貴方の瞳に映りたい

神栖 蒼華

文字の大きさ
4 / 63
本編

3 ハリスの視線

しおりを挟む

食事を終えた後、マーリンに身支度をととのえてもらい、屋敷の玄関を出ると、ハリス様が今日も護衛騎士として待っていた。
いつもの黒基調の騎士服に身を包み、後ろに撫でつけられた髪の毛が男らしさを強調していて、力強く頼もしさを表している。
そして、いつも通り護衛騎士として頼もしく感じると共に、緊張が高まってくるのを感じた。



 ……やだな、またいつものように緊張してきた……、昨日は緊張しなかったのに……。
ハリス様には二年前から護衛していただいているのに……、どうしてまだ緊張するのかしら。
もしかして、昨日は姿を偽っていたから、緊張しなかったとか?
うーん、あれっ?  昨日のハリス様は……、ああー、髪の毛を下ろしてたのね……。だからいつもより柔和な印象に見えて緊張しなかったということかしら?



「おはようございます、シェラルージェ嬢」

緊張から物思いにふけっていた私は声をかけられ、慌てて顔を上げるとハリス様と目が合った。
ハリス様に挨拶をされたことに気づいた私は、慌てて口を開き、ハリス様にジッと見られていたことに気づいて、恥ずかしくてどんどん顔が赤く染まっていくのがわかった。

「…お、はようございます、ハリス様。…本日も宜しくお願いします」

口から出た挨拶の言葉は、緊張と羞恥心で小さな声になっていた。
それでも、頑張って笑顔は保とうと思っていたけれど、上手く笑えていたかわからない。

(……こんなのじゃ呆れられて護衛騎士を辞めると言われてしまうかもしれない)

落ち込んで下を向いた私に、スッと手が差し出される。
馬車へ乗り込むために差し出されたハリス様の手だった。
緊張で震える手を乗せて、その後結局ハリス様と目が合わせられないまま私は馬車に乗り込むしかなかった。

馬車の中にはお父様とアルム兄様がもう座って待っていた。
馬車の扉が閉じると、アルム兄様が心配して声をかけてきた。

「シェラ、どうしたの? 今日は一段と緊張しているようだけれど、ハリスが何かしたのかな?」

アルム兄様の声に寒気を感じ、慌てて否定する。

「何もされてません。私が考えごとをしていてハリス様を困らせてしまっただけです」

自分の言った言葉に、先程の自分の態度が改めて酷かったことを感じて落ちこむ。

「そう? ハリスに何かされたら兄様に必ず言うんだよ?」
「そんなことされるはずありません。アルム兄様は心配し過ぎです」
「シェラは可愛い過ぎるから兄様とても心配なんだよ」
「アルム兄様がいうほど可愛くありませんから、大丈夫です!」

シェラルージェが胸を張って言う。

「シェラは自分のことを分かってないからね…、だから心配なんだけどね?」

アルム兄様は苦笑すると、シェラルージェの頭を一度撫でる。

「シェラ、笑って? 兄様はシェラの笑っている顔好きだよ? だから笑って見せて?」

アルム兄様が笑ったので、シェラルージェも笑うことが出来た。

「良かった。シェラが哀しそうな顔してると兄様も哀しくなるからね」

シェラルージェは心配させないよう頑張って笑顔を浮かべ続けた。


  ***


馬車が城に到着すると、馬車の扉が開いた。
お父様に続いてアルム兄様が馬車を降りると、シェラルージェはアルム兄様のエスコートで馬車を降りた。

その時に馬車の前に立っていたハリス様と瞳が合う。
瞳が合ったことに驚いたシェラルージェは、慌てて下を向いた。

(あぁ、瞳が合ったことに驚いて下を向いてしまったけれど、ハリス様はどう思ったかしら。失礼な娘だと思ったかもしれない)

そう思うとより目線をあげられず、前を歩くお父様とアルム兄様の背中だけを見て歩くことになってしまった。

お父様の後に続いて歩いていると、すれ違う王宮侍女や近衛騎士、政務官などが不躾に目線を送ってくる。
その視線が体に突き刺さり居心地が悪く、緊張で顔が強張っていく。
毎回、シェラルージェが登城すると、この視線に晒されて、いつまで経ってもお城に来ることに慣れない。
お城に登城するのはやはり苦手だった。

陛下の執務室の前に到着すると、お父様は到着した旨を扉の前に立つ近衛兵に伝える。
すると、扉が開き、お父様が中に入っていく。お父様につづいてアルム兄様、シェラルージェの順に入室し、最後にハリス様が入って扉を閉めた。

中には陛下とお父様、アルム兄様、シェラルージェと扉の前にハリス様が立っているだけ。

陛下は私達の姿を確認すると、親しげに笑いかけて下さった。

「よく来た。ハワード」
「陛下もお変わりなく」
「では、報告を頼む」
「はい」

私達は椅子に座ると、お父様は陛下に創術についての報告をしていく。
お父様は陛下と同時期にご学友として過ごし親しくされたみたいで、他の者が居ないときは友人として仲良くしているみたいだった。
その為、陛下は今のような他者が居ないところでは、シェラルージェにも友人の娘として接して下さる。

お父様は仕事の報告のために登城するときはアルム兄様とシェラルージェを連れて、創術の状態と消耗具合、交換の有無から必要な聖石の数などの報告をしている。
書類に残せない国家機密を含んでいるため、口頭でのやり取りで終わらせる決まりになっていた。
アルム兄様とシェラルージェはお父様に何かあったときのために、情報を共有するため同席している。

ハリス様はお祖父様がシェラルージェのために用意した護衛騎士のため、特殊な立場で同席を許されていた。お祖父様が選んだということがお墨付きとなって、陛下も信頼を置いていた。


大事な仕事の話の最中にも関わらず、シェラルージェは別のことに気をとられていた。

今日はなぜだかハリス様の視線を強く感じていた。
気のせいかと思っていたけれど、やはり視線を感じて、そう思うとますますハリス様の視線を感じて、どうしても気になってしまい、ちらりとハリス様を盗み見てしまった。

(ッ……)

ハリス様と瞳が合ってしまい、シェラルージェは慌てて視線を戻す。
心臓が早鐘を打ち、ドキドキしている音が周りの人に聞こえているのではないかと思った。

(やだ、恥ずかしい)

下を向いて気持ちを落ち着かせていると、それでもやっぱり視線を感じて、どうしても気になってハリス様をまたちらりと見た。
すると、シェラルージェの視線に気づいたのか、ニコリと笑いかけられた。
笑いかけられた瞬間に心臓がドクンと強く脈打つ。

(やだ、ドキドキが止まらない)

今度はシェラルージェも頑張って笑い返してから視線を前に戻した。
笑ったときに顔が赤くなっていたのはもうしょうがないと思うしかなかった。

──今日はいつもよりハリス様の視線を意識してしまう自分がいた。
──それに今日はよくハリス様と瞳が合っている気がする。

(私は護衛対象なのだから、見られているのは当たり前のこと。だからこの視線に意味なんてないのよ)

それなのに動揺している今日の自分はおかしいと思った。
そう分かっていても、今日はハリス様の視線を強く感じてシェラルージェは自分の顔が赤いままなのが分かった。

もう陛下の御言葉もお父様やお兄様の言葉も耳に入ってこなかった。

そんなシェラルージェに気づいた陛下が、退室を許してくださった。

「シェラルージェ嬢、話が終わるまでいつものように待っていてくれるか?」
「かしこまりました」

陛下の優しいご配慮に、御前を下がらせてもらう。
シェラルージェはこれ以上ハリス様の視線に耐えられそうになかった。

だから逃げるように、いつもの待機場所へと急いだ。
これから向かう先だけはハリス様が着いてこられない場所だったから。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

セイレーンの家

まへばらよし
恋愛
 病気のせいで結婚を諦めていた桐島柊子は、叔母の紹介で建築士の松井卓朗とお見合いをすることになった。卓朗は柊子の憧れの人物であり、柊子は彼に会えると喜ぶも、緊張でお見合いは微妙な雰囲気で終えてしまう。一方で卓朗もまた柊子に惹かれていく。ぎこちなくも順調に交際を重ね、二人は見合いから半年後に結婚をする。しかし、お互いに抱えていた傷と葛藤のせいで、結婚生活は微妙にすれ違っていく。

よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

処理中です...