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8 初出撃 Ⅰ
しおりを挟む走っている途中で合流したマルロ部隊長と一緒に戦闘の起こっている場所に駆けつけると、メッツァー隊長率いる誇り高き騎士達が馬に乗って敵兵と向かい合い、ヒュドネスクラ国の敵兵から魔法攻撃を受けていた。
「魔法を使うなど軟弱な! 意気地無しめ」
メッツァー隊長が敵兵に向かって暴言を吐き捨てていた。
もちろん敵兵に聞こえる距離ではない。
側にいる騎士達もメッツァー隊長に同調して敵兵を馬鹿にしたように見下しながら相槌を打っていた。
敵兵はメッツァー隊長率いる騎士達に向けて、魔法攻撃を続けていた。
しかし、その攻撃は自軍の魔法騎士達によって防がれて実害はない。
そう、魔法攻撃を防いでいるのはメッツァー隊長や誇り高き騎士達ではない。メッツァー隊長や誇り高き騎士は魔法が使えない人達だった。だから、魔法攻撃を自分達では防げないのだが、魔法騎士に守ってもらうことを当たり前と考えていた。そのくらいしか役にたたないだろうと言い放ち、萎縮する魔法騎士を従え自分達を守らせていた。
当たり前のように魔法の恩恵を受けているメッツァー隊長達は、暴言を吐いて貶している魔法騎士によって作られた魔法障壁で敵の魔法を防いでいるのだと分かっているのだろうか、と毎回思ってしまう。
その魔法騎士が魔法を使わなくなれば怪我では済まないということを、自分達の言動に矛盾が生じていることを理解しているのだろうかと。
まあ、分かっていないから平気でそんなことを言えるのだろうと呆れるしかないのだけれど。
そんなことよりもディルユリーネは他のことに意識を向けようとしたところに、運悪くメッツァー隊長に見つかってしまった。
「やっと来たか。愚鈍な魔法騎士は」
「遅くなりまして申し訳ありません」
遅参したことを謝罪すると、メッツァー隊長の瞳がジルヴァンを捕らえた。
「ディル、平民の男をどう使うか、楽しみにしているぞ?」
語尾にニヤッと擬音でもつきそうな嫌な笑いを浮かべたあと、前線から去っていった。共にいた騎士達も魔法の届かないところまで下がっていく。
その場に残されたのはメッツァー隊長達を守っていた魔法騎士達とマルロ部隊長にディルユリーネ、ジルヴァンだった。
メッツァー隊長達がいなくなったことで余分な気を使わなくて済むことにほっとする。
意識を切り替えて戦場に目を走らせると、ディルユリーネのいる場所よりも敵兵に近い場所で剣で斬り結んでいる者達が見てとれた。その近くで蹲る人影も見える。
「マルロ部隊長」
声をかけると、マルロ部隊長もちょうど同じところを見ていたらしく頷いた。
「行こうか」
その場にいる魔法騎士達に向けて指示を出したところに、1人飛び出した者がいた。
驚いて向けた視線の先にいたのは、もう背中しか見えないジルヴァンの後ろ姿だった。
「ヴァン?!」
魔法が飛び交う中を、戦闘が起こっている場所に向けて走り抜けていく。
ディルユリーネの声が届くこともなくジルヴァンは走って行ってしまった。
「ディル、急ぐよ」
少しだけ焦りの滲む声で、マルロ部隊長は魔法障壁をディルユリーネを覆うまで広げたあと、ジルヴァンを追うように走り出した。マルロ部隊長に遅れないように走りながら、ディルユリーネは心の中でジルヴァンを罵っていた。
(ヴァンは馬鹿なの? なんで魔法が飛び交う中を1人で飛び出すのか。後できっちり説明してもらうから首を洗って待ってなさいよ)
心配しすぎて口が悪くなっていることにも気づかず、ジルヴァンに対して怒っていた。
私達に向かって放たれ続ける魔法で視界が時たま遮られる。ジルヴァンを見失いそうになる中、動く姿を確認して安堵と緊張がディルユリーネを繰り返し襲っていた。
走って追いかけるディルユリーネの視線の先でジルヴァンが戦闘中の集団に近づいたのが見えた。
ジルヴァンはポケットから何か取り出すような仕草をしたあと、敵兵に向けて手を翳していた。その後すぐに5人くらいが地面に倒れ込んだ。
突然斬り結んでいた敵兵が倒れ込んだ事に驚いた自軍の魔法騎士が硬直している中、ジルヴァンは倒れている敵兵に近づくと剣を拾い、近くにいた敵兵を剣を弾いて倒した。その後、すぐにジルヴァンは蹲っていた人達に近寄って戦場から距離を取る。
ジルヴァンによって形勢が逆転した自軍の魔法騎士は勢いを盛り返して敵兵を押し返し始めた。それを見たマルロ部隊長は一緒に走っていた魔法騎士達に魔法攻撃をしている少し離れたところにいる敵兵に魔法で集中攻撃するように指示を出した。
その間にディルユリーネ達はやっと戦闘中の集団に辿り着いた。
敵兵はディルユリーネ達に気がつくと、流石に分が悪いと思ったのか撤退するような仕草を見せて引き始めた。それを見て魔法騎士は追い立てるように攻撃をしかける。
そんな中、ディルユリーネはジルヴァンのところへ駆けよった。
ジルヴァンが視界に入って叱りつけたくなったが、まずはジルヴァンの腕の中にいる人達を助けることが先だと意識を切り替えた。
「大丈夫ですか?」
ジルヴァンに庇われていた3人いる女性のうちの1人に話しかける。
襲われた恐怖で顔色が悪かったが、意識はしっかりしていた。
「すぐに治しますからね」
目につく傷を治癒魔法でどんどん治していくと、痛みで顔を顰めていた女性の表情が柔らかくなってきた。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
言葉を発するまでに回復したことを喜ばしく思いながら、お礼を言われたことに複雑な心境になる。
本来ならば、傷つかなくてもいい国民が被害に遭っている。
その状況を変えるために参戦したはずなのに、なにも出来ない自分が無力で情けなかった。
私が出来ることといえば、傷ついた人を治すだけ。傷つく人を無くすことが出来ない。戦争が終わらなければ、現状は変わらないのは分かっている。だから戦争を終わらせなければならないのに、戦争を終わらせる方法が分からなくてやり場のない苦しい気持ちが胸を占めていた。
お礼を言った女性に笑い返し、次の女性に治癒魔法を使う。
「すぐに治しますからね」
「ありがとうございます」
逃げるときに転んだのか、足に酷く傷を負っていた。スカートも土汚れと血が付着していた。
どのような状況だったのか想像できてしまい、胸が痛くなった。
「遅くなってしまってすみません」
「騎士様のせいではございません」
どう考えてもこちらのせいなのが分かっているのに、気を使わせてしまった。
これ以上言っても女性に負担を強いることが分かって、口を閉じた。
「他に痛いところはありませんか?」
「問題ございません。ありがとうございます」
頷いて返し、次の女性に治癒魔法を使うために目線を向けると、その女性は目を閉じていた。
先ほどまで目を開けていた筈なのに、と慌てて脈をみると、しっかりと指先に脈を感じ取れた。どうやら気絶してしまったようだ。ほっと息をついて、治癒魔法を使う。
気絶している人に治癒魔法を使うと、痛みや違和感のあるところを確認できないので全身に治癒魔法を回らせなくてはならない。魔力の消費量が大きく負担がかかるが、傷を見逃してして後々大変な思いをするのは気絶している女性なので、気合を入れて治癒魔法をかけた。
集中して治癒魔法をかけ終わり、顔を上げるとマルロ部隊長が目の前に立っていた。
「ディル、お疲れ様。こちらは片づいたよ」
マルロ部隊長の言葉に周りを見回すと、ヒュドネスクラ国の敵兵は見えなくなっていた。
ディルユリーネが治癒魔法を使っている間に、戦闘は終わっていたようだった。
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