シャウには抗えない

神栖 蒼華

文字の大きさ
26 / 67
第1章

26 シャウの勘違い

しおりを挟む

ラオスが家に訪ねてきた。
母さんからラオスが来たことを告げられ、シャウは覚悟を決めて部屋に通した。

部屋に入ってきたラオスは、僕を見つめると僕の名前を呼んだ。

「シャウ」

僕の名前を呼んだ後は緊張からか強張った顔をしてシャウを見つめるだけだった。
重い沈黙が漂う中、意を決したようにラオスは頭を下げた。

「ごめん、許してくれ」

僕はなんと返していいか言葉が見つからなかった。
言いたいことがいっぱいあったはずなのに言葉がでてこなかった。

シャウが何も言わないのに耐えきれなくなったのか、ラオスはポケットに手を突っ込んだ。

「っ……、これ」
「…なに?」
「とにかく、やる」

上着のポケットから手に収まるくらいの大きさの箱を取り出し、シャウの前に差し出す。
ラオスは差し出した箱を見据えたまま、黙り込んだ。

動かないラオスに、とりあえず箱を開けてみることにした。

「…っ?!」

箱をあけた中には、あの時ラオスが見ていた青色のアクセサリーが入っていた。
シャウは蓋を閉じるとラオスの手に押し返した。

「それは別の女の子に渡す物だろ! なんで僕に渡そうとするんだよ。失礼だろ!!」

僕に対してもアーリュセリアに対しても失礼だと思った。
なんでついでみたいに渡されなきゃならないんだ。
たまたま持っていたからってご機嫌取りみたいに渡すなんて信じられない。
アーリュセリアだってあの時喜んでたじゃないか。
それなのに、僕が知らずにそのアクセサリーを着けて、その僕をアーリュセリアが見たらどうするんだ。
そうなったらアーリュセリアは凄く傷つくと思う。
アーリュセリアのことは苦手だけど、でも、こんな風に傷つけるのは良くない。
そんなこともラオスは分からないの?

……なんで、こんなことするんだよ。
ラオスのことが全然分からないよ……。


僕が黙り込んで俯いていると、ラオスが戸惑ったように話しかけてきた。

「別の女の子に渡すってどういうことだ?」

ラオスの言葉にカチンときた。
まだしらばっくれるつもりなのか。

「アーリュセリアに渡す物だよね。僕は見てたんだから」
「はっ?」
「まだとぼけるつもり?」
「いや、何を言ってるのかわからないんだけど?」

ラオスは困惑げに眉をひそめていたけれど、とぼけているとしか思えなかった。

「そのアクセサリー、この前、アーリュセリアにどっちがいいって聞いてただろ?」

シャウの言葉にラオスは目元を紅くして、視線を彷徨わせた。

(やっと僕の言っていることを理解したのか)

「……あ、れは、ちょっと相談に乗ってもらってただけで……」

言葉に詰まりながらボソボソというラオスに、聞き返した。

「何を言ってるのか聞こえないんだけど?」
「だから! シャウになにを贈ればいいか悩んでいたからアーリュセリアに聞いただけだ」
「……は?」

シャウの方が一瞬何を言われているのか理解出来なくなった。

「これはシャウのために選んだ物だから、他のやつに渡すわけがない。というかシャウ以外に渡す気なんてこれっぽっちもない」
「僕のため……」
「そうだ。シャウのために選んだ物だ」

ラオスはシャウを真っ直ぐ見つめて言い切った。

(そっか、僕に選んでくれたものなんだ)

ラオスの言葉にさっきまでの怒りがどこかへ行ってしまった。
僕のために選んでくれた、その事実に胸が温かくなる。

アクセサリーについては僕の勘違いだったことがわかった。
それは良かったけれど、でも、シャウの心には城での言葉がまだ引っかかっていた。
ドレス姿が似合わないって言ってたのに、なんでアクセサリーなんて贈ろうと思ったんだろう。

「でも、僕にはこういう女の子みたいなの似合わないんだろ?」
「そんなことねえよ」
「この前、ドレス姿の時、似合わないって言ったじゃないか」
「あ、れは、びっくりして真逆のこと言っちまっただけで、……すごく似合ってたよ」

最後の言葉が小さくて聞き取りずらかったけど、ちゃんと聞こえた。
聞こえたから、僕も自分の気持ちを伝えようと思った。

「ラオスの言葉で、僕、すごく傷ついたんだよ?」
「ごめん」

ラオスが床につくくらい深く頭を下げた。

「本当にごめん。シャウを傷つけるつもりはなかったんだ。ただ、ほんとに驚いて、……いや、これはいいわけだな。本当に悪かった。すみませんでした」

ラオスの謝る姿に、シャウはやっと胸のつかえが取れたようだった。

「もういいよ。僕も意地張ってラオスに会わないようにしてたしさ。幼馴染みだからって特別じゃないんだよね。それが今回よくわかったから」
「何言ってるんだよ。シャウは特別だよ」

ラオスが慌てたように言い寄ってきた。

「シャウは俺の特別だよ? 信じてくれよ、な? な?」

あまりにも必死に言い募られたので、笑ってしまった。

「はは、わかった。信じる」
「そう、か、…よかったー」

ラオスは安堵から床に座り込んでしまった。

(そっか、幼馴染みは特別なんだ。良かった)

そのことが嬉しくて僕はご機嫌になった。

「ラオス、何か食べる? 母さんに何かもらってくるね」
「ああ」

僕は鼻歌を歌いながら母さんのところに走った。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...