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宴会
しおりを挟む「あたたたた…」
フィリスに頭を思い切り殴られた俵は頭を摩りながら獣人族の男に火を焚いても良い場所を聞く。
飛び出した俵を殴ったフィリスに獣人族は揃って目を丸くしていた。
獣人族達はそれを見て僅かに警戒心を緩めたのは怪我の功名か、獣人族の見た目狼の男はガルムと名乗り俵を少し拓けた場所に案内する。
「いやぁ、すまんな、ガルム…後薪を分けて貰えると有難い。」
「いや、まぁ、そりゃ構わんが…何をする気だ?」
相変わらず人懐っこい笑みで俵は鞄からある物を取り出す。
鞄の口が異様に広がり、ドシン、と重い音と共にそれは姿を現わす。
煙突の付いた羽釜と平釜のセットである。
片方だけで約90キロはある重さの物を軽々持ち上げる俵に驚きながらもガルムは家から薪の束を持ってくる。
俵は礼を言い薪を受け取るとガルムに告げる。
「ありがとう、ガルム!お礼に俺から美味いものをご馳走しよう!」
そう宣言する俵に困惑した表情しか出ないガルムであった。
「全く…。」
フィリスは頬を膨らませながら俵の様子を眺めていた。
鞄から明らかに入りきらない物が出て来たが色々規格外な鞄なんだと俵から聞いている。
まぁ、食料とか飲料が無限にあると言うのは旅をする上でかなり助かる。
ホントに無限に入っているかはわからないが…
まだ出会って1日も経って居ないが何となくフィリスは俵の性格を掴んできていた。
自由奔放でお人好し、何よりご飯が好きと言うのが今の所の彼の評価である。
本来なら警戒心の塊の様な子狐が出会って数分の俵に懐いているというのも…いや、あれは餌付けされただけか、と思い直す。
兎も角、フィリスは俵から目を離せないでいた。
恋愛的な観点では無く、何をするか分からないという意味でだが…
そんな俵は大量の米を研ぎ、羽釜に入れてペットボトルの水を大量に入れて行く。
平釜にはごま油を引き、切ったタマネギと人参、乱切りにして水にさらした牛蒡、一口サイズに切った里芋を入れて炒める。
量も多いので3.4分ほど炒めてごま油が馴染んだ頃に豚バラ肉を大量に入れる。
しっかり炒め合わせて豚肉の色が変わった頃に水を大量に入れる。
大体は目分量でやっているがまぁ、男の料理なんてこんな物と割り切る。
アクを取りつつ鞄から味噌を取り出し、味噌を平釜に溶き入れる。
薪を少し減らして弱火にして様子を見ながら隣の羽釜の様子も見る。
ぐつぐつと煮立つ音を聞きながら辺りには良い匂いが漂ってくる。
ちょこちょこと子狐が俵の足元に擦り寄る。
それに気付いた俵は鞄からビーフジャーキーを取り出すと子狐に差し出す。
「すまんが、今はコイツで我慢してくれ。」
「くぅん。」
子狐は仕方ないなぁとばかりにビーフジャーキーを咥えると少し離れた場所に移動するとガジガジとビーフジャーキーに噛り付いた。
恐る恐る見ていた獣人族の人達も匂いに釣られて俵の周りに集まってくる。
「さて、どんな具合かな、と…」
俵は平釜の中の里芋に竹串を通し、火の通りを確認する。
納得行ったのか更に味噌を追加で溶き入れる。
少しばかり豚汁の方が早かったか、と思いながらも羽釜の様子を見る。
羽釜の中の米は粒が立ち、ツヤツヤと輝いていた。
羽釜の中身を軽くかき混ぜてから俵は水に手を浸し、手に塩を軽く塗ると徐ろに羽釜に手を入れる。
「あち、あちち…」
あちあちと言いながら俵は米をぎゅ、と軽く握り三角形に整えていく。
ある程度作った所で手が慣れて来たのか作るスピードが上がっていく。
どんどん作られていくおにぎり。
俵はおにぎりを握りながら近寄ってきたフィリスに声を掛ける。
「すまん、手が放せんからそこの器に豚汁をよそって彼らに配ってやってくれ!」
「アンタねぇ…はぁ、分かったわよ。」
フィリスは諦めた様に溜め息を吐くと大量の器に豚汁をよそっていく。
渡された器にどうしたらいいのか戸惑う獣人族に俵は人懐っこい笑顔でおにぎりを手渡す。
「まぁ、取り敢えず食った!食った!小難しい事はそれから考えろ!」
目の前でおにぎりを一口で頬張った俵に釣られる様に獣人族達は器に口を付けたり、おにぎりを頬張るのだった。
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