なんだ、このハチャメチャな奴は

神栖 蒼華

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9 初出撃 Ⅱ

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「皆に怪我はないですか?」
「ここで戦っていた者は少し怪我をしているようだね」

マルロ部隊長の言葉に魔法騎士達に目を向けると、所々に剣で斬られた傷跡が見えた。けれど、どれも深くはなさそうだった。

「治療は駐屯地に戻ってからでも構わないですか?」
「そうだね。こちらのお嬢さん方を町へ送るほうが先決だろうから構わないよ」

マルロ部隊長に許可を得て、前線で戦っていた魔法騎士達の元へ近寄る。

「皆、すまん。駐屯地に着いたらすぐに治すから」
「かまわねえよ。ここにいたらまた奴らが来るかもしれないしさ」
「そうそう。早く休みたいしさ」

少し疲れたような顔をしつつも、承諾してくれる。駐屯地にいる魔法騎士達は気の優しい人達が多くて、だからこそ誇り高き騎士達に押し切られたり、押しつけられたりしてしまう。自分に自信のない人達が多かった。

ディルユリーネの後ろでマルロ部隊長が被害に遭っていた女性に話しかけていた。

「お嬢さん方、町までお送りします。立てますか?」

マルロ部隊長の言葉に頷くと、ディルユリーネの治癒魔法を受け終わった2人は危なげなく立ち上がった。
その様子を見て、治癒魔法でしっかりと怪我が治ったのを確認出来た。良かった。
気絶していたもう1人の女性は、ジルヴァンが横抱きにして抱え上げていた。見た目によらず力があるようで危なげなく立っていた。

「それでは参りましょう」

マルロ部隊長が先頭に立って歩き始める。
その後ろに2人の女性。女性を抱えたジルヴァン。ディルユリーネと続く。
ディルユリーネと一緒に駆けつけた魔法騎士達は見張りとして残り、交戦して怪我した魔法騎士達はジルヴァンによって拘束されたヒュドネスクラ国の兵士を捕虜として連行していた。
今まで捕虜として捕まえたことはなかったのに、今日はこれで8人も捕らえたことになってしまった。流石にそのまま放置するわけにもいかないのだから仕方ないのだけれど、どうなることかと不安がぎる。

大所帯となった集団がメッツァー隊長のところまで辿り着くと、メッツァー隊長が嫌な瞳でディルユリーネを睨みつけていた。その瞳でディルユリーネはメッツァー隊長が何を言いたいのか分かった。毎回言われているのだから分からない方がおかしいのだけれど。

「ディル、何をしていた? まさか、平民に治癒魔法を使っていたのではあるまいな」
「………」
「治癒魔法は私達のためだけに使えと言ったはずだ」
「………」
「ふん。相変わらず生意気な。罰としてお前は飯抜きだ」
「分かりました」

いつものやり取りだった。
最近はマルロ部隊長がさり気なく盾になってくれたりして誤魔化せていたのだけれど、今日は人数が多くてバレてしまったようだ。
これで罰を受けるくらい構わなかった。国の、騎士のせいで国民に被害が出るよりはマシである。勿論危険な目に合う前に敵兵を食い止められればいいのだが、神出鬼没なヒュドネスクラ国の兵は少人数でやってくるのでどうしても見逃してしまうことがあった。

「そこの平民は面白みが足りなかったぞ? もう少し頭を使ったらどうだ?」
「はい。申し訳ありません」

メッツァー隊長はジルヴァンを見つけると、馬鹿にしたように見下しながら鼻で笑った。
ディルユリーネはメッツァー隊長の言葉を聞きながら、ジルヴァンの動きは見えていなかったようでほっとした。メッツァー隊長達のいるところからは、混戦していて誰がどのように動いたのか分からなかったのだろう。

ディルユリーネもまだ把握できていないのだ。ジルヴァンの実力が。
先ほど見た身のこなし、剣捌きはとても素人には見えなかった。平民として生きてきた者が身に付けているような技術ではなかった。
それについても問いただしたかったし、自分勝手な動きをしたことについても言いたいことは沢山あった。
けれど、とりあえず今はメッツァー隊長からジルヴァンの意識を逸らすことが先だ。ディルユリーネが早々に謝罪の言葉を言ったので、興味も失せたように思う。

「ふん。行くぞ」

少し待つと、メッツァー隊長は駐屯地へ馬首を向けて帰っていった。その後を誇り高き騎士達がついていく。
ジルヴァンについては早めにマルロ部隊長と対策を考えないといけない気がした。

「さあ、お待たせしました。帰りましょう」

マルロ部隊長が優しく女性達に語りかける。
メッツァー隊長の高圧的な態度に怯えていた女性達がマルロ部隊長の言葉で安心したように笑った。
町外れまで何事もなく到着出来ると、マルロ部隊長は立ち止まり女性達に声をかける。

「申し訳ありません。ここまでしか同行出来ませんが、宜しいですか?」
「はい。わざわざ送ってくださりありがとうございました」

代表して1人の女性が答えたあと、マルロ部隊長とディルユリーネに向かって頭を下げた。
ここまで見送りに同行したのはマルロ部隊長とディルユリーネ、女性を抱えたジルヴァンだけだった。捕虜を町に近づけるわけにはいかないので、駐屯地に近くなったところで魔法騎士達とは別れた。
なぜ町外れで別れるかといえば、町の人から駐屯地の騎士達が良く思われていないことを理解していたからだ。だから、マルロ部隊長とディルユリーネは無闇に町には立ち入らないようにしていた。

「儂はこの人を家まで送ってくる」
「そうですか。ヴァン君、頼みますよ」
「おう」

気絶した女性を抱えていたジルヴァンはそのまま家まで連れて行く気だったようだ。私達騎士よりはジルヴァンの方が問題なく町に入れるだろう。

町へ帰っていく女性とジルヴァンが話し始めると、何やら盛り上がって和気あいあいと話している姿が視界に入った。
(はあ、ヴァンは親しくなるのが早いな)
驚きと感心でため息が零れた。
その後ろ姿を見送ってから、マルロ部隊長を見上げた。

「さて、僕達も帰ろうか」
「はい」
「帰ってもやることはいっぱいあるからねえ」
「そうですね」

マルロ部隊長の苦笑気味の言葉に同意することしか出来なかった。
雑用は戦闘に出かけてもなくなりはしない。そして、暇している誇り高き騎士達がするわけもないので、仕事は溜まったままだ。優先順位を頭の中で計算しながら、ディルユリーネはマルロ部隊長と共に駐屯地へ急いで帰った。




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