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56 アピール作戦 1
しおりを挟む「お嬢様は陛下をお好きだと気付かれて悩んでいたのですか?」
お父様を見送っていたフィーリアに、ラマはお茶を片付ける手を止めて問いかけてきた。振り向くとラマは気遣うような眼差しで見つめている。その眼差しはとても温かくて、フィーリアをとても心配していたのだとわかった。
改めてラマから、好きなんですか?と問われるととても恥ずかしい。特に幼い頃からお世話になってきたラマに知られたのは気恥ずかしかった。恥ずかしくてどういえばいいのか返事に困ったけれど、心配させた上に、なにも聞かずにクトラを呼んでくれたことについてもお礼を言ってなかったことを思い出して、きちんと自分の口から伝えなければならないと、ラマに向き直った。
「うん……、そうなんだ……。ラマにも心配かけたよね。気を利かせて、クトラまで呼んでくれてありがとう」
「いいえ。わたくしに出来ることはそれくらいしかありませんから。わたくしに何かお手伝いできることはございますか?」
「お手伝い?」
「はい。これから陛下を墜とすのですよね?」
「うっ……う、うん。……まだ、どうすればいいか、なにも考えてないんだけどね」
ラマの言葉に、不意打ちのようにウルミス様のお父様の言葉を思い出した。お父様が言ったダウール様を墜とせ……なんて、ウルミス様のお父様が言っていた言葉とまるっきり同じだった。
父親に言われたという状況までも同じで、それを考えるととても頭が痛かったけれど、フィーリアの父親は権力欲からの言葉ではなく、フィーリアの想いを、願いを尊重してくれたうえでの言葉だ。
端から見れば同じかもしれないけれど、ひと月挑戦して駄目なら身を引く覚悟は出来ている。というか、今、出来た。
「ラマに手伝ってもらえたら、とても心強い」
「お任せください。お嬢様のお役に立てるのは侍女冥利に尽きますから。陛下を墜とすためというのは気に入りませんが、やっとご自分の気持ちに気付かれたのですものね。持ちうる限りの力でお手伝いさせていただきます」
やる気を表すかのように胸に手を当てて、力説してくれているラマは頼もしいけれど、今聞き逃せない単語があった気がする。
ダウール様のことが気に入らないとは、ラマらしいといえばラマらしいけれど。今「やっと」と言わなかっただろうか。
やっとって、ラマはフィーリアがダウール様を好きだったと自分で気が付く前から、知っていたということだろうか。……いや、うん、ラマならあり得るかもしれない。フィーリアよりもフィーリアのことをよく知っていそうだ。うん、そうだ。自分が鈍いのかもしれないと今回のことで気付いたけれど、周りにバレバレだったとは思いたくない。ラマが鋭いだけだ。そうそう。そんなラマに協力してもらえるのはとても心強いだろう。
「ありがとう。いつもだけど、これからもよろしくお願いします」
「はい。お任せください」
決意新たに頷き、笑い合っていると、ノックの音がした。
「失礼するよー」
軽い言葉ともに扉が開き、クトラが顔を覗かせた。
「やっほー、どうだった?」
「クトラ」
「おじ様、帰ったんでしょ?」
「よくわかったね」
「勘だよ、勘。それで? どうなったの?」
待っていたかのような、あまりのタイミングの良い登場に感心してしまう。
クトラは楽しそうににやにやと笑いながら問いかけてきた。フィーリアの明るい顔を見て、悪くない結果で終わったことがわかったようだった。
「婚約は保留にしたままで、ひと月でダウール様を墜とせば、婚約は解消してくれると約束してもらえた」
「はあ? おじ様ったら条件を出してきたの?」
ラマによって手際よく用意されたお茶を一口飲んで、呆れたようにため息をついた。
「それは当たり前のことだよ。お父様が決めたことに異議を申し立てたんだから。もとからわたしの要求は不当なものだったんだよ? 考慮して下さっただけありがたいことなんだよ」
「はあ……、まったく。それで? ひと月でダウールを墜とせなかったときはどうなるの? なにもなし?」
「出来なかったら、お父様が決めた婚約者と結婚することになる」
「……はあー。腹をくくったのか、悪あがきなのかわからないけれど、また面倒なことを言い出したんだね」
クトラの言葉はよくわからなかったけれど、お父様から却下ではなく譲歩してもらえただけ儲けものだと思っている。
「それで、これからどうするの?」
「……どうしたらいいんだろう」
どうするのと問われても、どうすればいいんだろう。
今まで好きになってもらうために行動したことがないから何も思い浮かばなかった。
「とりあえず、オシャレしてみるとか?」
「……なるほど」
「それはわたくしがお手伝い出来ますね」
クトラの提案に納得していると、ラマが協力を申し出てくれた。確かにオシャレの分野はラマの管轄だ。身支度を整えてくれるラマが協力してくれるだけで、どうにかなりそうな気がする。
「ラマ、ありがとう」
「いいえ、お嬢様を飾り立てられることは光栄なことですから」
「そっ、そう」
ラマのやる気に満ちた輝く目を見て、どうやら特別な行事の時のように飾り立てられそうな予感がした。
「あとは上目遣いで見つめてみるとか」
「う、上目遣い?」
「そうそう。フィーが読む物語にも出てくるでしょ? その眼差しで堕ちてくヒーロー」
「た、確かにヒロインの可愛さに心奪われているのはよく読んだけれど……」
自分に出来るとは思えない。
「試しにわたしに上目遣いしてみて」
不安そうにしていたのがわかったのか、クトラは手招きした。
近寄って、上目遣いできるように膝をおって下から見上げるように見つめると、クトラはしばらく無言で観察したあと楽しそうに笑った。
「…………うん。まっ、いいんじゃない? かわいい、かわいい」
「本当?」
「大丈夫! ダウールなんてイチコロだよ」
簡単そうに言っているけど、流石にそんなことはないと思う。
かわいい、かわいいが慰めているようにしか聞こえない。
自分にできるかとても不安だけど、何事も一歩踏み出すことが大事だ。まずは女性だと、妹分ではなく、恋愛対象として意識してもらうことから始めなければならないのだから。
その後、クトラとラマを交えて、どのようなオシャレがいいのかをああだこうだと話し合った。みんなでオシャレについて話した時間はとっても楽しかった。
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