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46 ソワソワダウール
しおりを挟む何かを窺うような視線を感じて、フィーリアは口を開かなくてもいいように目の前の料理を食べ続けた。
ウルミス様の告白を盗み聞きした日から初めてのダウール様との食事会だった。その間、ダウール様は挨拶で訪れる事もなくフィーリアと夕食を一緒にとる日になった。
ダウール様はフィーリアの部屋へ訪れたときから、少しばかりソワソワとして落ち着きがなかった。その様子が嬉しさを隠していても堪えきずに滲み出てしまっているような感じで、その原因がウルミス様に告白されたからだと思い至るとまたフィーリアの中に例えようもないモヤモヤとしたものが溜まっていく。
出迎えのために浮かべた笑顔も強ばり、それを見られたくなくて俯き加減でダウール様を招き入れた。
そんな対応にダウール様は驚くように僅かに息を呑む。それから食い入るようにフィーリアを一度見たあとはチラチラと観察するかのように見ながら、なぜかよりソワソワとし始めた。
視線を逸らしていてもダウール様の視線がフィーリアの目の端に映り込み、自分でもおかしいと思う態度をしていることがわかっていたのでより視線を合わせづらくなってしまった。
運ばれてきた食事に手をつけながらも、ダウール様とフィーリアの間には会話らしい会話はなく、食器の動く音だけが部屋の中に響く。
こんなことは昔から思い出しても、一度もなかった。
こんな空気にしている自覚はあったけれど、いつものように話したい話題がまったくと言っていいほど何も思い浮かばなかった。
それよりも先ほどからフィーリアを窺うような視線が気になって、それ以外のことが考えられなかった。
……何か聞いて欲しいことでもあるのだろうか。
そう問いたくなるようなダウール様の視線だったけれど、それを問うとダウール様のソワソワしている理由を尋ねることになりそうで、フィーリアはやはり口を開くことが出来なかった。
それにダウール様が何も言わないのも珍しい。そう思っていると、ダウール様が食事の手を止めた。意を決したようにフィーリアを見つめる。
「……──フィーリア、……その、ウルミス嬢のことなんだが、どうだろうか……」
ダウール様の口から思っていた通りにウルミス様の名前が出て、胸に溜まったモヤモヤが熱を出したように熱くなる。
しかし、どうだろうか、と自信なさげでおそるおそる窺うように尋ねられて、戸惑う。
どうだろうか、とはウルミス様の様子を聞いているんだよね。
まさか、前に頼まれていたことを尋ねられているのだろうか。
確かにダウール様に頼まれてから日にちが経っていたから、もうウルミス様のところへ行って話しているだろうと思われても仕方ない。が、それを尋ねられると思っていなかったら、ウルミス様のところへ向かうことも、会う約束も取り付けることさえしていなかったフィーリアは後ろめたくて、尻つぼみに声が小さくなった。
「……ごめんなさい。……まだウルミス様のところへは伺えてなくて……」
「え? あっ……、そうか。……そうだよな。焦っては駄目だよな……」
ハハッといかにも空笑いをしているのがわかる笑い方で笑うダウール様。
期待が外れて落ち込んでいるように見えた。
「フィーリアの負担にならない時で構わないから」
責めてしまったと思ったのかダウール様は慌てたように言葉を続ける。
ダウール様に気を遣わせてしまった。申し訳なさで目も合わせられない。
優しいからフィーリアには気にしないように笑ってくれたけれど。
情報が得られなくて落ち込んでいることくらいはわかった。
それにフィーリアを気遣ってくれていても、負担にならない時でいいということは、まだウルミス様のことは知りたいということで間違いない。それくらいウルミス様のことが気になるということなのだろう。
自分でやると言っておきながら、ダウール様の期待に応えられなかった。胸に苦さが広がる。
ダウール様は気まずくなったのか、その後話しかけてこなくなった。今のフィーリアにはその事がとてもありがたかった。
静かに食事を続けながら、ふと疑問を感じた。
なぜフィーリアにそんなことを聞いたのだろうか。両想いになっていたなら、ウルミス様に直接聞けばいいのにと。
……まさか両想いになっていない?
いや、あれだけわかりやすかったら、ダウール様が気づかないはずないし。
ならば両想いになってもウルミス様は遠慮して、ダウール様に本音を隠しているからとか?
あり得ることだった。ウルミス様はものすごく謙虚で、遠慮がちで、人を気遣ってくれる奥ゆかしい女性だったもの。
そんなウルミス様だからダウール様はフィーリアの助力を求めたのだろうし、今回もフィーリアに確認したということか。
料理だけを見ていた視線を、ちらりとダウール様へ送る。
先ほどまでのソワソワした様子もなくなり、物思いに耽っているようだった。
フィーリアは心の中で息を吐き出す。
……ソワソワしたダウール様からウルミス様と両想いになったと言われると思っていた。
けれど、ダウール様はそれを口にしない。フィーリアになにも言わないのは何故だろうか? やはりまだ両想いになっていないから? そんなことあるはずないと思いながらもダウール様が口に出さないなら、フィーリアからその事に触れなくてもいいんじゃないかと思った。まだフィーリアは心の底から喜んで祝える気持ちにはなれていなかったから。
そう思う気持ちになんでなるのか自分でも理解できていなかった。
結局、今回は別の意味で気まずい空気のまま、食事会が終わってしまった。
***
数日後、一人で夕食を取りながら、進まない手をどうにか動かしていた。
今、ダウール様はウルミス様のところで食事をとっているはず。
嬉しそうに笑うダウール様を想像してしまい、またもやモヤモヤした気持ちが心の中に広がっていく。
ダウール様と食事会を終えた後も、結局ウルミス様と会う約束を取り付けることが出来ずにいた。そして、今日はダウール様がウルミス様のところで食事をする日だった。ハウリャンが朝そう伝言してくれたので間違いはない。
モヤモヤした気持ちが晴れなくて、どうにかこうにか完食した後、またラマを伴って東屋へ向かうことにした。
食が進まないからと言って料理を残すことは出来なかったから、どうにか頑張って食べきった。
静まりかえる夜の通路に、夜に鳴く鳥の声が響く。
屋根の隙間から見える星空は、フィーリアの心の中とは違って、星が瞬き、雲もなく澄みきっていた。
東屋の近くまで来ると、衣ずれの音がした。誰か先客がいるのだろうかと、今日は誰にも会いたくなかったフィーリアは踵を返す。
部屋へと戻るフィーリアの耳に、ドサリと何かが倒れたような音が聞こえ、その音が人が倒れたときの音に似ているような気がして、ラマと顔を見合わせると、確認するために音のしたところへと近づくことにした。
角を曲がり、その音のした方へと視線を向けると、そこには胸もとの服を苦しそうに握りしめたダウール様が膝をついていた。
「お兄?!」
咄嗟に出た言葉は言い慣れた呼び名だった。
言い間違えたことにも気づかず、様子のおかしいダウール様に慌てて走り寄った。
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