なんだ、このハチャメチャな奴は

神栖 蒼華

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22 ザーシラ

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思ったよりも遅くなってしまったディルユリーネは走った。そして小屋に到着したと同時に扉を開ける。

「すみません。遅くなりました」
「おう、ディル、もういいのか? こっちはだいたい出来たぞ」

扉を開けて謝罪したディルユリーネに、明るい声がかかる。

「え? もう? 任せきりにしてごめ、ん………」

ジルヴァンに瞳を向けたことで、小屋の中の様子が瞳に入り言葉を失った。

小屋の中には布が溢れていた。と言ってもいいくらいに、何もなかった小屋の中に色とりどりの布が置かれていた。最初に見たときとまったく印象が変わっていた。
ディルユリーネの予想よりも遥かに上回る量の布が、惜しげもなく捕虜の人達に行き渡っていて驚いた。
まさか、ジルヴァンが何も考えずに要求してしまい、ザーシラさんが断れなかったのだろうか。

「……大丈夫なのですか?」

おそるおそる作業をしているザーシラさんに尋ねた。

「ああ、ディル様。いかがですか? 足りないようでしたら、まだ布はありますから仰って下さい」

振り返ったザーシラさんは笑顔で、布の追加を申し出てくれた。
ジルヴァンが無理に要求したわけではないことが分かっててほっとしたけれど、ここまで商品である布を大量に提供してもらってかえって申し訳なく感じる。

「十分です。それよりも、こんなにもたくさんの布を宜しかったのですか?」
「はい。ディル様のお役に立てるのならば、構いません」

どうしてこんなに良くしてくれるのか分からなかったけれど、とても有り難かった。

「……ありがとうございます」

捕虜の人達もやつれた体でジルヴァンやザーシラさん達と一緒に小屋の中を住み心地よくするために動いていた。

ディルユリーネは手伝いながら、ザーシラさんとシグマさんの様子を見る。
笑顔で捕虜の人達と作業するザーシラさんとシグマさんには、敵兵に対しての偏見はなさそうに見えた。
敵兵というだけで、すぐ殺せとか、助ける必要がないとか言うような人でなくて良かった。
もちろんそんな人には見えなかったから、ジルヴァンとともに先に行ってもらうことにしたのだけれど。
自分の直感が当たっていたようで、2人を信じて良かった。

捕虜の人達も最初の頃の怯えがなくなり、何故かジルヴァンと昔からの友達かのような気安さで肩を叩きながら作業をしていた。
今にも死にそうな状態から心まで回復したようで安心した。



ディルユリーネは戦争は国同士が始めたことであって、兵役している者が戦いたくて戦っている訳ではないと思っていた。
だから、すでに弱っていた捕虜達にはこれ以上傷ついて欲しくなかった。
もちろん戦争して剣を交えているのだから、敵兵の攻撃によって自軍の誰かや国民が傷つき、その怪我によって重傷になったり、場合によっては死に至ることもあるだろう。そして、傷つけられた者からすれば許せなく思ってしまうのも理解している。
それでも無闇に誰かが傷つくことには抵抗があった。

もちろん人を傷つけることに喜びを感じている者や自分では手を汚さずに命令している者には容赦するつもりはないけれど。

傷……と思いをめぐらせて、先ほどのクシスさんのことが過ぎった。
そういえば、ザーシラさんやシグマさんはヒュドネスクラ国の敵兵によって怪我をしてはいないのだろうか。
クシスさんのように、傷を負っているのに言い出せない可能性も考えられる。

ザーシラさんにこっそりと聞いてみようと、そっと近寄る。

「ザーシラさん。怪我をしていたら言って下さい。すぐに治しますので」
「変わりませんね」
「え?」

言葉を聞き取れずに聞き返せば、また商人の笑顔を浮かべてはぐらかされた。

「私共は怪我をしておりません。お気遣いいただきありがとうございます」
「そうですか。それなら良かったです」

ザーシラさんは作業していた最後の寝床の干し草を布の中に詰め込んで完成させた。

「これで大丈夫でしょうか」
「はい。ありがとうございます」

ディルユリーネがお礼を言っていると、ジルヴァンも作業が終わったらしく、近くにいたシグマさんの肩に腕を回していた。

「ありがとな、ザーシラ。シグマ」

その後に続くように、捕虜の人達も頭を下げて、お礼を言った。

「「「「「「「「ありがとうございます」」」」」」」」

そして、1人の捕虜が進み出て言葉を続けた。

「みなさまに受けた御恩に報いるために、わたくし達は何でもいたします。聖人様に御迷惑をお掛けするようなことは絶対にいたしません」

真摯に向けられる捕虜の人の視線に本気度を感じた。

「……ありがとうございます」

捕虜の人達の視線全てが同じ真摯な瞳をしていて、ディルユリーネには本気で言っているのだと信じられた。
だから、捕虜の人達の手足を拘束しないことにした。
もちろんマルロ部隊長の指示は仰ぐつもりだし、扉の鍵はかけるつもりだけれど。
逃げ出すとは思っていないけれど、誇り高き騎士達が何をするか分からないから、捕虜の人達の安全のためだった。

「では、夕食を持ってきます」
「儂が運んでくるぞ」

腕まくりしてジルヴァンが勢いよく扉から出ていく。
それをディルユリーネとザーシラさん、シグマさんは苦笑して見送って、小屋を出た。



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