も起こらず、あまり変わり映えしない風景に僅かな退屈を感じ始めた頃。
目の前のフィリスが立ち止まる。
その視線の先には拓けた場所があり、ぽつぽつと掘っ建て小屋みたいな家が建っている。
村、というには規模が小さく、畑仕事をしている人のシルエットは頭に動物の耳が着いており、遠目からでも純粋な人ではないと窺える。
フィリスに目を向けると彼女は怪訝な表情を浮かべながら何処か困った様に頬を掻いている。
ふむ、と俵は一考し…
「行ってみるか!」
人懐っこい笑顔で手を振りながら村へと突撃していった。
「は?」
フィリスは我が目を疑う。
あの男はあろう事か敵か味方か分からない所に突っ込んでいったのである。
この森に新しく入ってきた種族がいるとは聴いていない。
つまりこの村はヒューム族から逃げてきたか種族を追い出されたかした流れ者の村である。
この森はエルフ族が管理していると言っても過言ではない。
広大過ぎて全てまでは見切れないがヒューム族の街に程近いこの場所は割とヒューム族から逃げてきた獣人族が住み着く事がままある。
普通なら獣人族のリーダーから何かしらのコンタクトがあるのだが…
(あのボロボロの服や窶れた表情にこの陰鬱な空気は…ヒューム族から逃げ出した獣人族ね…普通なら保護しないとなんだけど…私はもう一族と縁を切ったし…どうしようかしら…。)
フィリスはそこまで考えていた所で目の前に俵が走って行く後ろ姿を見るのである。
そりゃもう頭にきた。
こっちは色んな葛藤を抱えているというのにあの男は…
「もう!もう!あんの馬鹿!!」
込み上げる怒りを吐きながらフィリスは俵の後を追う様に駆け出した。
突然現れた俵に畑仕事をしていた獣人族の男は怯えた表情をしていた。
それを見た俵はなおも人懐っこい笑みで子狐を抱えながら獣人族の男に話しかける。
「アンタ、元気無いな!ちゃんと飯食ってるか?」
「…い、いや…ここに来たばかりで…」
獣人族の男は俵のその人懐っこい笑みに絆されたのか、戸惑いながらも返事をする。
割と声の大きい俵である。
近くの家々からは此方の様子を窺う様に色々な獣人族がこっそりと顔を出している。
兎の耳が生えた者、猫がそのまま人になった様な見た目の者、丸めた尻尾を抱えた犬耳のある者。
様々な種族の獣人がこの小さな村には居た。
皆一様に痩せ細り、覇気が無い。
しかも俵を恐れる様に怯えた眼差しを向けて来る。
ふむ、と俵は顎を摩るとゴソゴソと鞄を漁る。
因みにその背後には怒りのオーラを纏ったフィリスの姿があった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる