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50 予期せぬ出来事 2
しおりを挟むダウール様の熱で揺れ動く瞳は不思議な魅力に満ちていて、フィーリアは囚われたように魅入った。
「フィー……リア」
乞われるような掠れた声が耳に届く。フィーリアは近づいてくるダウール様をじっと見続けていた。
ふいに唇に柔らかい感触がした。
……ん?
その感触にやっとダウール様の顔がかなり近いと気付いた。というかダウール様の唇がフィーリアの唇と重なっていた。
って……え? んん?
「フィー…リア」
僅かに離れた唇がフィーリアの名前を呼ぶ。名前を呼ぶ唇がフィーリアの唇を掠め、荒い熱い息があたる。
頭の後ろを持ち上げられ、少し上向いたフィーリアの唇を確かめるようにダウール様の唇がゆっくりと触れた。
ダウール様の唇は火傷しそうなほど熱く、触れた唇から熱が移ったかのように、フィーリアの唇は熱くなった。
その熱に、熱さに、これが現実なのだと否応なしに突きつけられた。
え? なんで? え、…なんで、なんで?!
自分の状況を理解したフィーリアは混乱の中に陥った。
柔らかい唇の感触とたまに漏れる熱い吐息がかかって、フィーリアの心臓はうるさいくらいに鳴る。
なぜダウール様に口づけられているのかわからなかった。
全身が心臓になったかと思うくらいドクドクと脈打つ。耳の中にまで鼓動が響いて、煩すぎて考えの邪魔をしていた。
というか、息が苦しくなってきた。驚いて息を止めていたのだ。もう限界が来て身体がプルプルと震えだした。
ふっと唇が離れた瞬間、大きく息を吸った。
「お…兄……?」
戸惑う気持ちが大きすぎて、混乱したまま見上げると、ダウール様の煉瓦色の瞳が獲物を前にした捕食者のような見たことのない色に染まっていて、反射的にビクリと身体が震えた。
フィーリアの震えに気付いたのか、その瞳を隠すようにすぐに搔き抱くように抱きしめられた。
フィーリアを抱きしめているダウール様の身体がとても熱く、初めて感じる距離に息が詰まる。
いつの間にか膝の上に座らされていたフィーリアはダウール様と隙間がないくらいにぴったりとくっついていて、自分の太ももに熱いものが触れているのに気付いた。
「──ッ」
息が詰まって、声にならない悲鳴が喉の奥に消え、顔が真っ赤に染まった。
乏しい知識の中で、ダウール様の今の状態があることを示しているのに気付いてしまった。
今日はウルミス様と食事をしていたはずだ。
ウルミス様のところには媚薬がある。
そこから導き出される答えはひとつしかない。
「まさか、媚薬を……」
呟いた言葉はフィーリアの言葉に反応したダウール様の唇で塞がれて、消えた。
だから、あんな凶悪な獣みたいな瞳をしていたのかと納得した。あれが欲を宿した男性の瞳。
そんな欲を持って触れられていることに、強烈に恥ずかしさが押し寄せた。
脳内には今まで読んだそういう場面が頁をめくるように駆け巡る。
まさかこれから、物語のような展開が自分の身に起きるのだろうか。
……どうしよう。どうすることが正解?
媚薬を飲んだ人にどう対応すればいいのかだけに囚われ、嫌だと微塵も感じていないことに気付いていなかった。
繰り返される口づけに初心者のフィーリアは熱で痺れたように頭がぼうっとしてきた。処理能力の限界を超えていて、もう何も考えられなくなっていた。
フィーリアはダウール様に身体を預けるように服を掴んで、ただただ繰り返される口づけを受け止め続けた。
*
「お嬢様……、お嬢様……」
扉の外から、声を抑えたラマの呼びかけが聞こえてきた。
その声にどこかに飛んでいた意識が徐々に戻ってくる。
「お嬢様……」
またフィーリアを呼ぶ声が聞こえ、ああ、ラマがカブルを連れて来たのねと認識した。
──ん? ラマ?!
ラマの存在を思い出して、今自分の置かれている状況を思い出し、ダウール様の腕の中でもたれかかって固まっていた身体がビクッと震えた。その震えを感じ取ったのかダウール様もビクリと震えて、柔らかく食むように触れていた唇を離し、欲に濡れた瞳がフィーリアを捉えた。
フィーリアに焦点が合ったと思った瞬間に、瞳に理性が戻り、次いで驚愕が浮かぶと思い切り身体を離された。少し乱暴ともいえる力でフィーリアを膝から下ろすと距離をとられた。反動でよろけたフィーリアは、突然の動きに驚く。
くっと媚薬により苦しげな荒い息を吐き出したダウール様を見て、慌てて手を伸ばす。今はとにかくダウール様を助けなきゃいけないと支える為に伸ばした手を、ダウール様は避けるようにして立ち上がり、ふらつく身体で扉へと向かう。扉を開けた音に気づいたのか、外からカブルの声が聞こえた。
「ダウール、大丈夫か」
「……ああ」
気遣うカブルに答えたダウール様の声は力なく、カブルに身体を支えられていた。
近づくフィーリアに気づいたダウール様は顔を強張らせた後、視線を逸らした。
「……すまない」
一言だけ呟く。
フィーリアはなんて答えればいいのかわからなくてダウール様を見つめていると、様子を窺っていたカブルが遠慮がちに口を挟んできた。
「ごめんね、フィーリア様。今はとにかくこれを連れてかないと。話はまた後でいいかな」
頷いて返事をすると、ふらつくダウール様を支えながら去っていった。
見えなくなるまで姿を見送ると、そっとラマが近寄ってきた。
「何かございましたか?」
「……なにもないよ」
ラマが他に人が居ることも考慮して具体的なことを言わずに問いかけてきたことはわかった。何かがあった事を察して、心配して聞いてきたこともわかったけれど、何もなかったとしか答えようがなかった。
確かに……口づけられた。生まれて初めてのキスだった。いや、キスと言っていいのかさえわからない。
なんて答えたらいいのかわからなかった。
今更ながらに胸の鼓動が激しく動いて、身体は通常通りではないことを訴えていた。
だから、一人で頭の中を整理したかった。
「わかりました。お嬢様、お部屋へ戻りましょう」
「……そうだね」
何か言いたげなラマは何も言わないフィーリアを見つめて言葉を飲み込み、部屋へと促した。
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