お兄の花嫁選び 思っていたのとは違うんですが……なぜですか?

神栖 蒼華

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51 予期せぬ出来事 3 ダウールside

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  ◇


「何があったんだ?」

 フィーリアと別れてしばらく歩いた頃、カブルが問いかけてきた。
 フィーリアの前で問い詰めない分別を示してくれたカブルには感謝するが、部屋まで待ってくれても、とも思わなくはないが仕方ないか。事情が分からなければ対処しようもないからな。
 肩を組んで支えられているので、小声で話しても聞き取れるだろう。

「媚薬だ」
「なっ、媚──!」

 大声を上げそうになったカブルは慌てて空いている手で口を覆った。
 こうなるような気がしていたが、やはりか。まあ、すぐに口を覆う対策を講じただけましか。

「詳し…くは部屋へ戻って、からだ」
「わかった。急ごう」

 流石男なだけあり、同じくらいの体型のダウールを引きずる勢いで歩き自室に辿り着いた。
 しかも運良く誰にも会わずに自室に帰って来られた。こんな情けない姿を見せるわけにはいかないからな。助かった。

「詳しく聞きたいが後が良さそうだな。どうする。自分で処理するか? 解毒薬を飲むか? それとも女を呼ぶか?」

 扉をしっかりと閉め、二人きりだと確認したカブルは、ダウールの表情を見て早々に選択肢を突きつけてきた。
 状況把握が早いのは助かるが、答えなど一つしかないことが分かっている癖に、わざと聞いてくるとは意地が悪い。
 フィーリア以外抱く気はないと分かっているだろうに。

「自分で処理する。……が、解毒薬も飲んでおく」
「了解。処方してもらってくる。で? どんな媚薬なんだ?」
「即効性があり、強力な甘った……るい味のやつだ」
「……あれか」
「それだ」

 互いにそれを知ることになった時のことを思い出して、顔に苦笑いが浮かぶ。

「確かに飲んだほうが幾分かましになるか」

 カブルはすぐに踵を返して、解毒薬を取りに部屋を出て行った。

 とりあえず夜着に着替えようと服に手をかけると、花の香りがした。フィーリアがいつも纏っている香り。
 それを意識した途端、抑え込んでいた欲が吹き出した。
 同時に抱きしめたフィーリアの柔らかい身体と唇の感触が蘇ってきた。

 恐がらせないように媚薬を飲んでいることを黙っていたのだが、それが徒となって不用意に近づいてくるフィーリアを遠ざけられなかった。いや、まあ、忠告されていたのに、媚薬を盛られたことを知られたくなかったという気持ちも一瞬働いたのは否定できないが。
 それなのに理性に負け、フィーリアに口づけてしまった。
 何でもするよ、なんて言われたら糸ほどの細さで繋がっていた理性なんて焼き切れてもしょうがないだろ?
 触れる口づけだけで止まれたんだから良かった──わけないよな……。ははは……はあぁぁ。
 口から深い深い後悔のため息が出る。

 ……嫌われただろうか。
 ……恐がられただろうか。
 フィーリアの瞳に嫌悪が浮かんでいたらと想像しただけで胸が痛い。
 ……それとも触れただけだから許してくれるだろうか。
 フィーリアも媚薬を飲んでいることに気が付いていたようだし、事故だったということで……。
 って、ああ……自分で言ってて悲しい。例えどんな状態であろうと、フィーリアじゃなかったら手なんか出さないし、理性だって切れはしない。
 しかしこれを説明すれば、告白しているも同然になる。なんとも思われていない状態で告白すれば、クトラを薦めてきたフィーリアの事だから身を引くかもしれない。いや、もしかしたら義務だと思って嫁いでくれるかもしれない。
 でも、それではダメなんだ。
 フィーリアの夢は両想いの二人が結ばれること。昔から楽しそうに話して聞かせてくれた。
 好きな女の夢だから叶えたい。喜ばせたい。そう思ったからこそ王にまでなったし、後宮も作った。
 しかし……フィーリアの心を手に入れるのがこんなにも難しいなんて思ってもいなかった。
 他の女性からモテていたから自惚うぬぼれていたのだろう。環境さえ整えれば、フィーリアに異性として好意を持ってもらえると。
 けれど、現実は厳しく、思い通りになんていかない。当然といえば当然だが、人の心なんて思うように動かせるはずがないんだ。
 だからこそ時間をかけて努力するしかないだろう。
 ……まずは嫌われていないかの確認からだろうか。

 はああぁぁぁ。というか、ああもう。媚薬のせいで反省もままならない。
 いけない、いけないと思いつつ、繰り返しフィーリア感触が蘇ってきて頭から離れない。
 早くこの欲を発散させないことには、冷静に考えることも出来そうになかった。

 カブルはまだかと扉を睨みつけていると、勢いよく扉が開いた。

「待たせたな」

 同じく勢いよく飛び込んできたカブルに、視線だけで返事をする。
 もう口を動かすのも苦痛になってきた。

「……おぅ。ここに置いておく」

 目が合った瞬間、素早くテーブルの上に解毒薬を置くと、それだけ言い残して逃げるように去っていった。
 獣を前に逃亡していくように見えたが、自分の状態を認識して、盛りのついた獣状態なのを理解した。
 薬を勢いよくあおる。
 ベッドの上に座ると、夜着をゆるめた。


 今日は眠れない夜になりそうだ。

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