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27 ムーリャンside
しおりを挟む「はぁ」
馨しい色鮮やかな花びらが浮く湯を、手のひらに掬っては流れ落ちるさまを眺める。
湯が流れ落ちる肌は滑らかで輝きを放っていた。
「フフフッ……、フフフフッ」
口から堪えきれない笑いが溢れる。
「もう少し、もう少しで、あたくしは世界一の地位を手にする」
王であるダウール様は素っ気ない態度を示しながらも、その瞳は逸らさずにあたくしを見つめていた。
それ程期待していなかった王の顔は、思っていたよりも端正な顔立ちで、あたくしの許容範囲内に入っていた。だから、その地位以外に意味はないと思っていた王を、あたくしのコレクションの一人にしてあげてもいいと思った。
後宮に入る予定日に間に合わなかったあたくしは、苛ついていた。
頼んでいた服が間に合わなかったため、予定日に出立できなかったのだ。そんな役立たずはすぐに解雇させたけれど、届いた服は要望通りに出来上がっていたのでそれだけで赦してあげた。
ああ、なんて寛大なのかしら、あたくしってば。
本当なら鞭打ちくらいは当然のところを赦してあげるなんて……。
泣きながら感謝の意を述べて、床に頭を擦りつけていた男を思い出して、また笑いが込み上げてきた。
「あたくしってば、寛容よねー」
「はい、ムーリャン様ほど寛容な方はいらっしゃいません」
あたくしの髪を洗っていた侍女が手を止めずに同意してきた。
あたくしの素晴らしさを分かっている侍女は、そのあともどんなにあたくしが素晴らしいかを語り続ける。
それを適当に聞き流し、今夜食事にやって来る王にどうやって手を出させるかを考えた。
何度かあたくしの部屋で食事をした王は、初めの頃は緊張からか頑なに座っている椅子から動こうとはしなかった。視線も料理に向けるばかりで、食事を終えるとすぐに帰ってしまった。
あたくしはもちろん食事のあとすぐに寝室へと行くものだとばかり思っていたから、引き止めることができなかった。今までそのまま帰った男なんていなかったから、何もしないで帰った王が信じられなかった。けれど、すぐに思い至った。あたくしの魅力に怯んでしまったのだと。あたくしほど美しい女なんてあたくし以外いるはずがない。だから触れてもいいかわからずに、逃げてしまった。そんな男もいたことを思い出して、次は触れやすいようにあたくしから許可を与えてあげることにした。
そんな王との食事は毎日ではないらしく、一向に触れてこない王につまらなくなったあたくしは城の中の男達を物色することにした。後宮に家にいたお気に入りの男達を連れてこれなかったあたくしは、あたくしの審美眼に適った男に声をかけた。
あたくしに声をかけられた男は、あたくしの胸を見て、腰を見て、顔を真っ赤にして息を飲んだ。
そう、この反応が当たり前なのだ。男の降り注がれる視線に愉悦を感じながら、そっと手を伸ばす。
そして、声をかけた。
「あなた、あたくしの侍従にしてあげてもいいわよ?」
あたくしの言葉に、唾を飲み込んだ男は何かを期待するように、瞳を揺らす。その眼差しにあたくしの口は弧を描く。
男の了承の返事を聞くはずの耳が、別の声によって遮られた。
邪魔をした声に振り向くと、第一印象から気にくわなかった侍女長のセチュンがいた。あたくしを敬わないその視線が気にくわなかった。
あたくしが誰かわかっているのかと問えば、だからなんだというように返される。
侍女如きのくせに、あたくしに指図するように言うセチュンを罰しようと動いたあたくしの前に、地味な女が現れた。
あたくしを真っ直ぐ見つめ返す瞳には、あたくしに対する引け目も恐れも抱いていなかった。
その女はあたくしと同じ妃候補者だと名乗った。
頭の先から爪先まで確認して、つい鼻で笑ってしまった。妃候補者にはとても見えなかった。言ってしまえば侍女と対して違いがなかった。
「あなた、地味ねぇ」
思ったまま言えば、にっこりと笑い返された。美しいあたくしから地味と言われても怯まない女に不気味さを感じて、その場を離れた。あの女の反応は今まで出会った誰とも違っていた。あたくしの美しさに、妬む気持ちも、引け目に感じる気持ちも、恐れることもなく、真っ直ぐと見つめ返す瞳。初めて出会うタイプに戸惑った。
そう。そんな出会い方をしたフィーリアは、そのあとも何度も出会うようになった。
いつも見目麗しい男に声をかけていると、必ず話しかけてくるようになった。勉強という大義名分で、あたくしが話しかけている男をよこせという。
コレクション作りを邪魔するフィーリアに、当然のことながらムカついた。あたくしの邪魔をするなんて身の程知らずにもほどがある。地味な顔で、後宮に来てまで勉強をさせられている落ちこぼれのくせに、毎回毎回あたくしの邪魔をしてくるのだから。
勉強をさせられているのを可哀想に思って助言してあげているのに、何を言っても引かないフィーリア。だから最近は無視することにした。フィーリアなんかに関わって時間を無駄にするよりも、次の男へと声をかけたほうが効率がいいことに気が付いたからだ。
けれど、フィーリアに邪魔されたためか、なかなかコレクションが増やせないでいた。あとひと押しで堕ちるところまでいってもフィーリアがタイミング良く現れて男を掻っ攫っていく。
その鬱憤を都合のいいカモを見つけて晴らした。
そのカモも妃候補者というのだから笑えた。いつも俯いていて、オドオドして、とても不細工だった。だから身の程を教えてあげた。教えてあげたあたくしはとても親切だと思うわ。
妃候補者としてあたくしのライバルになれるものなんていなかったけれど、クトラとニルンは油断がならない。このあたくしに対して、意見を言ってくるのだもの。まあ、適わないと思う僻みからなのだろうけれど。そう思うと、可哀想ね。あたくしは罪な女だわ。
「フフフッ」
優越感から、笑いが溢れる。
「まあ、いいわ。王が選ぶのはあたくしだもの。それまではせいぜい吠えていればいいのよ。負け犬のように」
口から漏れる笑いが止められなかった。
全身に香油でマッサージを受けながら、やって来る王をどのようにして籠絡するかに思いを馳せた。
あたくしのこの身体に触れて堕ちなかった男なんていなかったのだから。
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