最近流行りの異世界に来ました。

春巻 名取

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ごはん

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「何これ美味しい。」

目の前に広がる料理にフィリスは初めは抵抗していた。
何しろ鞄から取り出した怪しい物である。
白い米と言われる野菜など食べたこともないしイワナと言われた魚も見たことない。
しかし何より箸休めだ、と出された透明な袋から出された等間隔に切り揃えられた黄色い野菜など知らない。見た事すらない物だった。
噛むたびに甘味が増す米に程よい塩加減の淡白な白身の魚。
独特な食感で程よい塩分と後から来る甘み、これがコメと言われる野菜とよく合う沢庵と呼ばれる漬物。
はしたなくもガツガツと食べ、お代わりまでしてしまった。
満足したお腹を抱えて食後のお茶だと出された緑色のお茶は何処かほっとする味で独特な渋味が綺麗に口の中を洗い流して行く。

「お腹いっぱいぃ…」

「くぅん…。」

フィリスも子狐も膨れたお腹をさすりながら満足気な息を吐く。
俵はそれを横目に使った食器類を川で洗いながら鼻歌なんて歌っている。
それを見ながらフィリスは何故これだけ無防備な男を警戒していたのだろうかと思いながら自前の木製カップに注がれたお茶を啜る。
いくら危険な野生動物が少ないとはいえ見た感じ着の身着のまま、鞄一つで森に来るだろうか、いや、収納魔法とか使えるなら話は別だろうが、それにしても武器の類一つすら持っていないのである。

「(ナイフすら持ってないなんて…)」

先程の料理も刃物の類を一切使わず、食べる時も変な棒二本で器用に食べていた。
余りにも浮世離れしているというか、なんというか危機感を持って欲しい。
これでは警戒している自分が馬鹿みたいではないか。
自分なら今日初めて会った武器を持つ人物相手に丸腰など考えられない、最低限ナイフぐらいは手元に無いと落ち着かないのだ。
目の前にいる男は呑気に鼻歌を歌いながら川で洗い物をしている。
ふと、悪戯心が騒いだのかフィリスは少し驚かしてやろうか、と傍に置いた短弓を手繰り寄せ、矢に手を掛けた瞬間。

「おおっ!なんだ、あれ?」

俵の喜色を含んだ声にフィリスは俵の視線の先に目をやる。
そこには目元に傷がある2メートルほどの何処か愛嬌のある小さなクマが川を挟んで此方を見ていた。












 




「何というか…着ぐるみ?」
川を挟んで立ってるクマを見た俵の声に反応してクマはピクリとその表情を僅かに動かす。
まぁ、言葉は通じずとも少なからず侮られたと感じたのか、クマはその見た目から反する低い唸り声を上げて俵を睨み付ける。
俵は洗ったばかりの鍋を鞄に入れると、何を思ったかクマに向けて手を振った。
それを見たフィリスは堪らず悪態を吐く。

「ちょっ、馬鹿!何やってんのよ!!」

手にした短弓の弦を引き絞り、狙いをクマに付ける。
しかしクマは矢のように俵に突撃する。
盛大な水飛沫を上げながら迫るクマに俵はす、と腰を落として小さな声で呟く。

「発気揚々…」

ドドドド、とクマが突撃し、俵と衝突した!



























それはフィリスの目を疑う光景だった。
突然現れたクマはこの森で人の肉を覚えたクマで、森ではマンイーターベアと呼ばれる凶暴なクマである。
見た目はコミカルで可愛らしいがその小さな体躯を生かしてひっそりと接近してあっという間に爪で切り裂いたり、矢のような速度での突進で獲物を薙ぎ倒して喰らいつく恐ろしい魔物である。
その膂力は凄まじく、自分の胴程の大木を薙ぎ倒せる程である。
そんなクマの突撃を俵は頭突き・・・で応えたのだ。
フィリスはその目で俵が瞬間的に自らの体内の気を練って応じたのだと判断した。
ヒューム族には自らの肉体のみで魔物を狩る変わった修行者もいると聞く。
俵もその1人なのだろうとフィリスがそこまで思考した辺りで俵が動き出した、

「どっ……せぇぇぇいっ!!」

何と頭突きで頭を弾いてクマがよろけた瞬間、一歩踏み出してクマの腰の毛皮を掴み、足でクマの足を掬い上げるように砂利の上に投げ飛ばしたのだ。

「グァオゥッ!」

運悪くクマは砂利の中の少し大きめな石に頭をぶつけてそのまま気絶した。
それを遠目から見ていた呆けた表情のフィリス、気絶したクマの傍には俵が両腕を上げて勝鬨を上げていた。
子狐に至っては満腹になった為か既に夢の世界へと旅立っていたのだった。
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