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27 いつから……
しおりを挟むその後も実験は続いた。
結界を張った所へマルロ部隊長が火魔法、水魔法、土魔法、風魔法を順番に放っていく。
魔法は四属性が基本で、あとは治癒魔法が系統違いとして存在している。
普通は一属性しか扱えない者が多い中、マルロ部隊長は珍しく四属性の魔法が使える人だった。
しかし、あまり周りには四属性を扱えることを知られないようにして、普段は風属性の魔法を主にしての魔法騎士として過ごしている。
たまたまディルユリーネはマルロ部隊長に教えてもらったので知ることになったのだけれど。
マルロ部隊長に女性だとバレたときに、慌てふためいたディルユリーネを落ち着かせるために『これは秘密にしていることなんですが──』と言って、四属性の魔法が使えることを教えてもらったのだ。
ディルユリーネの秘密を守る証のために、わざわざマルロ部隊長は自分の秘密をあかしてくれた。魔法は使える属性が多いほどに蔑まされる対象になっていたから。
それを聞いて、ディルユリーネを信頼してくれたのだと気づいたと同時に、信頼できる人なのだと分かった。
だから、今、四属性の魔法を見せているということは、マルロ部隊長がマルヌイス司令官とジルヴァンを信頼しているのだという証でもあった。
マルロ部隊長が信頼しているのなら、マルヌイス司令官は本当に信頼できる人なのだろう。
《バシュッ、バチッ》
かなり威力の高い魔法が次々と結界を襲っていた。
しかし、結界に当たっている音はしても、見た目にはまったく変化がない。
かなりの破壊力がある筈なのに、結界にまったく被害がないなんてあり得るのだろうか。
実際、瞳にしても信じがたかった。
「サフィルス、結界の中に入れ」
「わかりました」
「一応、魔法で防御しろよ?」
マルロ部隊長がジルヴァンが張った結界の中に入ると、マルヌイス司令官は剣で斬りつけた。
「──っ!」
《ガキン》
結界が剣を受け止めた音だけが辺りに響く。
心臓に悪い光景に、ドクドクと鼓動が早くなる。
傍目にはマルロ部隊長にマルヌイス司令官が斬りつけているように見える。
結界が瞳に映らないからこそ、恐ろしい光景だった。
一擊目でマルロ部隊長に被害がないことが分かったので、その後は冷静に実験を見ていられたけれど、人に向けて攻撃されている光景を見ているのはとても心臓に悪かった。どうしてもハラハラしてしまう。
いく度か試した後、マルヌイス司令官は剣を収め、次は魔法で攻撃し始めた。
(マルヌイス司令官も魔法使えるのね)
水魔法と土魔法を結界に放っていた。マルヌイス司令官は二属性の魔法を使えるようだった。
その魔法も結界に当たって、弾かれたように結界の外側だけに後を残して消えていく。
結界の中には魔法を通さず、弾き返すようだった。
ジルヴァンの結界は、剣も弾き、魔法も通さないようだった。
一通り調べた頃には陽も暮れ始めていた。
「これは便利だな」
口許を楽しげに緩ませて笑うマルヌイス司令官は、新しいオモチャを見つけたように瞳を輝かしていた。
「これを身に付ければ、みんなは怪我しないか?」
いつになく真剣に訊ねるジルヴァンの関心は、どこまでいっても傷つく者たちの事のようだった。
「そうですね」
そんなジルヴァンを微笑ましく見つめるマルロ部隊長。
「だが、国民ひとりひとりに配るのは非効率的だろう」
一度考えをめぐらすように、マルヌイス司令官は瞳を閉じた。
「もっと大きい範囲の結界で覆った方がいいだろう」
「なら、国ごと覆えばいいのか! はあー、ムイは頭がいいなー」
「──っ!」
ジルヴァンの言葉に息が止まりそうになった。
ジルヴァンの口から飛び出たありえない発想にも驚いたが、マルヌイス司令官の名前が飛び出したことにびっくりした。しかもまさかの愛称呼びで。
許可なく貴族の名前を口にすれば、問答無用で切り捨てれられてもおかしくない。
事実、そうした出来事が過去に何度も起こったと聞いたことがあった。
言葉を失った一瞬で切って捨てられてもおかしくなかったジルヴァンは、変わらず感心したようにマルヌイス司令官を見つめていた。
マルヌイス司令官も特に不快に思うこともなく、ジルヴァンの言葉を受け入れている。
その事実に、背中にどっと冷や汗が出た。
最悪の事態にならなかった安堵に、一拍遅れて身体に表れたようだった。
先ほどからのタメ口で話していることにも驚いていたのに、まさかの愛称呼びまでしているとは。
貴族同士であっても、侯爵家のご子息を名前呼びすることすら躊躇われるのに、平民の立場のジルヴァンが呼ぶのはいくら何でも失礼すぎるだろう。
信じられないものを見るようにジルヴァンを凝視していたディルユリーネを、何を勘違いしたのかマルヌイス司令官が気さくに提案してきた。
「ディルもムイと呼んでも構わない」
「……え……えっ!! 」
「──ああ、突然令嬢に愛称を呼ぶことを要求するのは失礼だったな」
「……は、いッ?!」
突然の爆弾発言に、言葉を続けられなかった。
今、マルヌイス司令官は何と言った?
──ムイと呼んでも構わない?
何故、突然、愛称呼びを許すまでの親密さを示すのか。
まさかジルヴァンにもこの様に気安く愛称呼びを許したのだろうか。
しかもその後続いた言葉には聞きたくなかった単語が含まれていたように思えた。
──令嬢
確かにそう言っていた。
先ほどマルヌイス司令官が理解してくれたと思ったのは気のせいだったのだろうか。
令嬢という言葉が示す意味はひとつだけ。それを聞いたジルヴァンがどう反応したのか気になって、おそるおそる瞳を動かし盗み見る。
そこには難しい顔したジルヴァンがいた。
やはり騙していたことに怒っているのだろう。それとも軽蔑された?
「貴族令嬢に愛称呼びを求めるのは失礼なのか?」
ジルヴァンの発した質問に、再びディルユリーネは固まった。
今、ジルヴァンは普通に令嬢と言った?
驚きもせずに、ディルユリーネの事として話している?
「貴族社会ではそうだ。親族や婚約者、あるいは余程の親しい者にしか許されないものだ」
「そうだったのか! ──ん? でも、ムイは知っててディルに要求したのか?」
「……はは。サフィルスがあまりにも気を許していたから、ついな」
ディルユリーネを置きざりにして続く会話に、やっと頭が動き出した。
「ま、まって、まって、待って!」
「どうした? ディル」
狼狽えるディルユリーネを心配そうに見つめるジルヴァン。
その瞳には恐れていた怒りや軽蔑の色はなく、心配している色しか乗っていなかった。
「……ヴァンは私が女だって知ってたのか?」
「おう」
「──いつから?!」
「ディルの腕掴んだときから」
「……初めから……」
いろいろな情報が一度に押し寄せて、脳の処理が追いつかなかった。
ディルユリーネは混乱した頭の中で、冷静に受け止める時間が今、切実に欲しいと思った。
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