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39 ダウールの愚痴 ダウールside
しおりを挟むフィーリアに促されて、フィーリア、クトラ、ニルン嬢の後ろについて歩く。
前を歩く三人を見ながら、ここ数日の忙しさが終わることに安堵した。
ムーリャン嬢、いやセイリャン嬢が来てからの日々は、セイリャン嬢の対策に追われてばかりだった。その日々を思い出して、無意識にしかめ面になる。
……それにしても、どいつもこいつも俺に魅力がないと突きつけてくれてさあ!
積もり積もった鬱憤を、外で吐き出すことも出来ず心の中で吐き出した。
ムーリャン嬢と偽っていたセイリャン嬢は他の男どもにこなかけるわ、ウルミス嬢の父親は種馬扱いするわ、クトラは……、クトラはもとから悪友だが、あいつは昔から俺のことをヘタレ!と辛辣な奴だった。ニルン嬢は他に想う相手がいるから、まあ俺のことをなんとも思っていないのは構わないのだが、最近の眼差しには呆れたようなものが混ざっていて、訳もわからす追い立てられている気がしてならなかった。
──まあ、とりあえずセイリャン嬢についての対処が終わって本当によかったと思うしかない。
そしてムーリャン嬢か、と思い浮かべ、あまり会話が出来なかったことを惜しく思った。
救出して初めて見たとき、凜とした女性だと思った。
後宮にいるムーリャン嬢と見た目はそっくりだったから、目にした瞬間はもう一人ムーリャン嬢が居ると若干引いたんだが、動き出した瞬間、違うと一瞬で理解できた。浮かべる表情も俺に向ける視線もまったくの別人で、カレルタ豪主が言っていたムーリャン嬢とは目の前にいる女性なのだとすんなり納得できた。
ムーリャン嬢には仕える者の礼儀があった。今回の件で、ムーリャン嬢にも関係者として処罰を下さなければならなくなるが、出来ればこんな女性がフィーリアの側にいて助けてもらえたら助かるのにと思う。
フィーリアは豪主の娘として、勉強は欠かさず行ってきたし、領地を治める豪主の娘としての立場も理解しそれに伴う覚悟も身につけている。それでも一国の正妃ともなれば苦労もより過酷となるだろう。そんなフィーリアの助けになる者は多ければ多いほどいい。
まあ、それもまずは俺がフィーリアを口説き落として正妃になるのを承諾してもらってからの話なんだが。
……はあー。
現状を考えると落ち込みそうになるが、セイリャン嬢のことはこれで解決出来たのだから、これからだと自分に叱咤激励する。誰も励ましてくれないので、自分で自分を励ますしかない。
少し前では親身になって応援してくれていたカブルとセチュンは、最近は呆れるか、小言を言うか、憐れみの目で見つめてくるしかしなくなった。親しさゆえのからかい半分激励半分だと分かっているが、それでも沈みそうになる自分の心を慰めてくれてもいいのではないかと思う。結局誰も励ましてくれないから、自分で自分を奮い立たせるしかなく、これからすべき事を考えるしかなかった。
とにかく、ムーリャン嬢にはフィーリアが正妃になってから提案すればいい。その時にムーリャン嬢が受けてくれるかはわからないが、頼んでみるだけならいいだろう。
今回の件で、カレルタ豪主は処罰を受けた。俺はもちろん能力ある者を排除する気はないが、それでも国の主要の役職に就いている者には知られることになる。そうなればカレルタ豪主の立場はだいぶ下になるだろう。けれど、その事で我こそはと成り代わりたい豪主たちが出張ってくるのは避けたい。我が儘なだけの豪主たちなど国にとっては害にしかならない。豪族の集合体で成り立っている我が国は豪主の意見が強く反映されやすく、それをまとめる国王は交渉力がないとやっていけない。自分の利益ばかりを主張する豪主たちには逆らえない大豪主の存在が必要なのだ。その内の一人がカレルタ豪主だ。だから今いなくなってもらっては困る。そのためにもカレルタ豪主の娘のムーリャン嬢には国に関わって欲しい。カレルタ一族のためにも、カレルタ豪主のためにも対外的に変わらず影響力があると思わせてもらいたい。
と政治的には思っているが、本人が嫌なら無理強いするつもりはない。
一人を犠牲にしてまでやる事でもないし、無理なら代わりの案を考えるだけだ。
*~*~*
と、フィーリアの部屋に着いて、セイリャン嬢の対応とカレルタ豪主とムーリャン嬢の救出劇を語って聞かせたら、フィーリアが感心したように頷いていた。
ははっ、久しぶりにそんなフィーリアの顔を見た。
いつもそんな顔の時は「凄いね、お兄」と褒めてくれる。それが嬉しくて、その顔が見たくて色々な事に挑戦したものだったと思い出した。
フィーリアの褒め言葉を待ったが、今回はいつもの言葉が出てこない。
しかもクトラとニルン嬢は若干呆れたような感情を視線に滲ませていた。
その視線に怯み、何か拙いことでもあったかと思っていたら、苦言を呈された。
「陛下がご無事でよろしかったですわ」
このニルン嬢の一言で、何がいけなかったのか理解した。
心配しているように聞こえるが、意味としては国王陛下たるもの自分で赴かず、家臣に任せるべきでしょうと。
「そうだな。心配をかけてすまなかった」
非を認めて謝罪すると、ニルン嬢とクトラはしょうがないとでも言うように表情を緩めた。
しかし、フィーリアは俺の謝罪に驚いていた。
どうやらフィーリアは俺と同じで、俺が直接現場に出向くことに疑問を感じていなかったようだ。そんなフィーリアが可愛くて、俺の事をそのまま受け入れてくれているようで嬉しかった。
まあ、今までそうして生きてきたし、国王となったとしても変えるつもりもないからフィーリアの方が俺の認識としては正しい。もちろん臣下を動かすことも大事だと理解しているが、自分の目でも確認することは大事だと思っている。特に人を見るときは。
「お分かり頂けたのでしたら、謝罪は必要ございませんわ。ただ陛下が心配だっただけですもの」
ニルン嬢が言葉を重ねてきた。
この件はこれでお終いにしましょうという意味だろう。
「ああ、心配してくれてありがとう」
「当然のことですわ」
互いにニコリと笑い合う。
ニルン嬢は手厳しい俺の監督役も兼ねそうだ。
フィーリアのために呼んだ女性だったが、国王である俺に助言できるこういう女性も必要だと思った。
俺は人材に恵まれている。その幸運に感謝した。
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