シャウには抗えない

神栖 蒼華

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第1章

21 シャウのオシャレ

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お城の城門の前まで行くと、乗る予定の馬車の前にラオスとイラザが立っていた。

「2人ともどうしたの?」

今日は2人とも警備隊で訓練している日だったはず。

疑問に思って問いかけても、2人とも目を見開き、顔を真っ赤にしてシャウを凝視していた。

固まって動かない2人にどうしようと父さんや母さんを見ていると、呼び止める声がした。


「ガルア族長、お待ち下さい」

その声に振り返ると、ユリベルティス殿下が近づいてきていた。

「ユリベルティス殿下ですか。どうされました?」
「ああ、失礼しました。用事があるのはガルア族長ではなくシャウ姫なのですが、お声がけしてもよろしいですか?」

父さんはユリベルティス殿下を観察したあと、頷いた。
父さんの許可を得ると、ユリベルティス殿下はシャウに向き直り、近づいてきた。

「先ほどはご挨拶もできず大変失礼いたしました。そして、兄ギルベルトの無礼な物言い、貴女にも不快な思いをさせてしまい兄に代わり謝罪いたします。申し訳ありません」
「えっ?」

突然の王子の謝罪にどう答えていいか分からなかった。
父さんを見ると頷いておけとでもいうように頷いていたので、おそるおそる返事を返した。

「えっと、大丈夫です。気にしないで下さい」

シャウの返事に頭を上げると、また蠱惑的な笑みを浮かべた。

「シャウ姫はお優しいですね。ああ、貴女のことはシャウ姫とお呼びしてもよろしいですか?」
「姫?! ぼく…、わ、わたしのことはシャウと呼び捨てでいいよ」
「そうですか? ではシャウ、私のことはルティスと呼び捨てで呼んで下さい」
「でも、王子様なんでしょう? さすがに呼び捨てには出来ないよ」
「大丈夫です。私が許可しているのですから呼んで下さい。呼んで下さらないと貴女のことをシャウ姫とお呼びしますよ?」
「分かった。ルティスって呼ぶから姫は止めて」
「姫も可愛らしくてお似合いだと思うのですが、残念です」
「それで? ぼ、わたしに用事って何?」

ルティスの攻撃から早く逃れたくて、先を促す。

「また足をいためていたらと心配になりまして、確認に参りました」
「えっ?」

そう言われてまた、足が靴擦れをおこしているのに気づいた。
家に帰ることに夢中で気づかなかったみたいだ。

ルティスもシャウの足に靴擦れが出来ているのを確認すると、また膝をつき、あの時と同じようにあっという間に傷を治した。そして、また、胸元のポケットから布を取り出すと血を拭き取った。
そしてその布をしまおうとした手を慌てて掴んだ。

「それ洗って返すから貸して」
「お気になさらなくても大丈夫ですよ?」
「いいの、ちゃんと洗うから貸して」

手を差し出すと、ルティスは苦笑してシャウの手に血のついた布を乗せた。
シャウは布を握り締めると、頭を下げた。

「傷を治してくれてありがとう。さっきはお礼を言えなくてごめんなさい」
「私がしたくてやったことですからよろしいのですよ。それにこんなに美しく綺麗なシャウが靴擦れで苦しんでいる姿を私が見たくなかっただけですから」

そう言うと、シャウの手を取り、手の甲にキスを落とした。
瞳を見開いて固まっていると、ルティスは蠱惑的な笑みをまた浮かべ、シャウを挑発するように見つめながら手の甲にキスをし続けた。

手の甲にルティスの唇のぬくもりを感じて、シャウは一瞬で体中を真っ赤に染めた。

「「シャウに触るな!」」

後ろから引き寄せられ、動けなかったシャウをラオスとイラザがルティスから引き離してくれた。
ほっとしてラオスとイラザに視線を向けると、2人がシャウにも怒ってきた。

「なんですぐ手を振り払わなかったんだ?」
「お姫様扱いされて嬉しかったのですか?」
「しかもなんで顔を赤くしてるんだよ」
「見知らぬ男に足を触らせるなんてはしたないですよ」
「それになんでそんな格好してるんだよ、似合わないだろ」
「そうです。シャウにはまだ早いですよ」

ラオスとイラザの言葉に、シャウはショックを受けた。

女の子の格好も似合わないと言われ、まだ早いと言われ、はしたないと言われ……
胸がギュッと苦しくなって悲しくなり涙が滲んできた。


「女性を泣かせるなんて紳士のすることではありませんね」

ルティスの侮蔑のこもった声がラオスとイラザを責めていた。
そしてシャウに向けて大きく手を広げる。

「シャウ、どうぞ私の胸で泣いて下さい」

優しく言われて、シャウはルティスの胸に飛び込みたくなった。

シャウが動き出そうとしたのに気づいたラオスとイラザが、慌てたように掴んでいた手を握り締める。

今はラオスとイラザに触れられたくなくて、2人を振り払った。そしてそのままルティスの胸に引っ付くと泣き続けた。
嗚咽を漏らすシャウの頭をルティスは優しく撫でた。

しばらく泣いていると、父さんの声が聞こえた。

「シャウ、こっちにおいで?」

父さんの言葉に、ルティスから離れると父さんに抱きついた。
父さんはシャウを抱き上げると、ルティスに挨拶をする。

「ユリベルティス殿下、シャウの傷を治していただきありがとうございます。では、御前を失礼します」

一礼すると父さんは歩き出す。
シャウは父さんの首元に顔を埋めて、止まらない涙を隠していた。

馬車の前まで来たらしく、母さんが馬車に乗り込む音がした。

「ラオス、イラザ、お前達は歩いて帰ってこい。きっちり反省しろよ。バカなままだったらシャウには会わせないからな」

そう言い残すと、父さんはシャウを抱えたまま馬車に乗り込んだ。
扉が閉まり、馬車が動き出す。

それでもシャウは父さんに抱きついたまま泣いていた。

ラオスとイラザの言葉が離れなかった。
今まであんなことを言われたことがなくて、かなり傷ついていた。








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