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6 創術と名付ける?
しおりを挟む「じゃあ、部隊長に紹介したいんだが、今からでも大丈夫か?」
「いいぞ」
ジルヴァンを伴って、マルロ部隊長のところへ向かうことにした。
駐屯地の入口からマルロ部隊長の天幕へと向かう途中、まったりと寛ぐ他の騎士達の好奇な視線を感じる。その横を早足で素通りして、マルロ部隊長のいる天幕へと入る。
「ただいま戻りました」
「ああ、ディルお帰り」
書類を手にして仕事していたマルロ部隊長は顔を上げて、笑顔で出迎えてくれる。
「マルロ部隊長、こちらはジルヴァンという者で部隊に入ってくれるそうです」
後ろに着いてきたジルヴァンが隣に立ったのを確認して、マルロ部隊長に紹介する。
ジルヴァンを見たマルロ部隊長は柔らかく微笑んだ。
「こんにちは。僕は部隊長のサフィルス・マルロと言います。ジルヴァン殿と呼んでもいいかな?」
「あー、儂のことはヴァンか、ジルって呼んでくれんか? 殿とか苦手なんだよ」
マルロ部隊長に対してもジルヴァンは変わらずに愛称呼びを要求している。
貴族相手にどこまでも恐れ知らずな奴だった。マルロ部隊長が貴族だと分かっていないのだろうか。
マルロ部隊長はマルロ子爵家の三男だ。しかし貴族らしくなく出会った当初から平民を対等な立場の者として対応する珍しい人だった。だから、ジルヴァンの態度にもマルロ部隊長は怒ったりはしないと思うけれど。
そう思って様子を窺っていると、マルロ部隊長は面食らったように目を見開いたあと、苦笑交じりに笑った。
「では、ヴァン君と呼んでもいいかな?」
「君もいらないぞ」
「それは、難しいね。部下にならない限り呼び捨ては出来ないのですよ」
「それなら仕方ないか」
居心地悪そうに頭をかくジルヴァンに、やはりマルロ部隊長は怒ったりしなかった。
ジルヴァンの言葉に苦笑交じりに笑うと、ジルヴァンに椅子をすすめる。
「詳しく知りたいから、座ってくれるかな?」
テーブルを挟んで、マルロ部隊長が座った。隣にディルユリーネは立ち、向かい側にジルヴァンが座る。
ジルヴァンは立っているディルユリーネを見て首をかしげると、
「ここ、空いてるぞ」
と、自分が座っている椅子を差し出し、ジルヴァンは地面に胡坐をかいた。
「ヴァン?!」
突然の行動に驚いたディルユリーネと、すぐに何を言いたいのか察したマルロ部隊長はディルユリーネに向かって椅子をすすめる。
「ディルが座らないと気になるみたいだよ」
マルロ部隊長の言葉にやっとジルヴァンの奇行を理解したディルユリーネはしまっていた椅子を持ってきて、マルロ部隊長の隣に置く。
「私も座るから、ヴァンも椅子に座ってくれ」
「なんだ。椅子あったのか。最初から座ればいいのにさ」
と言いながら、ジルヴァンは椅子に座り直した。
気を使ってくれたことにありがたく思い、心がふわりと温かくなる。ふと隣を見ればマルロ部隊長も優しい表情をしていて瞳が合うと、互いにふっと笑みが浮かんだ。
「それでは、敵兵と会ったところから教えてもらえるかな?」
「ああ、儂が敵兵に出くわしたのはたまたまでな。女の悲鳴がして駆けつけたら、拐かそうとしているのが見えて。だから、ちょうど持ってたこれで悪い奴を捕まえたんだ」
ジルヴァンはポケットに入れていたメノウを取り出してマルロ部隊長に見せる。
「へえ、こんなに小さいもので捕まえられるのかい?」
興味深そうに覗き込むマルロ部隊長に、ディルユリーネは先ほど見せてもらった使用方法を述べる。
「マルロ部隊長。とても小さく見えますが、実用性は高いです。メノウ自体が魔力で繋がっていて、ヴァンが操作すると勝手に飛んでいって拘束してくれます。その拘束力は強く腕力でも魔法でも解けないと思います」
ディルユリーネの説明を頷きながら聞いていたマルロ部隊長はメノウとジルヴァンを交互に見ながら感心していた。
「へえー、不思議な技もあるものだねえ」
マルロ部隊長の何でも受け入れてしまう器の大きさに驚く。こんなよく解らない技を説明されて、そうなんだとそのまま受け入れてしまっている。
魔法を使える騎士だからこそ度量も広いのだろうか。
マルロ部隊長は魔法を使える魔法騎士だ。
我が国の魔法騎士は騎士団の中でも下位の者として扱われていた。
我がロギスランダ国は剣術を至上主義としていて魔法など補助に過ぎず、魔法に頼る者など実力がないと言っているようなものだと、魔法を使う者達を蔑んでいた。だからこそ、魔法を使う者は増えず、実際に魔法を覚える騎士は剣術だけではやっていけないと分かってしまって、それでも騎士として生きていくために苦汁をなめながらも、騎士という地位を獲得する手段として仕方なく魔法を覚えるのだ。そういう理由から魔法を使う騎士は騎士団の中でも地位が低く、魔法を使う騎士も卑屈になりやすい。そして、雑務なども魔法を使う騎士が担当することが多かった。
そんな環境の中にいるマルロ部隊長は横暴な騎士達の要求を笑顔で受け入れていた。
卑屈になることもなく、困ったねと言いながら黙々と仕事をこなす、そんな人だった。
──うん。マルロ部隊長だから懐が深く、何でも受け入れられるのだろう。
すんなりと頷くマルロ部隊長をそう納得して見つめていると、マルロ部隊長はふむふむと頷きジルヴァンに笑顔を向けた。
「報告書をあげなければならないのだけれど、ヴァン君の技?の名前はなんていうのかな? 魔法ではないのだろう?」
「違うと師匠は言ってた」
「師匠?」
「おう。儂の剣術の師匠だ」
「ヴァンは剣も扱えるのか?」
マルロ部隊長が話しているのに、驚いて口を挟んでしまった。
ディルユリーネの言葉に満面の笑みを浮かべて、誇らしげに胸を張る。
「おう。師匠のお墨付きだぞ」
「……そうか」
誇らしげに胸を張るジルヴァンには悪いが、平民であるジルヴァンに剣術を教える人の実力は推して知るべしだ。
平民は剣よりも鍬を、学問よりも労働力を求められる。平民で剣術を扱えるのは傭兵という稼業を生業にしている者達だけだ。
ジルヴァンはとても傭兵には見えないし、となればそんなジルヴァンに教える者が腕の立つ剣術使いのはずがない。
そこまで傭兵の人達も暇ではないはずだ。傭兵になるための学校があるわけでもなく、幼い頃に弟子入りして剣の技を研いていく。そうしてやっと剣を扱えるようになれる。それ以外に平民が剣術を習うことは出来ないのだ。
だから、ディルユリーネはそれ以上は触れないようにして、話を戻した。
「それで技の名前はなんて言うんだ?」
「無いぞ」
「無い?」
「おう、無い。儂、そういうの考えるの苦手なんだよ。ディル、かわりに考えてくれ」
「は?」
「よろしくな」
ジルヴァンは本当にもう考える気はないのか、腕を伸ばして身体を解すように伸ばしはじめた。
困ってマルロ部隊長に視線を送ると、マルロ部隊長も困ったように笑っていた。
「ディル、悪いけれど名前を考えてもらってもいいかな?」
「……分かりました」
面倒な役回りが回ってきてしまった。
名前。名前か……。
うーん。ジルヴァン独自の技だから。
独創的? 創造的?
……うん、創造か。──創造した技。……創技?…は語呂が悪い気がする。
技……技術……。創造した技術……。創…術……?
──うん。創術! 語呂もいい感じな気がする。
しっくりくる名前が浮かんでディルユリーネは笑みを浮かべた。
「創術はどうですか? ヴァンが創造した技術ということで、創造の【創】と技術の【術】で【創術】」
「うん。いいんじゃないかな」
「おう。いいと思うぞ!」
「気に入っていただけたようで良かったです」
マルロ部隊長とジルヴァンの2人からの評価が良くてホッとする。
ホッとして安堵の笑みを浮かべていると、ジルヴァンがじっと見つめてきた。
「なあ、ディル。サフィルスに対しての話し方のほうが儂は好きだぞ? さっきまでの話し方は不自然だ」
「………」
ジルヴァンの本能的な感なのか、言い当てられてしまって言葉に詰まった。
確かに無理してガサツに話している。そして自分でもまだ話してて違和感があることは分かっていた。私だってこんな話し方はしたくない。
「ディル? ヴァン君の前では口調を戻してもいいんじゃないかな? 僕も前から無理して口調を変えているのは気になっていたんだよ?」
マルロ部隊長にまで言われてしまって、心が揺れる。
マルロ部隊長の心配そうな瞳と、ジルヴァンの真っ直ぐな瞳に意地を張り続けられず根負けしてしまった。
「……分かりました。2人の前では口調を戻します」
「おう」
「うん。あまり無理しないようにね」
「はい。ありがとうございます。……それよりもヴァン。マルロ部隊長の名前を呼び捨てにするのは良くありません。マルロ部隊長は子爵令息でヴァンよりも年上なのですから、マルロ部隊長と呼んでください」
「えー」
「えーじゃありません!」
「まあまあ、確かに他の騎士がいる前で呼び捨てにすると、ヴァン君の立場が悪くなってしまうから呼び捨ては良くないけれど、僕達だけの時は名前を呼び捨てで構わないよ」
「わかった。気をつける。ありがとな、サフィルス」
「マルロ部隊長。甘すぎます」
「ディルも僕達だけの時は名前で呼んでくれても構わないんだよ?」
「……ご遠慮申し上げます」
マルロ部隊長まで悪のりし始めて、楽しそうにしている姿に苦笑が浮かぶ。こんなに穏やかな時間を送れるのは実家に居たとき以来な気がした。
さてと、というかけ声とともにマルロ部隊長は椅子から立ち上がった。
「メッツァー隊長に報告書を提出してくるよ。そのときにヴァン君が部隊に入ってもらえることになったことを報告しておくから、ディルはヴァン君に駐屯地の案内を頼むよ」
「わかりました」
マルロ部隊長が書類を持って天幕を出ていくのを見送る。
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