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57 アピール作戦 2
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◇
「ねえ、ラマ」
「なんですか? お嬢様」
「このドレス、どうしたの?」
着せられたドレス姿を鏡で確認して、フィーリアは困惑していた。
朝目覚めて用意されていたドレスは見たこともない、家から持ってきたものでもなく、初めて見る物だった。外出着としては華麗な、謁見するときに着ても遜色しないくらいで、外出着というよりはドレスと言ったほうがしっくりする服を着せられていた。
「クトラ様が貸してくださいました」
「クトラが?」
もう一度鏡の中の自分の姿を見て、どういえばいいのか悩む。
「わたしには少し派手じゃない?」
いつもは着ない露出高めの服に、恥ずかしさの方が先立ってしまう。
胸元が大きくあき、いつもよりも肌面積が露出している。いつもは襟付きの物を着ているから鎖骨までしか見えていなくても恥ずかしい。しかも腰のくびれを強調するように胸元を押し上げ、その分腰の部分を締め付けている。
昨日の話し合いでも、クトラに服を借りるなんて話は出ていなかったと思う。
それに、これから勉強に行くのに、いくら何でもちょっと場違いな気がしてならなかった。
「常に美しく装うことが必要だという結論に至り、クトラ様が快く貸してくださいました。お嬢様は陛下にいつお会いするともしれないのですから、その時に可愛いと思っていただけるようにしておいたほうがよろしいのではないですか?」
「そう、だね」
そういう可能性を考えてなかったフィーリアはラマの指摘に感心する。
しかし、いつの間にそんな話をしていたのだろうか。クトラとラマの三人で話していたときはそんな話題は出ていなかったはずなんだけど。
「腕によりをかけてお嬢様を美しくいたしますね」
「お願いします」
鼻歌を歌い出しそうなほどにご機嫌に支度を整えていくラマに、フィーリアは全てを任せることにした。
流石にラマも限度は知っているだろうし、オシャレについては昔からラマに全て任せている。その間にも鏡の中に映る自分がどんどん飾り立てられていく。髪型は全体的に後ろに流しつつ、横の髪の毛は複雑に結われ、後れ毛まで計算されたような仕上がりになっていく。
ラマの気合の入り方が半端ない。
今日の化粧も服に合わせたように、いつもより目鼻立ちがはっきりとなるように施される。出来上がりはとても自然だった。自分で言うのもなんだけど、いつもよりも三割増し、いや五割増しに可愛くなっていた。
……はあ、いつものことながら、ラマはすごいね。
手際の良さとフィーリアを平凡から可愛いまでに飾り立てる腕前に感心しているうちに身支度が終わった。朝食が準備され、いつもよりも手早く食べ終える。今日は身支度に少し時間がかかったため、ゆっくりと食べるほどの時間はなかった。明日からはもう少し早く起きなければならなそうだ。満足そうにフィーリアを見つめていたラマの気合の入り方から考えると。
朝食を終え、勉強へ行くための準備をしていると、ノックが響く。この時間に訪れる者は決まっていた。
「ハウリャンが参りました」
予想通り、すぐにラマがハウリャンを伴って現れた。
「失礼いたします。───ッ」
ドタッ。
いつものことだけれど、ハウリャンは部屋に入ってきた途端に盛大に転ぶ。
本当に不思議だった。なんで何でもないところで転ぶのだろうか? 前にラマに不備がないか一応調べてもらったけれど、床にはまったく問題はなかった。それでもハウリャンは転んでしまう。
まあ、ハウリャンのお陰でどんなときでも肩の力が抜けて、見ている者が和めるのは一種の才能だと思うけれど。
「大丈夫?」
「はい。失礼いたしました」
いつものごとくすぐに姿勢を正したハウリャンは深く一礼した。
これも毎回不思議に思うけれど、怪我もしないんだよね。運動神経はいいのかな? それでも転んでしまうのは運が悪いのか、お笑いの神様にでも愛されているのだろうか。
「おはようございます、フィーリア様」
「おはようございます、ハウリャン。……今日の装いはどうかしら」
挨拶したあと、フィーリアの姿を見て固まってしまったハウリャンの理由を察して、感想を聞いてみることにした。
ここでハウリャンに言葉を濁されたら、ラマには悪いけれど服を着替えるしかない。
「大変お似合いだと思います」
「ありがとうございます。ハウリャンにそう言ってもらえて安心しました。少し派手ではないかと思っていたので」
「確かにいつもの装いとは違いますが、今日のお召し物も大変似合っていらっしゃると思います」
「そう、ですか? そこまで言っていただけると恥ずかしくなりますね」
男性に褒められ慣れてなくて、顔が赤くなりそうだ。
赤くまではなっていないと思うけれど、恥ずかしさから反射的に両手で頬を隠していた。
「それは、失礼いたしました」
真面目なハウリャンは、すぐに謝った。差し出がましいことを言ったと思ったようだ。ただ照れくさかっただけなのだが、素直にお礼を言えばよかったと反省する。
「ハウリャンの言葉はとても嬉しかったです。陛下の言葉を伺ってもいいかしら」
「はい。本日はフィーリア様と夕食をとられるとのことでございます」
「……そう、ですか。承りました」
「それでは失礼いたします」
一礼して、ハウリャンは帰っていく。
フィーリアはハウリャンの最後の言葉に、不意打ちを食らった気がした。
分かってはいた。いつかは、必ず来ると。順番に巡ってくるのだから、いつか、は。
でも、その、いつか……が、今日だとは思っていなかった。
……は、早くないかなー、順番が来るの。まだ心の準備も出来ていないのに。
──会いたい……けれど、会いたくない。
好きと自覚したけれど、ダウール様に直接会う覚悟はまだできていなかったことを自覚した。
あああ……今からでも断りたい。
でも逃げても意味がないこともわかっている。ひと月しかないんだし。
うぅぅ……クトラに助言してもらった上目遣いをしてみようかな?
って、あーーーー、本当に自分にそんなことっ、……できるのかなー。……はあー。
手探り状態の準備不足で、自信が全くない。
叫びたい。不安で不安で髪の毛を掻き混ぜて、大声で叫びたかった。
折角ラマに綺麗にしてもらったから、絶対にそんなことはしないけれど。
心の中であーーーーと叫んだ。
「ねえ、ラマ」
「なんですか? お嬢様」
「このドレス、どうしたの?」
着せられたドレス姿を鏡で確認して、フィーリアは困惑していた。
朝目覚めて用意されていたドレスは見たこともない、家から持ってきたものでもなく、初めて見る物だった。外出着としては華麗な、謁見するときに着ても遜色しないくらいで、外出着というよりはドレスと言ったほうがしっくりする服を着せられていた。
「クトラ様が貸してくださいました」
「クトラが?」
もう一度鏡の中の自分の姿を見て、どういえばいいのか悩む。
「わたしには少し派手じゃない?」
いつもは着ない露出高めの服に、恥ずかしさの方が先立ってしまう。
胸元が大きくあき、いつもよりも肌面積が露出している。いつもは襟付きの物を着ているから鎖骨までしか見えていなくても恥ずかしい。しかも腰のくびれを強調するように胸元を押し上げ、その分腰の部分を締め付けている。
昨日の話し合いでも、クトラに服を借りるなんて話は出ていなかったと思う。
それに、これから勉強に行くのに、いくら何でもちょっと場違いな気がしてならなかった。
「常に美しく装うことが必要だという結論に至り、クトラ様が快く貸してくださいました。お嬢様は陛下にいつお会いするともしれないのですから、その時に可愛いと思っていただけるようにしておいたほうがよろしいのではないですか?」
「そう、だね」
そういう可能性を考えてなかったフィーリアはラマの指摘に感心する。
しかし、いつの間にそんな話をしていたのだろうか。クトラとラマの三人で話していたときはそんな話題は出ていなかったはずなんだけど。
「腕によりをかけてお嬢様を美しくいたしますね」
「お願いします」
鼻歌を歌い出しそうなほどにご機嫌に支度を整えていくラマに、フィーリアは全てを任せることにした。
流石にラマも限度は知っているだろうし、オシャレについては昔からラマに全て任せている。その間にも鏡の中に映る自分がどんどん飾り立てられていく。髪型は全体的に後ろに流しつつ、横の髪の毛は複雑に結われ、後れ毛まで計算されたような仕上がりになっていく。
ラマの気合の入り方が半端ない。
今日の化粧も服に合わせたように、いつもより目鼻立ちがはっきりとなるように施される。出来上がりはとても自然だった。自分で言うのもなんだけど、いつもよりも三割増し、いや五割増しに可愛くなっていた。
……はあ、いつものことながら、ラマはすごいね。
手際の良さとフィーリアを平凡から可愛いまでに飾り立てる腕前に感心しているうちに身支度が終わった。朝食が準備され、いつもよりも手早く食べ終える。今日は身支度に少し時間がかかったため、ゆっくりと食べるほどの時間はなかった。明日からはもう少し早く起きなければならなそうだ。満足そうにフィーリアを見つめていたラマの気合の入り方から考えると。
朝食を終え、勉強へ行くための準備をしていると、ノックが響く。この時間に訪れる者は決まっていた。
「ハウリャンが参りました」
予想通り、すぐにラマがハウリャンを伴って現れた。
「失礼いたします。───ッ」
ドタッ。
いつものことだけれど、ハウリャンは部屋に入ってきた途端に盛大に転ぶ。
本当に不思議だった。なんで何でもないところで転ぶのだろうか? 前にラマに不備がないか一応調べてもらったけれど、床にはまったく問題はなかった。それでもハウリャンは転んでしまう。
まあ、ハウリャンのお陰でどんなときでも肩の力が抜けて、見ている者が和めるのは一種の才能だと思うけれど。
「大丈夫?」
「はい。失礼いたしました」
いつものごとくすぐに姿勢を正したハウリャンは深く一礼した。
これも毎回不思議に思うけれど、怪我もしないんだよね。運動神経はいいのかな? それでも転んでしまうのは運が悪いのか、お笑いの神様にでも愛されているのだろうか。
「おはようございます、フィーリア様」
「おはようございます、ハウリャン。……今日の装いはどうかしら」
挨拶したあと、フィーリアの姿を見て固まってしまったハウリャンの理由を察して、感想を聞いてみることにした。
ここでハウリャンに言葉を濁されたら、ラマには悪いけれど服を着替えるしかない。
「大変お似合いだと思います」
「ありがとうございます。ハウリャンにそう言ってもらえて安心しました。少し派手ではないかと思っていたので」
「確かにいつもの装いとは違いますが、今日のお召し物も大変似合っていらっしゃると思います」
「そう、ですか? そこまで言っていただけると恥ずかしくなりますね」
男性に褒められ慣れてなくて、顔が赤くなりそうだ。
赤くまではなっていないと思うけれど、恥ずかしさから反射的に両手で頬を隠していた。
「それは、失礼いたしました」
真面目なハウリャンは、すぐに謝った。差し出がましいことを言ったと思ったようだ。ただ照れくさかっただけなのだが、素直にお礼を言えばよかったと反省する。
「ハウリャンの言葉はとても嬉しかったです。陛下の言葉を伺ってもいいかしら」
「はい。本日はフィーリア様と夕食をとられるとのことでございます」
「……そう、ですか。承りました」
「それでは失礼いたします」
一礼して、ハウリャンは帰っていく。
フィーリアはハウリャンの最後の言葉に、不意打ちを食らった気がした。
分かってはいた。いつかは、必ず来ると。順番に巡ってくるのだから、いつか、は。
でも、その、いつか……が、今日だとは思っていなかった。
……は、早くないかなー、順番が来るの。まだ心の準備も出来ていないのに。
──会いたい……けれど、会いたくない。
好きと自覚したけれど、ダウール様に直接会う覚悟はまだできていなかったことを自覚した。
あああ……今からでも断りたい。
でも逃げても意味がないこともわかっている。ひと月しかないんだし。
うぅぅ……クトラに助言してもらった上目遣いをしてみようかな?
って、あーーーー、本当に自分にそんなことっ、……できるのかなー。……はあー。
手探り状態の準備不足で、自信が全くない。
叫びたい。不安で不安で髪の毛を掻き混ぜて、大声で叫びたかった。
折角ラマに綺麗にしてもらったから、絶対にそんなことはしないけれど。
心の中であーーーーと叫んだ。
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