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26 妃候補第一位?

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 勉強のために今日訪問する先へと向かっている途中、またまた聞こえてきた噂話に、フィーリアの足が止まる。
 そこは前にムーリャン様への苦情と、陛下への不満を聞いた場所だった。
 どうやら、この場所は若い文官達が少しの息抜きに使う場所のようで、職場からは少し離れた死角になっている資料室はたまり場のようになっているようだった。
 こういう場所も必要なのだろうと、止めていた足を再び動かそうとしたフィーリアは、聞こえてきた内容にまた足が止まった。

「陛下の妃は誰になると思う?」
「まず、ムーリャン様はないだろ?」
「だよなー」
「いや、わかんないぜ? 陛下も男だから、ああいうエロい女が好きかもしれないし」
「まあ、身体だけ見ればそれもあるかもしれないが、……性格が悪辣すぎる。あんなのが妃になったら好き放題して俺達も被害を受けるぞ? 今も受けてるけど……」
「冗談だって。あんなのが妃なんて悪夢だ。悪夢」
「だよなー」

 それに同調する声が複数あがる。

「じゃあ、ニルン様か?」
「それともクトラ様?」

 同時に上がる名前に、一瞬静寂になる。

「いやー、お二方とも容姿も家柄もいいけどさ」
「なー」
「あんな人前で寵を競う姿を見るとなー」
「やらなきゃいけないことは別にあるんじゃないかと言いたくなるよなー、……言えないけど」

 耳の痛い指摘に、フィーリアは恥ずかしくて申し分けなさすぎて、穴があったら入りたくなった。

「それよりも、知ってるか?」

 内緒話をするように潜めた声に、フィーリアは声を拾おうと聞き耳を立てた。

「陛下はウルミス様と親密らしい」
「おお、知ってる。二人きりで会っているの見たことある」
「俺も。わざわざ側近を離して、ウルミス様と二人きりになるらしい」
「他の妃候補者には取らない行動だよな」
「…………ということは、陛下はウルミス様を選ぶということか?」
「いや、まだそうと決まったわけじゃないだろう」
「だけど、可能性としては一番あり得るんじゃないか?」
「そうだな」
「ウルミス様の印象は薄いんだけど、他の妃候補者のように特に問題を起こしているわけじゃないしな」
「ああ、いつも俯いていて良くわからないが、守ってあげたくなるような儚さがあるよな」
「なんだよ。お前そういう女が好みなのか?」
「違っ……、陛下のタイプがそうなんじゃないかと推察してだな……」
「わかった、わかった。陛下とお前のタイプが同じだと言いたいんだろう」
「だから、違う! 俺が言いたいのは……」
「わかった。落ち着けって。慌てるほうが肯定していることになるぞ?」

 からかい混じりの笑い声に、一人の文官をいじり始めたようだ。

 気づかれないようにそっとその場を離れる。
 ここまで聞いて、文官達がどう思っているのか理解できた。盗み聞きだけど。
 さすがに文官達も妃候補者であるフィーリアが聞いていると知れば気まずい思いをするだろう。フィーリアもバレたらとても気まずい。
 フィーリアが現実を見ようとしなかった間に、城で働く者達は冷静に観察していたのだ。当たり前のことだが。妃が及ぼす影響は城に働く者達にも、国民にも及ぶのだから。

 文官達の話を聞いて、身につまされる思いだった。フィーリアは恥じない行動をしなければと、妃候補者としての立場がとても重いものだと改めて実感した。

 フィーリアが立ち去った後で、文官達が続けたフィーリアへの評価は、フィーリアの耳に入ることはなかった。


 勉強先へと足を向けながら、文官達の話が頭の中を回っていた。
 文官達の指摘は手厳しいものだった。
 けれどよく考えなくても、騒ぎを起こしているフィーリア達が妃として相応しくないのは自明の理だった。
 その点、ウルミス様は騒ぎも起こさず、当たり前のことなのだけれど、ダウール様と交流を深めていったのだろう。
 それを文官達も目にした。
 だからこその評価であり、事実を言い当てていた。
 文官達はダウール様の妃はウルミス様が相応しいと思っている。それを知ることができただけでもよかった。直接問いかけても誰も本音など語れないだろうから。
 第三者の目というものは大切だ。どんなに自分にそのつもりはなくても、そう受け止められてしまったら、その者にとってはそれが事実になる。今回は誤解もなく、そう思われても仕方のないことをしていたのだから弁明の余地もない。
 これは自業自得ではあるけれど、挽回していくのはとても大変なことだと思った。でも、地道に変わったことを周りに示していくしか道がないことも分かっていた。

 これからやらなければいけないことを心に刻みつけ、文官達の話題に上がっていたウルミス様について考えた。
 ウルミス様はダウール様のことをどう思っているのだろう。全然話が出来ていないウルミス様の気持ちは、今の段階ではフィーリアには分からなかった。
 けれど、文官達の話を聞いて、早めにウルミス様の気持ちを確認しないといけないと思った。
 そしてウルミス様がダウール様を好きなら、フィーリアは応援しようと思った。
 好き嫌いで妃を選んではいけないのかもしれないけれど、それでも妃に相応しいと思われている人がダウール様に好意を持っていたほうがいいに決まっている。
 それにダウール様はウルミス様を大切に思っている。それだけは間違いがない。
 そう思った時にズキンと胸が痛んだ気がした。最近よく胸が痛くなったり、苦しくなったりする。すぐに痛みも苦しみもなくなったりするので気にしていなかったけれど、ストレスかもしれないと思った。
 不調は気になったけれど、これからやらなければいけないことはストレスが溜まることばかりなのだ。慣れていないからストレスを感じるだけ。そう言い聞かせて自分の気持ちを奮い立たせた。

 ダウール様にとって誰が妃として相応しいのか。
 ダウール様の顔を思い浮かべ、また胸が苦しくなった。
 現実を見ることにしたけれど、それでも物語のように、ダウール様にはダウール様にとって唯一のお姫様と結ばれて欲しいと思った。
 フィーリアにとって、大切な大切なおにいだったから。

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