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13 避難所?
しおりを挟む町の人達を連れて、マルロ部隊長の天幕まで移動する。
他の魔法騎士達は通常の雑用があるので、各々散らばっていった。
天幕の中には町の人達とマルロ部隊長、ディルユリーネ、ジルヴァンがギュウギュウとひしめき合っていた。
狭い中、この騒ぎの概要を知るためにメッツァー隊長に話しかけていた女性を探す。
まずは話を聞いてからでないと何も始められない。
「それで皆さんは何故駐屯地に来たのですか?」
ディルユリーネはメッツァー隊長に必死に言い募っていた女性に近づいて問いかけた。
私達を手伝いたいというのは聞いたけれど、何故そういう考えに至ったのかが全然分からなかった。ディルユリーネがこの駐屯地に来てから、食材を届けに来る者以外一度も町の人達は近寄ることがなかった。何故今になって急に駐屯地に近寄る気になったのだろうか。
駐屯地が世話になっている町はヒュドネスクラ国へと続く街道沿いにある最後の町だった。その為、程ほどに品物が揃っている大きめな町だった。
町の人達は、駐屯地にいる騎士達が戦争を終わらせるために居るわけではないことを理解しているはずだった。3年も経てば、騎士達が何をしているかなど嫌でも分かるだろう。毎日野菜や肉などを届けてもらっているし、その時に寛いでいる騎士達の姿を見れば、どんなに鈍い人でも事実を知ることになる。
口では何も言わないけれど、町の人達から好かれていないのは肌で感じていた。どちらかというと憎まれているかもしれなかった。
ヒュドネスクラ国の被害に遭っているのが、町の人達や行商人だったからだ。
だからこそ、町の人達が手伝いたいと言ってきたことに驚いた。
「そちらにいるジルヴァン君が駐屯地では困っている国民を受け入れてくれると言っていたものですから」
にこやかに笑って女性が理由を説明してくれる。
なるほど?
町の人々が突然訪ねてきたのはジルヴァンが言った言葉に因るものだということが判明した。しかも間違ってはいないけれど、違った意味で伝わってしまったと。
確かに困っている人を助けているとは言った。それは襲われているときの事を示していたのだけれど。
けれど考えようによっては絶好の機会なのかもしれない。
今までは襲われている人は助けられるけれど、その後の世話までは手を出せなかった。けれど今回は運良くメッツァー隊長の許可が下りたため、誤魔化しながらなら手を貸せるかもしれない。
治療が不十分だった人を治せるかもしれない。
町には教会がない。だから町の人達は治癒魔法を受けられない。
治癒魔法は、本来教会で然るべき手続きを取って料金を支払った上で受けられるものだ。だから治癒魔法は無償で行うことは禁止されている。
勿論普通に生活していての怪我ならば、ディルユリーネが口出すべきではないのは分かっている。けれど、戦争に巻き込まれての怪我ならば国の騎士団である治癒魔法騎士が治してもいいのではないかと思う。いや、ディルユリーネはずっと治したかった。
今までも戦闘地で出来る限り治癒魔法で治してきたけれど、それでもディルユリーネが駆けつけられなかったとき等はそのまま放置されていたらしい。それを聞いたときに戦闘地に行けなかったことを悔やんだ。
だから、助けて欲しくて駐屯地に来たというなら理解できるけれど、目の前の女性達は手伝いたいと言っていた。それはどういうことなのだろう。
「手伝いたいと先ほどは言っていたと思うのですが?」
「ええ、私達女性陣はお手伝いがしたくて参りました。男性の多くは行商をされている方達で怪我が治るまでお世話になりたいそうなのです。その謝礼として扱っている商品を融通させていただくことでお許し頂きたいと申しています」
「分かりました。それで構いません。ただし、私とマルロ部隊長以外の者には、先ほどと同じく手伝いに来たと言うようにしてください。それ以外の理由で駐屯地に滞在する許可は下りていませんので。それが知られてしまった時点で皆さんの立場を守る事が出来なくなります」
「ありがとうございます。皆にもしっかりと伝えます。宜しくお願いいたします」
「こちらこそ宜しくお願いします。ああ、申し遅れました。私はディル。ディルと呼んでください。そしてあちらにいるのがマルロ部隊長です」
少し離れたところで男性の町の人達と話しているマルロ部隊長を指し示す。
目の前の女性はマルロ部隊長の方を確認した後、ディルユリーネを真っ正面から見つめ返す。
「わたしはルルメと申します。ディル様、どうか宜しくお願いいたします」
深々と一礼したあと、ルルメさんはにっこりと微笑んだ。
その可愛らしい容姿に浮かぶ可憐な笑顔に惹きつけられる。こんなに可愛い女性がどうしてこんな男の巣のような場所に来たのだろうか。危ないと思わなかったのだろうか。
ルルメさんと一緒に来た女性の大半が美人だったり可愛らしかったりで、魅力的な女性達ばかりで皆の身が危ないように思えた。
だからこそメッツァー隊長が許可したということかもしれないのだけれど。
いかにして女性達を守るのかが課題になりそうだ。
「ルルメさん達は通いで来るのですか?」
「出来れば、こちらで寝起きも共に出来たらと思っています」
「町で暮らしているのではないのですか?」
「はい。ですが、お手伝いするのなら寝食を共にした方がいいと思いまして。あっ、行商人の方達は宿で泊まっている人達なので、駐屯地に寝泊まり出来た方が経済的だと言っていました」
「ああ、……ふふ、そうですね。商売の人達はまず金勘定が先ですものね」
「えっ?」
「ああ、いいえ。分かりました。全員分の寝床と食事が必要になるということですね」
領地にいた頃の屋敷に出入りしていた商人を思い出して、その頃の口調に戻ってしまっていた。
すぐに戻したからディルユリーネが女だとは気づかれてはいないと思うけれど、気をつけなければ。町の人達がどうということではないけれど、どこから漏れるか分からないのだから。メッツァー隊長達にだけは知られたくない。
「はい。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。何でも仰ってください」
「分かりました。マルロ部隊長と話し合いますので、待っていてください」
「はい」
ルルメさんの元を離れて、マルロ部隊長のところに行く。
マルロ部隊長も町の男性から話を聞き終わったらしく、ディルユリーネを手招きした。
「ディル、話は聞き終わったかい?」
「はい。事の発端はヴァンの言動だったようですが、結果的に怪我をしている人に治癒魔法をかけられる機会が出来たことは良かったと思います」
「そうだね。ディルはずっと気に病んでいたからね」
マルロ部隊長にはディルユリーネの葛藤も全てお見通しだった。
「それで皆さん全員が駐屯地で寝食を共にしたいと言っています」
「そうみたいだね。駐屯地の軍事費は使えないから、お金をかけずに準備しないといけないけれど。大体のものは行商人の人達からもらい受けることで事足りそうだよ。あと必要なのは食材だろうね」
「分かりました。腕のたちそうな人を連れて森へ行ってきます」
「宜しく頼むね」
「はい」
頭の中で人選を練りながら、控えていた町の人達を見回した。
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