なんだ、このハチャメチャな奴は

神栖 蒼華

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10 初出撃の後 Ⅰ

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駐屯地に戻り、入口でマルロ部隊長と別れる。
ディルユリーネは約束したとおり、まず怪我をした魔法騎士達の元へ向かった。

魔法騎士達の天幕はマルロ部隊長の天幕の近くにあり、1つの天幕を魔法騎士2人で使うようになっていた。

「入ってもいいか?」
「おう」

その内の1つの天幕の外から声をかければ、了承の返事が返ってくる。
天幕の入口の布をかき上げ中に入ると、椅子に腰掛け、すぐに治療できるように傷口が見えるようにしたまま、2人の魔法騎士が待っていた。

「遅くなってすまない」
「大丈夫だ」
「気にするな」

ディルユリーネが遅くなったことを謝れば、待っていた2人は軽い口調で返事をする。
傷口を見ればすでに洗って土汚れは落ちていて、血も止まっていた。これならすぐに治癒魔法で治せるだろう。
傷口に手を翳して治癒魔法を使えば、すぐに跡形もなく傷口が塞がった。
2人目も傷口に手を翳して治癒魔法で治す。

「もう痛いところはないか?」
「大丈夫だ」
「いつもながら、早いな」
「たいしたことないだろ」
「そうかなぁ」

納得いかなそうに言われても、本当に普通のことなのだから他に答えようがない。
とりあえず、傷は治ったようだから次の怪我人のところへと向かうことにした。
駐屯地には治癒魔法を使える者がディルユリーネしかいないため、私が怪我人のところへ足を運ばなければならなかった。
今日は魔法騎士しか怪我をしていなかったので、遅いと怒鳴られることもなくて気が楽だった。
これが魔法騎士が重傷で、誇り高き騎士達が軽傷の時は優先順位が地位順になるので、重傷者の魔法騎士が後回しになる。そのときの精神的負担はかなり辛く、気ばかり焦ることになる。そんなことを繰り返していたから、治癒魔法も早くなったのかもしれない。

全ての怪我人を治し終わり、天幕を出ると炊事場で今日の夕食担当の魔法騎士が食事を作っていた。
駐屯地が静かなところをみると、メッツァー隊長達は町へ食事に出かけたようだ。

陽がだいぶ傾いているのを見て、ジルヴァンと別れてから随分と時間が経っていることに気づき、マルロ部隊長のところへ戻る。
天幕の中へ入れば、書類の山に囲まれたマルロ部隊長が書類と睨めっこしていた。

「マルロ部隊長、ヴァンは戻りましたか?」
「まだだよ」
「そうですか」
「心配かい?」
「……それは、まだ子供ですし、少し危なっかしいので」
「ディルとそんなに変わらない年だろう?」

確かにディルユリーネとは2歳しか違わない。
けれど、2歳年下とは思えないくらい無邪気というか、純粋というか、真っ直ぐというか。何をしでかすか分からないから、心配だった。

「そんなに心配なら探しに行ってもいいんだよ?」
「……今日の分の仕事が終わっても帰ってこなかったら探しに行ってきます」
「そうかい? なら、仕事を手伝おうか? そうすれば早く探しに行けるだろう?」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

マルロ部隊長は書類作業をメッツァー隊長の代わりに一手に引き受けていた。
1人で作業するには莫大な量過ぎて、ディルユリーネも手伝っているくらいなのだ。それなのに雑用までしてもらってしまったら、マルロ部隊長の体が壊れてしまう。
だから、ディルユリーネは丁重にお断りして、天幕を出た。
その後、今日必要な分の薪を割り、少し冷めた風呂の湯を沸かし直す。
これでいつメッツァー隊長が帰ってきても大丈夫だろう。

あれからまた時間は経ったけれど、周りを見回してもジルヴァンの姿が見えない。
流石に心配になって、様子を見に行こうと駐屯地の出口へ向かって歩いていると、ジルヴァンが洗濯場で洗濯をしていた。

「?! ……何をしているんだ?」

驚いて声をかければ、ニカッと笑って答えが返ってきた。

「ん? 洗濯だぞ?」
「それは見て分かる。なぜ、ヴァンが洗濯しているのかを聞いている」
「ディルが洗濯すると言ってたろ? だから、してる」

まさかあの時言っていたのは本気だったのか? それでディルユリーネの代わりに洗濯していたと?

「すまん。私もやる」
「他の仕事は終わったのか?」
「ああ。あとは洗濯だけだ」
「そうか。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせるか」

どこか楽しそうに洗濯するジルヴァンにつられて、ディルユリーネは少し笑っていた。
こんなに楽しそうに洗濯をしている人は見たことなかった。ふっと肩の力が抜けて、何故か洗濯が楽しいものに思えてきた。しかし、まだ洗い終わっていない洗濯物の山を見て、それは気のせいだと思った。

ジルヴァンは鼻歌を歌いながら洗濯をしていると、何かを思い出したように手を止めて、脇に置いていた荷物の中から何かを取り出した。

「そうだ、ほら、これ」

言葉とともに投げてよこされた物を受け取ると、手の中に大きめの美味しそうな果物があった。

「食え」
「え?」
「腹減ったろ」
「いや……」

今は洗濯をしている途中だし。
何故今なのか。

「それは果物だ」
「…そうだね」

それは見れば分かる。

「飯じゃねえぞ」
「─────」

真意を測りかねて、手の中にある果物とジルヴァンを交互に見る。
本気で言っているのだろうか。果物なのだから、飯ではない。そんなの当たり前のことだ。──ジルヴァンの瞳を見れば、本気で言っているようだった。
そして、先ほどのメッツァー隊長の言葉を思い出した。ジルヴァンもそういえばあの場に居たなと。メッツァー隊長の言葉を聞いていたゆえの行動なのだろうか。
ディルユリーネからしたら屁理屈にも思えたけれど。ジルヴァンの事だから本当に果物は飯じゃないから大丈夫だと思ったのかもしれない。
ジルヴァンの気持ちを受け取ることにした。

「ありがとう。あとでいただくよ」
「なら、これ全部やる。食わねえと倒れるぞ」

脇に置いていた袋ごと手渡された。
袋の重さに中を覗くと、あまりの量の多さに驚いた。

「これ、どうしたんだ?」
「礼にもらった」
「もらった?」
「助けてくれた礼だってさ」
「そうか。じゃあ、あとで魔法騎士達にも渡すか」
「…ははっ、そうだな」

何故か楽しそうに笑うジルヴァンを不思議に思いながらも、残りの洗濯物を洗った。




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