サラ・ノールはさみしんぼ

赤井茄子

文字の大きさ
6 / 20
本編

へんたいせんようおせわががり②※

しおりを挟む
 ある夜、いつものように夕食の配膳と手伝いをするためにマクシムの部屋を訪れると、さも「困っています」といった顔で小首を傾げた美貌の変態執事がいた。因みに夜は執事服なので、ズボンは脱いでいない。夜着よりもしっかりとした作りだから、誰かの手を借りねばマクシムはズボンを脱ぐまでは出来ないのである。

「入浴を手伝ってくれる同僚たちに、軒並み用事が出来てしまいまして……困りましたねぇ、これでは体を洗えません。清潔に努めねばならない執事としては実に困りました」

 白々しい。絶対に何か裏から手を回したに違いない。サラは疑いの眼差しをマクシムに向けた………そして、その視線を感じ、変態は息を荒げ始める。実に変態だ。

「…………私に何しろって言うんですかぁ……」
「分かりませんか?仕方がありませんね、察しの悪いサラの為に教えて差し上げましょう。……ふふ、今晩は入浴の手伝いをお願いします」
「いいい嫌ですよぅ!そんな娼婦さんみたいな仕事むりですぅ!!!!」

 余りの事態に顔を真っ赤にして叫ぶサラ。その頬を撫でようとして…………ぺちっ!と叩き落とされたマクシムは、叩かれて少し赤くなった手の甲にキスをして熱い吐息をもらした。そして、ねっとりと絡みつくような視線をサラに向ける。

「……………………貴女が娼婦だったなら、即座に身請け監禁の末に孕ませてさっさとお嫁にするんですけどねぇ………。もちろん、サラはそう言うと思って、湯着もご用意しましたよ!これなら全裸を私の前に晒さずにすむでしょう?」

 サラは、奴から漏れ聞こえて来た妄想と不穏な言葉の羅列を聞かなかったことにした。変態の妄言に関わると絶対に大変なことになると、彼女の本能が告げている。スルーすることも変態と関わる上では大切なことだと、サラはこの二ヶ月で学んだのだ。

「……………分かりましたよぅ、やれば良いんでしょう」

 湯着もあると聞き、サラは肩の力を抜いて頷いた。マクシムの裸を見ることになるが、毎朝着替えを手伝っているのだから今更だ。それに、使用人用の浴場を使うのだから流石に他人が入ってくるような場所で目に余るようなセクハラはすまい。彼女は湯着を受け取りながらそう考えていた。

 …………その予想が余りにも甘すぎたことを、サラはその後思い知ることになる。





 ガールデン家には、使用人用に誂えた浴場があった。数代前の奥様が考案したというその浴場は、使用人5人が一度に入っても十分な広さだ。また、時間帯で『男湯』『女湯』を切り替えるので覗きの心配もない。
 石を組んで誂えた大きな岩風呂は、お屋敷伝統で自慢の一品だ。湯を沸かさずとも『温泉』というお湯を裏山から引いてきているので、この浴場はいつでも温かいお湯を浴びることができる優れもの。これ目当てにガールデン家を奉公先に選ぶ者も少なくないとか。
 ……浴場を管理している『お風呂屋』の気まぐれで、たまに湯船がえげつない色や匂いに変わったりするが、使用人たちにはそういう事も含め、とても親しまれている。
 そして現在、浴場には『特別使用中』の立て札がかかっていた。


「甘かったですよぅ………うう……これじゃ人目とかないし……っていうか、そもそもこの場でいう『人の目』って、あったらあったで全員スッポンポンじゃないですかぁあ………うぁうううぅう」

 美しく筋肉のついた背中をゴシゴシと力いっぱいこすりながら、サラは心の悔し涙を流していた。

「ふふふふふサラの瞳に私以外の男への嫌悪が浮かぶことなんて考えたくもありません。他の者にも話は通してありますからね、貴女は私の肉体だけをしっかり見ていてください。あとその洗い方とても良いですね!私の背中に貴女のやるせない想いが刻みつけられているかのようです。このヒリヒリする感覚すら愛おしい……ッ」
「ああ、はいはい。お背中流しますよぅ」
「サラ!!はぁ!!!容赦ない熱湯が肌に染みて燃えるようです!!私の体に貴女が刻みついて………はぁッたまりませんサラ!!お嫁にきなさい!!!」

 ……………心温まる変態の入浴風景である。
 マクシムの変態発言をお湯と共に流しながら、サラは自分の適応力をひしひしと感じていた。

「はいはいはい、次は頭を洗いますからねぇ」

 マクシムの前に回り込み、頭を掴んでぐいっと俯かせる。長い銀髪にお湯を流し、髪専用石鹸をふりかけて泡立てていく。(因みに、本日使用している石鹸類は全てサラが愛用している物と同じ物ばかりだった。変態の思考が透けて見えてサラは全力で引いた)
 白い泡の中で煌めく銀髪をわしわし洗っていると、何だか昔実家で飼っていた白い犬を思い出す。サラにとびきり懐いていたその犬は、お風呂が大好きだった。小さなサラが「とってこい!」と言って大暴投し、沼に落っこちた棒きれを、泥だらけになりながらも拾ってくるような可愛い奴だった。その後サラに飛びつくものだから…よく母に叱られ一緒にお風呂に入ったものだ。
 ………愛犬の思い出に浸っていた彼女は気付かなかった。頭から被ったお湯の合間から、彼女の柔らかい微笑みを覗き見て、マクシムがうっとりと目を細めていたことに。




「さて、次は前を洗って頂きます」

 濡れた髪の毛をかきあげながら、琥珀色の双眸を蕩けさせマクシムが微笑む。その瞬間、先程までの変態性が鳴りを潜め、壮絶な色気が垂れ流され始めた。髪の毛から滴る雫が、マクシムの首筋を伝い、胸筋を通って凹凸のある腹を下っていく………サラはその下にあるものに気付き、硬直した。
 腰布をナニかが押し上げている。しかも生半可な大きさではない。どうやら、マクシムは麗しい顔に似合わない凶悪なブツをお持ちのようだ。

「………何ですかそれ………」
「私の生殖器です」
「………何でそんなになってるんですぅ…?」
「サラに触れられて興奮したからです」
「うわぁアぁん見せるなやめろぉ変態変態変態いやぁぁあぁ……!!」
「ははは、サラは可愛くてお馬鹿ですねぇ!見せないと洗えないではないですか」
「………えっ、ま、まさか…………」

 この後の展開を感じ取り、青褪めたサラを実に愛しそうに眺めながら、色気を垂れ流す変態は………殊更にゆっくりと腰布を解いた。

「ひェッ!!?」

 開放されたマクシムの肉茎が、ぶるんと起き上がる。その立派なご様子に、今度こそサラは悲鳴をあげて石のように固まった。


「私の愚息を洗って下さい。………デリケートな部分なので、サラの手の平で……ね?」


 やはり、マクシムは変態だ。

 恋する乙女の許容量を超えた事態に、サラは唇を噛み締めた。
 ……こんな事態でも気を失えない自分の丈夫な精神を心底恨みながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

碧眼の小鳥は騎士団長に愛される

狭山雪菜
恋愛
アリカ・シュワルツは、この春社交界デビューを果たした18歳のシュワルツ公爵家の長女だ。 社交会デビューの時に知り合ったユルア・ムーゲル公爵令嬢のお茶会で仮面舞踏会に誘われ、参加する事に決めた。 しかし、そこで会ったのは…? 全編甘々を目指してます。 この作品は「アルファポリス」にも掲載しております。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...