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第1章
52 ラオスの告白
しおりを挟む「シャウ──」
ルティスに手を繫がれたまま帰ってきたら、家の前にラオスが立っていた。
ラオスの目はルティスと繫がれた手を凝視していて、眉間にしわが寄っている。
それに気づいてシャウは慌ててルティスの手を離した。
──ラオスに誤解されたくない。
咄嗟に動いていた自分に驚いた。
シャウのその行動にルティスは一瞬切なそうな顔をしたあと、「今日はありがとうございました」と挨拶をして帰っていった。
「ごめんなさい」と「手を振り払うつもりなんてなかった」と謝りたかった。けれど、ラオスの視線が突き刺さってシャウは結局行動に移せなかった。
帰っていくルティスを目で追っていると、ラオスからの不機嫌なオーラを感じていた。
今のラオスと目を合わせるのが怖くて、シャウはラオスの方を見れずにいた。
いつまでもラオスを見ないシャウに焦れたラオスはルティスと繫いでいた方のシャウの手を掴んで歩き出す。
「来い」
言葉にも怒気が含まれていて、シャウは黙って着いていくことしか出来なかった。
引っ張られて辿り着いた先はラオスの家だった。
誰も家にいないらしくシーンとしていて、そのままラオスの部屋まで連れて行かれた。
そしてシャウを部屋の奥へと押しやると扉の前でラオスが立ち止まった。まるで逃がさないとでも言うような態度に居心地が悪くて、シャウは視線を彷徨わせた。
ラオスは暫くの間シャウを見つめてから、低い不機嫌な声で問うた。
「ユリベルティス殿下と何処に行ってたんだ?」
「食事に誘われて、郊外の屋敷まで行ってた」
「…ふーん、それでユリベルティス殿下に告白でもされたのか?」
可笑しくもなさそうなのに、わざと言葉を茶化して言われた。
でも、シャウは言い当てられたことに驚いて、今日初めてラオスと目が合った。
ラオスはからかうつもりで言ったのだろう。でも、シャウの反応で驚いた顔を歪ませて苦しそうな表情を浮かべていた。
「………断ったよ」
ラオスが何を思ってその台詞を言ったのか分からなかったけれど、それだけは言いたくて、小さな声になってしまったけれどラオスに伝えた。
すると、ラオスは大きなため息を吐き出した。
「良かった」
その後続いた言葉が理解できなかった。
良かった?
何が良かったのだろうか。
シャウが疑問に思っていると、突然ラオスが近づいてきてシャウを抱きしめた。
そして大きな声で叫んだ。
「シャウ、好きだ!」
耳元で叫ばれて、抱きしめる力が強すぎて、耳も痛いし身体も痛かった。
「いたい…」
反射的に漏れたシャウの声に、ラオスはびくりと身体を震わせて締め付けていた力が緩んだ。
それでやっとほっとしたシャウは聞こえた言葉を繰り返していた。
「好き……?」
「──ああ、シャウが好きだ」
硬直から溶けたラオスは「好き」と繰り返したシャウの頬に手を添えると、覗き込んで熱を宿した甘く溶ける目で見つめた。
囁くように甘く響いた声がシャウの脳に到達すると、シャウは一瞬で全身が紅くなった。
「えっ?」
「シャウが好きなんだ」
何度も繰り返し囁かれる言葉に目まで潤んできた。
目を潤ませ全身が紅くなったシャウは言葉にしなくても、ラオスに好きという気持ちが伝わってしまっただろう。
シャウを見つめるラオスの目に喜色が浮かんでいるのが分かった。
「シャウ…」
吸い寄せられるように近づくラオスの顔を、両手で押し返した。
「ダメだよ…」
「何故?」
邪魔をされて不機嫌そうなラオスは拗ねたようにシャウを見つめる。
「僕はイラザも好きなんだ」
シャウの言葉にラオスは目を見開く。
「こんな僕ではラオスを受け入れられない。受け入れちゃダメなんだよ……」
俯いたシャウの顔をラオスは優しく仰向かせると、シャウに問いかけた。
「俺のことが好きか?」
「うん」
シャウを見つめるラオスの目はとても優しかった。
「でも、ダメなんだよ。ごめんね、ラオス」
「分かった」
そう言ったラオスの言葉には何か決意をしたような意思を感じた。
ラオスはシャウの手を取ると、シャウの家に送っていくために歩き出す。
さっきのルティスと同じように手を繫いでいるけれど、もうラオスと一緒に居ることは出来ないかもしれない。そう思うと、自分で断ったくせに泣きたくなった。
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