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22 ニルンの気持ち
しおりを挟む朝起きて、フィーリアはラマにニルン様への面会を頼んだ。
昨夜、ダウール様が帰ったあと、一人になって冷静に考えてみた。
恥ずかしい行動をしてしまった。その事実はもう変えられない。ならば、どうすればいいのか。
それは妃候補者同士の諍いを止めることだという結論に至った。
今までクトラとニルン様に関しては、どちらかというと微笑ましいというか、いかにダウール様と親密になったかの自慢話が中心で、ただクトラやニルン様のダウール様への想いがぶつかり合っていて、それをどうすればいいか分からず様子を見るだけになっていた。
でも普通に考えれば、そんな姿を人前で見せるものではなかった。というか、見せてはいけないものだった。
そんなことにも気が付かず、傍観していただけだったフィーリアは、まず、クトラとニルン様に正面から向き合う事から始めなければならないと思った。
二人の、いえ、ウルミス様とムーリャン様を入れて、四人の気持ちを確かめて、争うことをやめてもらえるようにお願いしようと思った。
*
一日が始まるといつものようにやって来たハウリャンも、そのあとに来たセチュンとカブルも、フィーリアの明るい顔を見て、安堵の表情を浮かべた。
どうやらみんなに凄く心配をかけてしまったようで、もう大丈夫だと伝えると、ほっとしたように微笑まれた。それはいつものように勉強に赴いた先でも同じで、すれ違った文官や警備兵からも声をかけられ、同じように答えるとほっとしたように微笑まれた。
みんなの優しさがすごく心に染みて、フィーリアは泣きそうになってしまった。情けない姿を見せていたのに、みんなとても優しかった。
これからはみんなのために、今の現状を一刻も早く解決しようと決意を新たにした。
勉強から帰ってくると、ラマからニルン様の了承の返事が届いたと聞いた。
フィーリアは深呼吸をして心を落ち着けてから、約束の時間にニルン様の部屋を訪ねた。
「こんにちは、ニルン様。突然の訪問をお許しいただきありがとうございます」
「いいえ、ようこそおいでくださいました。歓迎いたしますわ、フィーリア様」
とても綺麗な笑顔で迎え入れられ、フィーリアは緊張していた肩の力を抜いた。
初めて会ったときと同じ落ち着いた大人の女性のままで、その姿からは微塵もクトラと言い争っているときの姿を感じられなかった。逆に淑女として手本になるような佇まいに圧倒される。
その佇まいになおさらクトラと言い争っているのがありえなく思えて、けれど、だからこそダウール様への想いが強いのだろうと思えた。
「今日はいかがなさいましたか?」
「……あの、クトラ様となぜ言い争っているのですか?」
口から出たのは、先ほど疑問に思っていたことだった。
でも、ずっと理由を聞きたいとは思っていた。どうしても目の前にいるニルン様が人前で声を荒げるような事をするとは思えなくて、例えクトラに対して言っていたことが本当のことだとしても、あんな人前で言い合うような行動をするような人には見えなかったから。
「ふふ、どうしてだと思われますか?」
ニルン様は一拍ほどフィーリアを見つめたあと、人を食ったように笑って質問に質問を返された。
「……ダウール様を好きだから、ですよね?」
フィーリアの答えを待つように笑うニルン様に、言い争いをした理由だと思ったことを伝える。
『好き』という言葉を口にしたとき、なぜかフィーリアの心臓がぎゅっと縮んだように感じた。
「まだまだですわね」
直球で問いかけたのにも関わらず、肯定も否定もなく、まだまだとはどういう意味だろうか。
なぜか面白がっているような感じもして、困惑していると、仕方なさそうに譲歩するような雰囲気でニルン様は微笑んだ。
「もっと考えてくださいませ。……そうですわね、フィーリア様が何を言いに来たのかくらいは予想がついております」
「え?」
「言い争いをやめてほしいのでしょう?」
「──はい」
言い当てられて驚いていると、ニルン様はフィーリアの考えなんかお見通しだというように微笑んだ。
「クトラ様とはもういたしませんわ。ただ、ムーリャン様についてはまだなんとも言えませんわ」
「それは、……はい。わたしもそう思います」
ムーリャン様の言い争いは、クトラやニルン様の言い争いとは次元が違うことは理解している。このまま誰も止めなかったら、より騒動が拡大し混乱することになるだろう。
ムーリャン様には無視されているフィーリアだったけれど、一度しっかりと話をしたいと思っていた。
「ムーリャン様については、私も思うところがございまして、様子を見ているところですわ」
ニルン様の瞳には何か揺るぎない決意みたいなものが宿っていた。
「ですから、ムーリャン様のところへ行かれることがございましたら、私も同行いたしますわ」
「え? あっ……はい、お願いします」
ニルン様の逆らえない強い瞳に見つめられ、フィーリアは反射的に頷いていた。
いつの間にかニルン様のペースで話が進んでいて、困惑しているフィーリアを見たニルン様は仕方なさそうに目尻を下げた。
「……これだけは言っておきますわね。私、ダウール様をお慕いしておりませんわ」
「……え?」
「さあ、お話は以上でございますか? 私、この後行かなければならない場所がございますの」
「え?」
ニルン様にやんわりと背中を押されて、そのまま部屋の外へと押し出された。
少々強引な対応に呆気にとられて、フィーリアは為すがままニルン様の部屋の外に出ていた。
後ろ手にパタンと閉じられた扉を見つめて、少しの間、動くことができなかった。
今、とても重要なことをさらっと言われてしまったような気がする。
──私、ダウール様をお慕いしておりませんわ
そう聞こえた気がした。
遅れて脳が言葉を理解して、疑問が浮かんだ。
あれ?
ではなぜクトラとあんな言い争いをしていたのだろうか。
新たな疑問が出てきてしまった。けれど、先ほどのニルン様を思い出して改めて聞くのは諦めた。あの時もきちんと答えてもらえなかったのに、聞き返しても欲しい答えが返ってくるとは思えなかった。なんだかフィーリア自身で気が付けと言われているような気がしたのだ。
とにかく、ニルン様はクトラとは言い争いはしないと言っていた。それは信じても大丈夫だと思えた。
冷静に考えているフィーリアの心臓は、知らずトクトクと早鐘を打っていた。
ニルン様はダウール様を好きじゃない──、それを聞いた時、ほっとした。
なぜそう思ったのか分からなかったけれど、なぜか良かった、と思った。
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