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31 心機一転
しおりを挟む泥のように寝て起きたフィーリアは、目覚めたとき頭の中がすっきりとしていた。
近頃の自分の不甲斐なさと、よくわからない自分の心の違和感があまりにも酷くて落ち込みまくっていたけれど、よく眠れたおかげか、鬱とした感情がなくなっていた。
最近熟睡できていなかった事も後ろ向きな考え方をしてしまった要因なのかもしれなかった。
ウルミス様に嫌われてしまった。その事実は辛くて悲しかった。けれど、フィーリアはウルミス様を嫌いにはなれなかった。ただその事実が悲しいだけで、好きなままだった。
だから、ウルミス様がダウール様を好きならば、フィーリアは妃候補を早めに辞退しようと思った。
もとから選定が終わったら、辞退という形で実家に戻る予定だったのだ。それが予定より早まるだけ。制度で側妃として陛下に求められた人は残ることも可能ではあったけれど、ダウール様は昔から好きになったたった一人の人を幸せにしてあげたいんだと言っていたから、他の人が残ることもないだろう。
ベッドの上でいつになく冷静に頭の中を整理できた。
後宮に来たときの浮かれた頭も落ち着いて、やっといつもの自分に戻れたような気がした。
うじうじ悩んでいるなんて自分らしくない。
初めての、クトラ以外で、女友達になれそうな人達がいて、どこか浮かれていて判断がおかしくなっていたのだろう。友達になれそうな人達に嫌われたくなかったのだ。
けれど、がっつり嫌われて肝が据わったというか、これ以上嫌われることもないと合点がいったというか、覚悟が出来た。これ以上悪くなることはないだろうと。
ノックの音に返事を返すと、ラマが朝の支度をするために入室してきた。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう、ラマ」
元気よく、昨夜の暗さが全くないフィーリアを見て、ラマは内心ほっとしていた。
「ねえ、ラマ」
「はい、お嬢様」
「わたし、妃候補を辞退しようと思うの」
「………………え?!」
ラマにしては珍しくこれでもかもいうくらいに瞳を大きく見開いて驚いていた。
もとから辞退することは決まっていたのに、そこまで驚くことなのだろうか。
まあ、予定よりも早いことに驚いているのかもしれない。
「ちょっと予定よりも早いけれど、これ以上妃選別で王城で働く人達に迷惑をかける訳にはいかないし。それにウルミス様がダウール様を好きだとわかったことだし、選ばれるのはウルミス様だと思うし、ね。邪魔でしかない他の妃候補者はいなくなった方がいいと思って」
「……で、ですが、まだウルミス様が選ばれるとは決まっておりませんし」
「もう、ラマったら何言ってるの? ラマだって知っているでしょう? ウルミス様が妃候補者筆頭だと噂されているのを」
「……それは、存じておりますが……(実際の下馬評はお嬢様一択なのですが、もはや当たり前すぎて誰も口にしていないだけだと、お嬢様はご存知ないのですよね……)」
困惑した表情のまま頷くラマは、今の段階で真実を語るべきではないと判断した。
「だから、早く辞退してみんなの負担を減らしたいなと思って」
「……負担と申されますと、ムーリャン様のことはどうなされるのですか?」
「!! ……忘れてた」
「……お嬢様」
「いや、あの、あのね……、ウルミス様に嫌いと言われて、……ちょっとそのことでいっぱいになって、……本当に忘れていたわけでは…………、ごめんなさい。本気で忘れてました」
素直に謝れば、ラマはしょうがないですねと苦笑する。
あんな強烈な人を一時でも忘れた自分が間抜けなのか、それ程までにウルミス様に嫌われたことの衝撃が大きかったのか…………、両方なのだろうなと思った。
「そうだね。……ムーリャン様がいたよね。……ムーリャン様が妃候補を辞退……なんて、しないよね……やっぱり」
「そうでございますね」
ラマにも同意されて、やっぱりそうだよねと思う。
ウルミス様が選ばれると知ったら、何をしでかすかわからない恐さがムーリャン様にはあった。
ああ、どうしよう。
一人では手が足りない。今までを思い出して唸る。
そこでふとニルン様の言葉を思い出した。
ニルン様はダウール様を好きではないと言っていた。その言葉を信じて、ムーリャン様を止めるのに協力を求めてみるのはどうだろうか。
クトラは……、ムーリャン様に対して敵対心バリバリだったから、ムーリャン様を止めることには協力してくれるかもしれない。ムーリャン様がいなくなったあとについては、最終的にダウール様が選ぶことだから、手出しはしない。
ウルミス様を応援するつもりだけれど、フィーリアに出来ることなんて妃候補を辞退することくらいしかない。
クトラには負け戦になってしまうけど、納得するまで正々堂々とウルミス様と戦って欲しい。そして負けて戻ってきたら慰めることしかできないけれど、精一杯力になろうと思う。
友達のクトラよりもダウール様を優先していることになるけれど、国王陛下という国で一番大変な責任を負う立場になったダウール様には、やはり愛する人の支えが必要だと思うから。苦しいとき、辛いときに支えてくれるのは奥様だし、それが愛する人ならば頑張れるとそう思うから。
だから、そのためにもウルミス様を攻撃するムーリャン様を止めないといけない。そして可能であれば、ムーリャン様には妃候補を諦めてもらいたい。
ムーリャン様を思い浮かべて、無理難題な気もしたけれど、ニルン様やクトラがいればなんとかなる気もしていた。
そのためにももう一度ニルン様とクトラに会わなければならなかった。
「ラマ、ニルン様とクトラにお茶会に招待したいとの手紙を出して欲しいの」
「かしこまりました。いつ頃がよろしいですか?」
「可能な限り早く。でも、お二人のご予定に合わせますとお伝えして」
「かしこまりました。それでは、お嬢様。支度を整えさせていただきます」
「はい、お願いします」
ラマによって朝の支度が始まり、フィーリアは身を任せた。
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