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47 油断大敵 1 ダウールside
しおりを挟むダウールがフィーリアに東屋付近で出会う数十分前のこと。
俺は今夜の食事相手であるウルミス嬢のところへ来て、食事をとっていた。
セイリャン嬢の問題が解決した機に他の妃候補への夕食会を止めたいと思っていたが、フィーリアとの食事の際、クトラを結婚相手に薦められて俺は撃沈した。
フィーリアにクトラを結婚相手に薦められたことが男として眼中にないのだと突きつけられたようで、心が傷つきジクジクと痛み続け、気を紛らわせるために他の妃候補と食事会を続けた。フィーリアとの約束でもあるし、ウルミス嬢には償わなければならないとも思っていたので止めるに止められない、という理由で先延ばしにしてしまった。
……わかっている。意気地なしだと、ヘタレだと言われるだろうことも。
実際、乳兄弟のカブルには呆れたように「相変わらずフィーリアちゃんにはヘタレだね、お前は」と言われた。
仕方ないじゃないか。フィーリア相手には自信なんて持てるはずもない。フィーリアの周りには出来る男しか居なかったし、特にフィーリアの父親が弱点など全くない男だったから、そんな父親を見て育ったフィーリアの目はとても肥えていた。出来るといわれる基準が高いのだ、本人には自覚はないけれど。
だから俺が他のところで秀才だ、完璧だと言われようとも、まったくもって自信なんて持てなかった。
先に惚れてしまったほうが負けだと言われているが、本当にその通りだと身をもって実感している。
出会って間もない頃、俺は努力しているところを褒められて、コロリとフィーリアに堕ちてしまった。
あの頃は陰でどれだけ努力しているかも認められず、煽てたり媚びを売られたりされた上で僻まれてばかりだったので、人間関係に嫌気がさしていた。
そんな俺に真っ直ぐな目をして笑いかけ、「すごいね」と手放しで褒めてくれたのだ。
「わたしもやってるけど、上手くいかないんだ。お兄ちゃん、すごくすごく練習したんだね。すごいね」と。
フィーリアはやりもせずに口先だけで褒めるのでもなく、かといって自分には出来ないことが出来てしまう者に対して妬みながらも口先だけで煽てることもしない。
それは何年経っても変わらなかった。そしてフィーリア自身は努力を怠らず、向上心を持ち続けた。
そんなフィーリアに堕ちないわけがなかった。
それからはフィーリアに見合う男になるために俺は努力した。
けれど、歳が離れすぎていたのが良くなかったのか、はじめに兄のように接してしまったのがいけなかったのか、どうしても男として見てもらえなかった。フィーリアの父親のせいで兄のように接するしかフィーリアの側に居ることが出来なかったのが原因かもしれない。
それにフィーリアは父親のせいで純粋培養されたように異性に対して無垢に育ってしまった。男がフィーリアを恋愛の対象として見ているなんてことは思いもしないのだろう。
そんなフィーリアに男を意識させたら、怖がらせて逃げられて近寄らせてもらえないかもしれない。そんな懸念もあって、何も出来なかった。
フィーリアに何も出来ないならば、最大の壁として立ちはだかっているフィーリアの父親をまず攻略しようと奮闘していたら、挑発されるように「王くらいの男にならフィーリアを嫁にやってもいい」というようなことを言い出した。
だから俺は「ならば王になりましょう。その時はフィーリアを嫁にもらい受けますから」と発言を撤回される前に言質を取った。
「やってみるがいい」とニヤリと笑われたので、俺も「見ていてください」と負けじと笑い返した。
その後は、ありとあらゆる手を使い、王になり、フィーリアを後宮に招くことが出来た。
やっと、やっと、フィーリアに異性の一人の男として会えると喜んだのも束の間。セイリャン嬢の問題が起こり、解決したらクトラを結婚相手に薦められた。
俺の心はフィーリアの言葉で激しく揺れ動き、粉々に砕けた。
フィーリアの言葉は俺をおかしくする。
フィーリアの言葉で簡単に落ち込んでしまう。
フィーリアの言葉にどうしようもなく弱かった。
弱っていた俺は、ウルミス嬢の前で弱音を吐いてしまった。ウルミス嬢に言ったというよりは、独り言が零れ落ちただけだったのだが。それなのにウルミス嬢は優しく否定してくれた。
セイリャン嬢によって傷つけられたウルミス嬢を労らなければいけない立場なのに、逆に気を遣わせて励まされてしまった。
その後に続いた言葉に疑問を持って顔を上げたときに、視界の端にフィーリアが見ていることに気づいた。それでウルミス嬢がお慕いしている的な発言を突然言い出したことに合点がいって、ウルミス嬢の演技に合わせるように戸惑ってみせた。少しでもフィーリアがやきもちを焼いてくれないかとの計算が働いてしまったのだ。フィーリアの表情が僅かばかりショックを受けているように見えたから。そして、フィーリアは何も言わずにすぐに立ち去ってしまった。
そんなフィーリアに僅かばかりの期待を抱きながらも、やはり確認することが恐くて、結局フィーリアに会うことになったのはフィーリアとの食事会の夜だった。気のせいかもしれないとは思いながらもフィーリアの部屋を訪ねれば、いつもの華が咲くような笑顔がなくて、すぐに視線を逸らされてしまった。その様子に俺の僅かばかりだった期待が高まって、でもどう確認すればいいのかわからなくて、俺達としては珍しく会話のない食事が続いた。
俺はどうにか勇気を出して、ウルミス嬢の名前を出してみた。情けなくもその声は俺の心のままに自信がなさげに響いた。
すると俺がウルミス嬢の名前を出しただけで、フィーリアの顔が強張った。
その瞬間、俺の心は歓喜で満ちた。
やきもちを焼いてくれた! 勘違いじゃなかった!
喜びを噛みしめようとしていた俺の耳に入ってきたのは、申し訳なさそうなフィーリアの謝罪だった。
途端、ぬか喜びだったことに気付く。どうやらフィーリアは俺が頼んだことの経過を聞きたいのだと思ったようだ。違う、それが聞きたかったわけじゃなんだと言えるはずもなく。
俺だってフィーリアは忙しいのだから、すぐにはウルミス嬢のところに行けるはずがないこともわかっている。それなのに催促しているような形になってしまった。そのせいでフィーリアの顔も曇ったのだろう。
フィーリアの表情の理由がわかって、期待していた分気落ちしてしまう心を気取られないように、フィーリアに違うんだと伝える為にも明るく笑い飛ばした。……が、空笑いとわかるような笑い方になってしまった。失敗だ。
その後も気まずくて会話が出来ず、フィーリアはずっと難しい顔をしていた。
ウルミス嬢のことで責任を感じているのだろうか。負担を軽くするために言った言葉が責任感の強いフィーリアにより責任を感じさせてしまったか。
フィーリア相手にはまったくもって上手くいかない。
やきもちを焼いてくれたと思ったのも勘違いだったし…な。
はあぁぁぁ。落ち込むな……。
それにしても、フィーリアはウルミス嬢が告白まがいの演技をしたとき、なぜショックを受けた表情を浮かべたのだろう。あれも俺の願望が見せた幻だったのだろうか。
フィーリアが初めて見せた表情だった為に、見間違えたというには無理があるほど脳裏に焼き付いていた。勘違いであると納得しようとしても、やはり違う表情を見せたフィーリアに期待してしまう心を止められなかった。
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