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26 実験
しおりを挟む「サフィルス、来い」
「……わかりました」
マルロ部隊長の天幕に到着した時に、やっとディルユリーネはマルヌイス司令官に追いついた。
身長の差なのか、マルヌイス司令官とジルヴァンの歩く速度が速くて、走って追いかけたのにマルロ部隊長の天幕に到着するまでかかってしまった。
追いついたと思ったときには、マルロ部隊長が天幕から出てきた。
訳も分からず追ってきたディルユリーネと瞳があったマルロ部隊長は、息を切らせたディルユリーネを見て労るように微笑みかけた。まるでいつものことだとでもいうように微笑み、余裕を感じさせるマルロ部隊長を見て、ディルユリーネは少し落ち着きを取り戻す事が出来た。
マルヌイス司令官はまた踵を返すと、今度は駐屯地の外へ向かって歩いていく。ディルユリーネは行き先が分からないまま黙って着いていくしかなかった。
駐屯地を出て、駐屯地の側にある森の中にどんどんと踏み込んでいく。
駐屯地の近くにある方の森は、鬱蒼としていてキノコなども生えない森だと、前にルルメさんに教えてもらっていた。そんな森に何の用があって足を踏み入れているのか。
疑問に思いつつも着いていくと、少し拓けた場所が見えてきた。
その中央まで歩くと、マルヌイス司令官は懐から何かを取り出して地面に何かを刺していく。
人一人が座っても少しだけ余裕があるくらいの広さを、四方で囲むように短剣が刺さっていた。
「ヴァン、今置いた物に沿って、捕虜の小屋と同じ結界を張ってみてくれ」
「いいぞ」
マルヌイス司令官に示された物に向けて、ジルヴァンは手を翳す。
ジルヴァンの手のひらに乗っていたメノウが短剣に向かって飛んでいく。
一本の短剣を始点にメノウがぐるりと一周して短剣にくっついた。
今、改めて見てもよく分からない。
どのような仕組みで空中を飛んでいくのだろうか。
マルロ部隊長はジルヴァンの創術は魔法ではないと言っていたけれど。
「……ふむ」
ジルヴァンの動きをつぶさに観察していたマルヌイス司令官は結界が張られた場所へ近づく。
短剣と短剣の間の上空におもむろに手を伸ばした。
《トン》と軽い音がして、マルヌイス司令官の手が何もないはずの空間で止まった。
小屋で見たときと同じ状況が瞳の前に広がっていた。
マルヌイス司令官は確認するように手を上下左右に動かし、見えない壁がどの範囲まであるのかを確認しているようだった。
動きを見ていると、横幅は短剣で挟まれた距離だけのようで、縦にはマルヌイス司令官が届く範囲までは見えない壁が続いているようだった。
本当に不思議な術だった。
「ディル、其方も確認して欲しい」
「分かりました」
請われるまま近づき、マルヌイス司令官と同じように手を伸ばす。
ゆっくりと、慎重に、手を伸ばしていく。けれど、ディルユリーネの手にはいつまで経っても何かに触れる感触がなかった。
伸ばし方が足りなかったかと一歩踏み込んでも、手には何も触れることがなかった。
まさかまだ踏み込みが足りなかったかと足下を見れば、地面に刺さった短剣を通り越し、短剣で囲われた中に立っていた。
「えっ?」
「──なるほど。次はサフィルス、やってみてくれ」
1人納得したように頷くマルヌイス司令官の言葉で、マルロ部隊長と場所を交換する。
今まで黙って成り行きを見ていたマルロ部隊長は、心得たように手を伸ばした。
そしてマルロ部隊長の手も何の障害もなく空を切った。
「分かった。サフィルス、一旦離れろ」
その言葉が終わる間もなく、剣を抜く音が聞こえたかと思ったときには固い物がぶつかったかのような音が響く。
「──っ」
驚いて、漏れそうな悲鳴を飲み込む。
マルヌイス司令官が腰の剣を抜き、結界を斬りつけていた。
しかし、剣は振り抜けることもなく、瞳の前の結界がある辺りの空中で停止していた。
その後続けざまに斬りつけたり、突き刺したりを繰り返す。
「ムイ、ディルをあまり驚かせないでくれますか?」
「うん? ああ、すまない。興味が尽きなくて」
「私は慣れているからいいですが、時と場合を考えてください」
「だから、すまないといっているだろう」
先ほどから親しげなやり取りをしているマルヌイス司令官とマルロ部隊長の関係性が気になったけれど、驚きすぎて確認出来ずにいた。
以前からの知り合いのような気安さが話し方から感じられる。
「これなら弱き者を守れるか?」
問われた声に振り返ると、真剣な瞳をして結界を見つめるジルヴァンがいた。
「誰も傷つかなくてもすむか?」
「そうですね。もう少し検証が必要ですが、守れると思いますよ」
ジルヴァンの瞳を見つめ返し、マルロ部隊長が力強く肯定していた。
「そうか…」
握り締めた拳に力を入れ、力強い眼差しをこちらに向ける。
「あとは何をすればいい?」
「次は魔法が効くのかを調べる」
「それと中に入っていても大丈夫なのかも確認しないといけないですね」
「そうか。まだまだたくさん確認しないといけないのか!」
俄然、ジルヴァンはやる気を漲らせた。
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