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本編
35 ハリスの想いは誰に
しおりを挟むそれにしても、ハリー様の好きな女性がクラリッツェ様ではないということは、ハリー様の好きな女性は誰なのだろうか。
前にセリーナが言っていた通り私は勘違いしていたということなのだろう。
水色の髪の女性か──。
シェラルージェは今まで出会った様々なご令嬢を思い浮かべてみても、クラリッツェ様以外出てこなかった。
シェラルージェのあまりにも少ない社交経験の中では、検索できる数が限られてしまう。その不甲斐ない事実にシェラルージェはため息しか出てこなかった。
そういえば、確かセリーナは他にも水色の髪の女性がいると言っていたはず。後でセリーナに聞いてみようと思った。
シェラルージェは今頃になってハリー様の好きな女性をしっかりと知りたいと思うようになった。
ハリー様の婚約話やクラリッツェ様のことがあって、シェラルージェがハリー様の好きな女性を認めることから逃げていたことがはっきりと分かったから。事実から目を背けていたから、憶測で思い込んで結局ハリー様に挙動不審を心配されてご迷惑をおかけしてしまった。
だから、まずはハリー様の好きな女性を知るためにセリーナに聞いてみようと思う。
流石にハリー様に好きな女性が誰かを直接聞く勇気はない。そんなことしたら告白しているのと同じになってしまう、そんな勇気はまだなかった。
自分でも矛盾していると思うけれど、出来るところから始めたいと思った。
まずはハリー様の好きな女性を知る。
そして、ハリー様の好きな女性に少しでも近づけるように頑張る。
所作などを真似ても意味はないのかもしれない。
そのご令嬢だからハリー様がお好きなのかもしれないけれど、少しでもハリー様に好ましく思われるように努力したいと思った。
今までのハリー様を見ていれば、本当にそのご令嬢のことを好きなのが伝わっていたけれど。
シェラルージェを好きになってもらえる可能性など全くなさそうに感じてしまうけれど。
それでも、挫けそうになる心を奮い立たせ、顔を上げる。
振られるまでは、ハリー様がその好きな女性と結ばれるまでは、或いはハリー様の婚約話が決まるまでは頑張ると決めたのだから。
シェラルージェが一人心の中で決意していると、ハリー様の視線がシェラルージェに注がれていることに気が付いた。
また、ハリー様のことを忘れていたことに気づき、シェラルージェは慌てた。
どうもひとつのことに集中してしまうと他のことを忘れてしまうらしい。ところ構わず一人で考え込んでしまう癖があることに気づいてしまった。
この癖も直さなくてはと、シェラルージェは心に決めた。
ハリー様はシェラルージェを窺うような様子を見せた後、視線を少し彷徨わせながらも何かを決めたのか、シェラルージェに真っ直ぐな眼差しを向けてきた。
「あの、私もシェーラ嬢にお聞きしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか」
「はい」
ハリー様の空気が張り詰めているように感じて、何か重要なことでも訊かれるのかとシェラルージェは息を詰めた。
「あの…、シェーラ嬢にとって王太子殿下とカミル殿はどのような存在なのでしょうか」
ハリー様の言葉を理解した途端気が抜けた。そしてシェラルージェは詰めていた息を吐いた。
何故、この質問でハリー様が緊張しているのか分からなかったけれど、シェラルージェは気軽に答えられる内容で安心した。
「ユリウス兄様とカミル兄様ですか?」
「はい」
「もう一人のお兄様のような方です。あっ、この場合は2人のお兄様と言った方がいいのでしょうか」
「やはり」
「えっ?」
ハリー様が難しい顔をして呟かれた言葉は小さすぎて聞き取れなかった。
シェラルージェの声に、ハリー様は少し首を振ると、今度はおそるおそるといった感じでシェラルージェに問いかけた。
「……ちなみにアーサーはどのように思っていますか?」
シェラルージェは問われた内容に戸惑った。
ここで何故アーサー様の名前が出てくるかが分からなかった。
それを問うハリー様の様子も不可解でシェラルージェは困惑した。
アーサー様についてはハリー様の方がよくご存知のはずだと思ったけれど、それでも私の意見が必要なのかもしれないと思い、シェラルージェは戸惑いながらもアーサー様の印象を答えた。
「素敵な方ですよね」
「ッ…」
シェラルージェが答えると、ハリー様の顔が強張った。
ハリー様の反応に、よりシェラルージェは困惑した。
この答えは何か間違っていたのだろうか。
それともマリーとの事を知っているから、私が言った言葉で誤解をされた?
それだけは違うことを伝えなければと、シェラルージェは言葉を続けた。
「マリーと早く結ばれればいいなと思っています」
「…王女殿下と?」
「はい、マリーの想い人ですから。ハリー様もご存知なんですよね? この前心配して下さいましたから」
シェラルージェの言葉を驚いたように瞳を見開いて聞いていたハリー様は、聞き終わると途端に破顔して笑い出した。
「あっ、はは、はい、そうですね。アーサーはいい男です。王女殿下にお似合いだと思います」
「そうですよね」
「……はは、全て私の勘違いだったわけか……」
「えっ?」
「いいえ、お話を伺えて良かったです。ありがとうございました」
ハリー様はとてもすっきりした顔をして笑っていた。反対にシェラルージェはハリー様の様子に戸惑い、どうすればいいのか分からなくなっていた。
「お時間をいただきありがとうございました。少し遅くなってしまいましたね。帰りましょう」
「はい」
ハリー様に手を取られ椅子から立ち上がる。
そのままエスコートされて出口に向かいながら、エスコートされた手を見つめハリー様の中で私の位置づけはどこにあるのかとても気になっていた。
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