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15 クトラの想い
しおりを挟む「失礼いたします」
と、フィーリアの部屋へ一歩足を踏み入れたハウリャンは、ものの見事に躓いて床に大の字に転んだ。
最早毎朝の恒例行事になったハウリャンの伝統芸。
そう。ハウリャンは必ず部屋に入るときに、躓いて派手に転ぶのである。必ずと言っていいほど、絶対に転んでいた。
最初のうちは驚きの方が強かったフィーリアは、何度も見ているうちに慣れてしまった。
「大丈夫?」
「はい。毎回申し訳ありません」
何度も同じことを、毎日繰り返していたからか、ハウリャンと少しだけ親しくなっていた。
「それで、今日はなんて仰っているのかしら?」
「『今日はウルミス嬢のところで食事をする』とのことでございます」
「そうですか。毎日伝言ありがとうございます」
伝言を伝えるハウリャンは、とても申し訳ないような顔をしていた。
最近ではハウリャンは事務的ではなく、フィーリアを気遣うような顔をしているのだ。その顔を見るととてもいい人で、嘘のつけない人なんだろうなと感じた。そして、そんな風に思わなくてもいいのにとも思っていた。フィーリアとダウール様の間にはそんな悲壮感の漂うような想いはないのだからと。けれど、ハウリャンがこんな顔をするということは、フィーリアとダウール様の関係性を知らないということ。だから、ハウリャンに心配しなくても大丈夫と告げることも出来ず、逆にフィーリアの方が申し訳ないと思っていた。
後宮の庭を散策しながら、自分の気持ちの矛盾に苦笑いが浮かぶ。
自分で他の候補者の人と食べてと言ったくせに、毎朝ノックの音が響いて、でもハウリャンが来たと告げられるたびに、来ないんだ……と残念な気持ちになっていた。無意識のうちに、ダウール様が挨拶くらいなら来てくれるだろうとどこかで思っていたのだろう。あれからまったく会えなくなるとは思っていなかったから、少しだけ淋しく思っていた。
でもさぁ、少しくらい顔見せてもいいと思うんだよね……。
まったく来ないっていうのはどうかと思うんだけど……。
こんな気持ちを知られたら、ダウール様にやはり子供だなと思われるだろうことが予想できてちょっと悔しい。あれだけ大見得を切ったのに、情けないとも思った。
けれど、同じ城に住んでいるのに会えないのはやはり淋しかった。
考え事をしながら歩いていたら、突然声が聞こえた。
「昨日ダウール様とお食事をした際、お土産にと、とても美しい細工菓子をいただきましたの。私をイメージして作らせた物だと仰っておりましたわ」
「あら、わたしは隣国で採れたというとても稀少な果物をいただきましたわ。わたしが果物を好きと言ったのを覚えていてくださったみたい」
「まあ、強請って、お忙しいダウール様の手を煩わせたのですね?」
「お優しいダウール様がわたしを思ってくださっただけですわ」
ハッと顔を上げた時には角を曲がっていて、クトラとニルン様が言い争っている前に出てしまっていた。
「クトラ、ニルン様」
いくら考え事をしていたからといって、いつもなら声が先に届いて、二人が落ち着くまで陰から見守っていたのに、こんな風に無遠慮に乱入してしまって、自分でも驚いてしまった。
次に続ける言葉が見つかけられなかった。
クトラとニルン様も現れたフィーリアに驚いたような顔をして見つめていた。
「フィー、行こう」
先に動いたのはクトラで、フィーリアの腕を掴み、フィーリアが来た方へと引き返した。
腕を引っ張られたせいで、ニルン様に挨拶を返す前に離れてしまった。振り返って見れば、ニルン様と目が合い、にこりと笑いかけられた。クトラに向けられていた冷たい目ではなく、初めて会ったときと同じ優しい知性的な目だった。軽く会釈するだけの挨拶しか返せずに、引っ張られてすぐに視線を前に戻すしかなかった。
フィーリアを引っ張るクトラを見ると、眉間にしわを寄せていた。
「もう……つらい。………っ、許すまじ」
低く呟く声がクトラから、聞こえる。
初めて聞くクトラの苦しそうな声に、言葉を失った。
クトラが涙を滲ませている。
それ程にニルン様が嫌いになっていたとは……。
こんな苦しそうな声を出すほど、ダウール様を好きになっていたことに今まで気づかなかった。
フィーリアの前では、昔と変わらない明るいままだったから、ここまで苦しんでいたとは思っていなかった。
初めて好きという気持ちが恐ろしくなった。
これ程に人を変えてしまう。それを目で見て実感することになって、物語との違いにどうすればいいのかわからなくなった。
……クトラを応援するべきなのだろうか。
でも、ニルン様もダウール様が好きなはずだ。だからこそ、クトラと言い争っているんだろうし……。
ウルミス様だってどう思っているのか、まだ分からない。
……ムーリャン様はダウール様のことをどう思っているかはわからないけれど。
ダウール様に指摘された通り、フィーリアも妃候補として来ている立場だ。
友人だからという理由で一人に肩入れしてはいけない気がした。
これからは妃候補者としての振る舞いをしようと決めたのだから。
でも、だからこそどうしたらいいのか、フィーリアには答えが出せなかった。
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