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3 出遭う
しおりを挟む駐屯地の入口で待つという男の元に向かう前に、その男のことを隊長と一緒に見たという騎士のところへ話を聞きに行くことにした。事前情報があまりにもなさ過ぎて、交渉をするにしてももう少し情報が欲しかった。
その騎士がいうには、戦闘が発生した場所へ駆けつけるとその男の近くにヒュドネスクラ国の兵が拘束されて転がっていたという。その側には襲われたのか、巻き込まれたのか分からないが怯える平民がいて、状況からみてその男が助けたのだろうと。
敵兵を拘束した技は敵兵が腕力で外そうとしても、魔法を使って外そうとしても外せなかったという初めて見る技らしかった。縄をかける為に敵兵を拘束していた技を外そうとしたが、どのような仕組みなのかも解らず、騎士の力で外そうとしてもびくともしなかったらしい。しかし、その男が手を翳せばすぐに外れたそうだ。
そんな技が本当にあるのだろうか?
まあ、実際に見たというのだから本当なのだろうけれど、にわかには信じがたい話だった。
とりあえず会ってから自分の瞳で確認しなければならない事が増えたことに溜息しか出なかった。
その男の特徴と名前を聞き、駐屯地の入口へ向かう。
その男が待つという場所に近づくと、特徴として言われていた暁色の髪の毛が瞳に入った。
その暁色の髪の男は地面に座り込み、何かをしているようだ。側まで近寄っても、ディルユリーネに気づくこともなく夢中になって何かを作っている。
「お前が不思議な技を使うというジルヴァンか?」
少しだけ高圧的な物言いになってしまったかもしれない。そう気がついたが、呼びかけた言葉を今更言いかえることはできなかった。
ディルユリーネはマルロ部隊長以外にはガサツな男口調でわざと話すようにしていた。男として違和感なく紛れるためには必要な処世術だったからだ。
ディルユリーネの言葉に、手を止めて顔を上げた男は話を聞いて想像していたよりも幼く見えた。年の頃は十五か十六歳くらい。大人というには幼く、少年というには大人びた、少年から青年へと成長している途中の生命力溢れる快活さが窺える。
特に印象的なのが意志の強さを宿した瞳。髪の毛より少し深みのある暁色の瞳にディルユリーネは釘付けになった。どこまでも澄んだ真っ直ぐな瞳に、故郷の父や領民のことが思い出される。
感傷に浸ってしまったディルユリーネに暁色の髪の男は首をかしげる。
「そうだぞ? お前は誰だ?」
不思議そうに見つめられ、我に返ったディルユリーネは姿勢を正す。
「私はディル。隊長の命でお前を迎えに……、いや、話しに来た」
暁色の髪の男の反応を注意深く観察しながら、言葉を続ける。
「民を助けてくれたそうだな。隊長に代わって礼を言う。ありがとう。お前のおかげで罪のない民が怪我をしなくて済んだ」
「いや、礼なんかいらねえぞ。儂がしたくてしただけだ」
「『儂』……」
「おう。格好いいだろう」
少年のようにキラキラと笑う男、いや、大人になる手前の青少年の笑顔に毒気を抜かれた。
真っ直ぐと見返す澄んだ瞳に父や領民が重なって見え、暁色の髪の男から感じ取れたいい奴っぽい印象に自然と敬意を払って呼びかけていた。
「……そうか。ジルヴァン殿」
ディルユリーネの呼びかけに、暁色の髪の男は頭を掻きながら居心地が悪そうな顔をする。
「んー、ヴァンか、ジルって呼んでくれんか? 堅苦しいのは嫌いだからさ」
「……そうか。じゃあ、ヴァンと呼んでもいいか?」
「おう、お前のことはディルでいいか?」
「……あ、ああ」
ディルユリーネが了承すれば、人懐っこい笑顔を浮かべる。
何だろうか。
急激に距離が縮められた感じなのに、馴れ馴れしくも、嫌な感じもしない。ジルヴァン特有の空気感なのか、素直に受け入れていた。気安い仲間同士のような空気を感じて、むず痒い気持ちになる。
それを振り払うように一度頭を振り、改めてジルヴァンを見つめた。
──さて、何から話していけばいいだろうか。
余興のためとはいえ、ジルヴァンを部隊に入れなければいけない。隊長からの命令だからだ。隊に所属しているディルユリーネは命令を遵守しなければいけない義務があった。
だが、突然部隊に入れと伝えるわけにもいかない。だからまずは、気になっていた事から聞くことにした。
「さっき何をしていたんだ?」
「ん? ……これか?」
胡坐をかいて座っていたジルヴァンは、手に持っていた小さな石をディルユリーネに見えるように開いてみせた。
手のひらには小指の爪ほどの大きさの貴石が3粒乗っていた。
「それはどうしたんだ?」
小粒のルビーがジルヴァンの手のひらに乗っていた。
貴石は貴族であってもおいそれと手にできないものだ。魔法を使うために用いられるため、大体が国の管理下に置かれ、小粒の大きさくらいなら高位の貴族が富の象徴として装飾品に加工して身に付けることが出来るだけである。
小粒とはいえ平民が持てるような代物ではないのに、持っていることに疑問を抱く。盗むような奴にはどうしても思えなくて無意識に問いかけていた。
「拾った」
「拾った?」
「おう。捕まえた奴のところで」
なるほど。
ということは敵兵が所持していた物が戦闘によって落ちて、それをジルヴァンが拾ったということか。
本来なら拾ったら届け出て欲しいところだが、貴石は売れば金になる。所持しているのを知っても勝手に取り上げていいものではない。けれど、貴石を持っていること自体、身の危険が伴うことも確かで、その危険性を伝えつつ部隊に売ってもらえるように交渉しなくてはいけないと思った。
「見せてもらってもいいか?」
「いいぞ」
ジルヴァンがディルユリーネに向けて手を差し出す。
近づいてきた手のひらから1粒のルビーを摘まんで、確認するために自分の手のひらに乗せようとした。
1粒だけ摘まんだつもりが手が触れたのか、他のルビーもジルヴァンの手のひらから零れ落ちる。
「あっ、──あ─あああ??」
慌てて掬おうと出した手が空を切る。
「…………」
目に映る光景が、信じられなかった。
落ちたと思った。
普通なら地面に落ちているだろう。
そう。普通なら……。
しかし、実際はルビーが宙に浮いていた。
魔法を使ったわけでもないのに、空中に静止していた。いや、ディルユリーネの動揺によって動いた手に沿うように、空中に静止していたルビーも動く。摘まんでいるルビーとまるで繋がっているかのような動きだった。
「あはははっ!! おもしれえ奴だな! 繋がってるから大丈夫だぞ?」
腹を抱えて笑い転げているジルヴァンが瞳に入ったが、それよりも言われたことに気を取られた。
──繋がっている?
繋がっているということならばルビーとルビーの間には何かがあるはずだ。瞳にはまったく何も見えないけれど手を伸ばしてみる。すると、繋がっているだろう所に魔力を感じた。
??!! 魔力?!
見るからに平民であるように思えるジルヴァンが、魔力を持っている?
──いやいや、初めからルビーが繋がっていたのかもしれない。貴石を魔力で繋げるなんて聞いたこともないけれど。そんなことをして意味があるのかもわからないけれど。敵兵が所持していたということだろうか。
動揺から立ち直れないながらも情報収集の為に、ディルユリーネはつとめて冷静に話しかけた。
「繋がっている貴石なんて初めて見たな」
儂もだと返事が返ってくるのを待った。
「そうなのか? 簡単に繋げられるんだけどな」
「──は? ヴァンが繋げたのか?」
「そうだぞ? そんなに驚くことか?」
「……あたりまえじゃないか」
さも当たり前のことのように言われて驚いた。
ジルヴァンの言っていることが本当なら、ジルヴァンに魔力があるということになる。
平民が魔力を持っているのは稀である。しかも魔力を使える者など皆無といってもいいくらいなのだ。
魔力は貴族階級の者が要しているというのが常識だ。だからこそ貴族は選民意識が高く、平民が魔力を持っていることに嫌悪感を持つものが多い。
それなのに滅多にいない魔力持ちの平民が見つかってしまった。
これは隊長に知られない方が良さそうだ。
隊長はその選民意識が高い部類に入る人だったから。
頭の痛くなる元がまた増えてしまった。
「それで、ヴァンはなぜルビーを繋げたんだ?」
「石同士を繋げると悪い奴を簡単に捕まえることが出来るからさ」
隊長からの話では面白い技で敵国の兵を捕らえたという。
まさかこれがそうなのか?!
ディルユリーネは手にしたルビーを凝視した。
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