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本編
おひとりサラの里帰り③
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半年サラについて回るかと思われたが、マクシムはその後三日ほどサラの実家で過ごし職場へと帰っていった。実際特別な事情もない為、彼は三連休をもぎ取るのが限界だったのである。
しかし、この短期間でどう口説き落としたのか……マクシムは頑固者で有名だったサラの父母をすっかり陥落させてしまった。両親は彼を事あるごとに未来の息子扱いし、とても可愛がっている。挙句「孫はまだか」と言われる始末。とりあえず、孫について間髪入れず「お任せ下さい!」と答えたマクシムの鳩尾を一発小突いておいた。変態は小声でボソボソ何か言いながら悦んでいたが、サラは何も聞いていない。変態は関わりすぎると面倒なのだ。
「サラ!!また連休をとって貴女に会いにきますからね!!!サラ!サラーーー!!!」
「はいはいはい、さっさと行っちゃって下さいよぅー!」
「ああっなんて素気ない!そんな貴女も素晴らしいです!お嫁にきなさい!!!」
そんな具合で愚図るマクシムを容赦なくお見送りし、サラはようやく一息ついた。
何はともあれ、変態のいない平穏な生活が始まった。平穏、と言っても賑やかな両親がいるし、姉は義兄を一日に二度は椅子やら絨毯やら自動で歩く乗り物扱いするのでそれなりに騒々しい。それに、姪のミリアは遊び盛りなので、彼女の遊び相手を務めるともうヘトヘトだ。そんな日々を過ごしていると、何だか変態に付きまとわれていたお屋敷での出来事が、夢のように遠く感じられた。
「姉さん、今週末は満潮ね……赤ちゃんは潮に乗ってやってくると言うし、そろそろかなぁ?」
「ふふ、さぁどうかしら。結局はこの子の機嫌次第なのよね」
サラが姉のお腹にそっと触れると、そこを狙ったようにポコン!と腹が盛り上がる。姉の体の中で、確かに息づく命の気配が擽ったくて、サラは何だか笑ってしまった。体の内側から蹴られまくる姉は大変だが………聞いた話、胎児は胃やら膀胱やらお構いなしにポコポコ蹴り上げる為、トイレは近くなるし胃はすぐ苦しくなるしで本当に大変らしい。
もしも、マクシムとの子どもが出来たら……サラも同じ様な悩みをもつことになるのだろうか。
そんなことをうっかり考えてしまい、サラは頬を紅く染めた。気が早い話だ。でもあれだけ中に出されたのだから、どれか一回くらい当りがあっても不思議ではないと思う。
「そういえば………サラ、結婚式はいつにするの?」
「えっ?」
顔をあげると、期待で瞳を輝かせた姉が笑っていた。…………その瞬間、『結婚』の二文字が現実のものとしてサラの背中で重みを増しのしかかってくる。
「ほら、赤ちゃんが生まれたら私もしばらく自由には動けないし……結婚式に参加するなら、赤ちゃんの首が座ってからの方が何かとやりやすいから」
「あ、う………うん………でも」
分かっている。マクシムは、本気でサラと結婚するつもりなのだ。だからこそ、こうしてサラの家族と親しくなってどんどん外堀を埋めていく。今マクシムが「サラをお嫁に下さい!」と言ったなら、両親も二つ返事で結婚を許すことだろう。
でも…………と、サラは考えてしまう。今までマクシムの変態行動に流され目を逸していた凝しこりが、心の中で嫌な音を立てた。
「どうしたの?サラ」
「…………………姉、さん」
心配そうな顔をして、姉がそっとサラの目を覗き込む。優しく慈愛に満ちた眼差しに、サラの瞳は何故か潤んで、ポタポタと涙が零れ落ちていった。
「姉さん、私…………分からない」
マクシムは、サラの全部を受け入れてくれた。サラも、マクシムの全部を受け入れた。でも、決定的な何かがサラの中に欠けている。
きっと、それから目を逸しても上手く行くのに。むしろ知らない振りをしていた方がきっと上手くいくのに……どうしても気になってしまう。さみしんぼなサラは、その空隙を無視できないのだ。
「マクシムさんは、私のことどう思ってるのか………本当に『好き』なのかなぁって」
何度も何度も抱かれた。「私の子どもを孕んで」と囁かれ、苦しくなるほど情欲を注がれた。「貴女は私のものだ」と何度も宣言されたし、首輪と鎖で繋ぐほどサラに執着していることも身を持って知っている。
でも、一度も『愛している』とは言われていない。
マクシムがサラに抱いている感情は、子どもがお気に入りの玩具を抱きしめて離さないような、そういう……独占欲のような何かではないのか?
サラは、マクシムに恋している。認めたくはないが、もう彼女は身も心も全てマクシムのものだ………本当に認めたくはないが。
一見、順風満帆に見えるサラとマクシムは、割と食い違っていた。今までの恋愛遍歴のせいか、彼女は自分から想いを伝えることは出来ても、決定的な想いを聞くことは怖くて足踏みしてしまう。
サラは、マクシムのものだ。
では、マクシムは誰のものだ?
「………分からないの。マクシムさんは、私を欲しがるけど……受け入れてくれたけど……」
マクシムの変態行動は、傍目から見れば『愛に基づく束縛行為』に見える……けれども、それがもし、サラの思う『愛』とは違ったら?まかり間違って、「貴女は私の所有物で、そこに男女の愛はありませんよ?」なんて言われたら、サラは絶対に一本背負いしてしまう……いや、心に傷を負い涙を流してしまうだろう。
「私、マクシムさんに……こう、ちゃんと『人』として愛されてるのかな……とか」
口に出すと何とまぁ情けない悩みだろうか。サラは悔しいやら恥ずかしいやらで、さらに涙が溢れ出る。
すると、目の前にレースの縁取りが愛らしい木綿の布が差し出された。涙を拭き取って気がついたが、これは……先程姉が完成させた赤ん坊用のヨダレかけである。通りで吸水性抜群のはずだ。これなら赤ん坊の涎や吐き戻しもばっちり受け止めることが出来るだろう。
「後でそれ、洗って干しといて」
「うん…ありがとう、姉さん」
「それはそうと―――――――産んだら一発、マクシムさんを殴っとかないといけないわねぇ」
不穏な言葉と、突然低くなった姉の声にサラはビクッと体を震わせた。これは、あれだ。かつて義兄に雌の獣人が横恋慕した事件で、押しかけてきたその雌を言葉と乗馬用の鞭で叩きのめした時の声だ。
あの時の姉は本当に恐ろしかった。しかしお陰様で、ライバル気取りだった雌の獣人は姉のことを「姐あねさま!」と呼び、すっかり大人しい妹分になった。たまにお土産をもって遊びに来る。
……いや、今はそんなことどうでも良い!
「姉さん!それはやめて!」
「駄目よ、可愛い妹を泣かせやがったのだもの。大丈夫、傷は残さずにしっかりと体に叩き込んであげるから」
姉がおっとりと微笑んで首をかしげる。しかし目が全く笑っていない。サラと同じ焦茶色の瞳が、危険な光を湛えギラギラと光っている。何だか妖しい色気まで感じるのは気のせいだろうか?似た顔なのに、随分違うものだと場違いにも感心してしまうサラであった。
「とにかく駄目だってばぁ!それ下手したら裁判沙汰になっちゃうやつだから!!!」
「遠慮しないで?」
「遠慮じゃないぃ!それに、それに………」
そこまできて、サラは真っ赤になりながら叫んだ。
「あの変態野郎をどうにかして良いのは!!!私だけなんだからぁ!!!!」
しばしの沈黙の後ハッと我に返ると、姉が満足そうに微笑みながらサラを見ていた。何てことを口走ってしまったのか!ますます顔を赤らめ、サラは手元のヨダレかけに顔を埋めた。恥ずかしい。今なら近所の林を十周は走って回れる。ついでに遭難して息絶えたい………狭い林なので遭難するのは不可能だけれど。
ヨダレかけに埋もれたサラの頭を、姉が少し荒れた手のひらで優しく撫でる。サラはしばし、その少し固いけれど柔らかい感触に身を委ね深呼吸した。ヨダレかけからは、サラの涙の匂いがする。
「サラ、貴方って本当にマクシムさんが好きなのねぇ」
「……………誠に遺憾ですがその通りです」
「お互い、変な男に縁があるわね。姉妹だからかしら」
「ヴォルフさんも大概変態狼さんだもんねぇ…」
「そうなの。でもいいのよ、私が選んだ男……雄?だもの」
だからね、と、頭を撫でながら姉は続ける。
「サラ、貴女が好きになった男を信じなさい」
「…………信じる?」
「そう。そして、信じる為に言葉と体で話し合うのよ。そのどちらかが欠けても駄目。話して、しっかり相手と向き合うの」
恋は、一方通行でも成り立つものだ。けれど、愛はそうはいかない。向き合い、話しあい、時に衝突しながら『二人で』育むものだ。
まぁ、世の中には様々な愛の形があるので一概に全てそうとは言い切れないが……少なくとも、サラがマクシムに求める『愛』は、そうやって形作るものであろう。
その為には、まず相手を信じなければならない。そしてマクシムに、『愛されている』ことを確信するためにも、サラには決定的な言葉が必要なのだ。
「…………姉さん、大人ね」
「当たり前よ。貴女より十年は長く生きているのだもの」
「へへ、そうよね。…………そうなのよね」
サラは、ヨダレかけから顔をあげた。目元はまだ赤いが、潤んでいた瞳には強い光が宿っている。
「結婚するなら、はっきりさせなくちゃ駄目だわ」
次にマクシムと会った時、もう一度話し合う。そして、決定的な言葉――――『愛してる』を貰ったその時こそ、本当の意味でサラとマクシムは『恋人』になれるのだ。
ヨダレかけを握りしめて奮起する妹を、微笑ましく見守りながらアリアはぽつりと呟いた。
「……傍からみたら、マクシムさんの気持ちなんて一目瞭然なんだけどね」
知らぬは当人ばかりか。
姉の小さな心の声は、残念ながらサラの耳には届かなかった。
しかし、この短期間でどう口説き落としたのか……マクシムは頑固者で有名だったサラの父母をすっかり陥落させてしまった。両親は彼を事あるごとに未来の息子扱いし、とても可愛がっている。挙句「孫はまだか」と言われる始末。とりあえず、孫について間髪入れず「お任せ下さい!」と答えたマクシムの鳩尾を一発小突いておいた。変態は小声でボソボソ何か言いながら悦んでいたが、サラは何も聞いていない。変態は関わりすぎると面倒なのだ。
「サラ!!また連休をとって貴女に会いにきますからね!!!サラ!サラーーー!!!」
「はいはいはい、さっさと行っちゃって下さいよぅー!」
「ああっなんて素気ない!そんな貴女も素晴らしいです!お嫁にきなさい!!!」
そんな具合で愚図るマクシムを容赦なくお見送りし、サラはようやく一息ついた。
何はともあれ、変態のいない平穏な生活が始まった。平穏、と言っても賑やかな両親がいるし、姉は義兄を一日に二度は椅子やら絨毯やら自動で歩く乗り物扱いするのでそれなりに騒々しい。それに、姪のミリアは遊び盛りなので、彼女の遊び相手を務めるともうヘトヘトだ。そんな日々を過ごしていると、何だか変態に付きまとわれていたお屋敷での出来事が、夢のように遠く感じられた。
「姉さん、今週末は満潮ね……赤ちゃんは潮に乗ってやってくると言うし、そろそろかなぁ?」
「ふふ、さぁどうかしら。結局はこの子の機嫌次第なのよね」
サラが姉のお腹にそっと触れると、そこを狙ったようにポコン!と腹が盛り上がる。姉の体の中で、確かに息づく命の気配が擽ったくて、サラは何だか笑ってしまった。体の内側から蹴られまくる姉は大変だが………聞いた話、胎児は胃やら膀胱やらお構いなしにポコポコ蹴り上げる為、トイレは近くなるし胃はすぐ苦しくなるしで本当に大変らしい。
もしも、マクシムとの子どもが出来たら……サラも同じ様な悩みをもつことになるのだろうか。
そんなことをうっかり考えてしまい、サラは頬を紅く染めた。気が早い話だ。でもあれだけ中に出されたのだから、どれか一回くらい当りがあっても不思議ではないと思う。
「そういえば………サラ、結婚式はいつにするの?」
「えっ?」
顔をあげると、期待で瞳を輝かせた姉が笑っていた。…………その瞬間、『結婚』の二文字が現実のものとしてサラの背中で重みを増しのしかかってくる。
「ほら、赤ちゃんが生まれたら私もしばらく自由には動けないし……結婚式に参加するなら、赤ちゃんの首が座ってからの方が何かとやりやすいから」
「あ、う………うん………でも」
分かっている。マクシムは、本気でサラと結婚するつもりなのだ。だからこそ、こうしてサラの家族と親しくなってどんどん外堀を埋めていく。今マクシムが「サラをお嫁に下さい!」と言ったなら、両親も二つ返事で結婚を許すことだろう。
でも…………と、サラは考えてしまう。今までマクシムの変態行動に流され目を逸していた凝しこりが、心の中で嫌な音を立てた。
「どうしたの?サラ」
「…………………姉、さん」
心配そうな顔をして、姉がそっとサラの目を覗き込む。優しく慈愛に満ちた眼差しに、サラの瞳は何故か潤んで、ポタポタと涙が零れ落ちていった。
「姉さん、私…………分からない」
マクシムは、サラの全部を受け入れてくれた。サラも、マクシムの全部を受け入れた。でも、決定的な何かがサラの中に欠けている。
きっと、それから目を逸しても上手く行くのに。むしろ知らない振りをしていた方がきっと上手くいくのに……どうしても気になってしまう。さみしんぼなサラは、その空隙を無視できないのだ。
「マクシムさんは、私のことどう思ってるのか………本当に『好き』なのかなぁって」
何度も何度も抱かれた。「私の子どもを孕んで」と囁かれ、苦しくなるほど情欲を注がれた。「貴女は私のものだ」と何度も宣言されたし、首輪と鎖で繋ぐほどサラに執着していることも身を持って知っている。
でも、一度も『愛している』とは言われていない。
マクシムがサラに抱いている感情は、子どもがお気に入りの玩具を抱きしめて離さないような、そういう……独占欲のような何かではないのか?
サラは、マクシムに恋している。認めたくはないが、もう彼女は身も心も全てマクシムのものだ………本当に認めたくはないが。
一見、順風満帆に見えるサラとマクシムは、割と食い違っていた。今までの恋愛遍歴のせいか、彼女は自分から想いを伝えることは出来ても、決定的な想いを聞くことは怖くて足踏みしてしまう。
サラは、マクシムのものだ。
では、マクシムは誰のものだ?
「………分からないの。マクシムさんは、私を欲しがるけど……受け入れてくれたけど……」
マクシムの変態行動は、傍目から見れば『愛に基づく束縛行為』に見える……けれども、それがもし、サラの思う『愛』とは違ったら?まかり間違って、「貴女は私の所有物で、そこに男女の愛はありませんよ?」なんて言われたら、サラは絶対に一本背負いしてしまう……いや、心に傷を負い涙を流してしまうだろう。
「私、マクシムさんに……こう、ちゃんと『人』として愛されてるのかな……とか」
口に出すと何とまぁ情けない悩みだろうか。サラは悔しいやら恥ずかしいやらで、さらに涙が溢れ出る。
すると、目の前にレースの縁取りが愛らしい木綿の布が差し出された。涙を拭き取って気がついたが、これは……先程姉が完成させた赤ん坊用のヨダレかけである。通りで吸水性抜群のはずだ。これなら赤ん坊の涎や吐き戻しもばっちり受け止めることが出来るだろう。
「後でそれ、洗って干しといて」
「うん…ありがとう、姉さん」
「それはそうと―――――――産んだら一発、マクシムさんを殴っとかないといけないわねぇ」
不穏な言葉と、突然低くなった姉の声にサラはビクッと体を震わせた。これは、あれだ。かつて義兄に雌の獣人が横恋慕した事件で、押しかけてきたその雌を言葉と乗馬用の鞭で叩きのめした時の声だ。
あの時の姉は本当に恐ろしかった。しかしお陰様で、ライバル気取りだった雌の獣人は姉のことを「姐あねさま!」と呼び、すっかり大人しい妹分になった。たまにお土産をもって遊びに来る。
……いや、今はそんなことどうでも良い!
「姉さん!それはやめて!」
「駄目よ、可愛い妹を泣かせやがったのだもの。大丈夫、傷は残さずにしっかりと体に叩き込んであげるから」
姉がおっとりと微笑んで首をかしげる。しかし目が全く笑っていない。サラと同じ焦茶色の瞳が、危険な光を湛えギラギラと光っている。何だか妖しい色気まで感じるのは気のせいだろうか?似た顔なのに、随分違うものだと場違いにも感心してしまうサラであった。
「とにかく駄目だってばぁ!それ下手したら裁判沙汰になっちゃうやつだから!!!」
「遠慮しないで?」
「遠慮じゃないぃ!それに、それに………」
そこまできて、サラは真っ赤になりながら叫んだ。
「あの変態野郎をどうにかして良いのは!!!私だけなんだからぁ!!!!」
しばしの沈黙の後ハッと我に返ると、姉が満足そうに微笑みながらサラを見ていた。何てことを口走ってしまったのか!ますます顔を赤らめ、サラは手元のヨダレかけに顔を埋めた。恥ずかしい。今なら近所の林を十周は走って回れる。ついでに遭難して息絶えたい………狭い林なので遭難するのは不可能だけれど。
ヨダレかけに埋もれたサラの頭を、姉が少し荒れた手のひらで優しく撫でる。サラはしばし、その少し固いけれど柔らかい感触に身を委ね深呼吸した。ヨダレかけからは、サラの涙の匂いがする。
「サラ、貴方って本当にマクシムさんが好きなのねぇ」
「……………誠に遺憾ですがその通りです」
「お互い、変な男に縁があるわね。姉妹だからかしら」
「ヴォルフさんも大概変態狼さんだもんねぇ…」
「そうなの。でもいいのよ、私が選んだ男……雄?だもの」
だからね、と、頭を撫でながら姉は続ける。
「サラ、貴女が好きになった男を信じなさい」
「…………信じる?」
「そう。そして、信じる為に言葉と体で話し合うのよ。そのどちらかが欠けても駄目。話して、しっかり相手と向き合うの」
恋は、一方通行でも成り立つものだ。けれど、愛はそうはいかない。向き合い、話しあい、時に衝突しながら『二人で』育むものだ。
まぁ、世の中には様々な愛の形があるので一概に全てそうとは言い切れないが……少なくとも、サラがマクシムに求める『愛』は、そうやって形作るものであろう。
その為には、まず相手を信じなければならない。そしてマクシムに、『愛されている』ことを確信するためにも、サラには決定的な言葉が必要なのだ。
「…………姉さん、大人ね」
「当たり前よ。貴女より十年は長く生きているのだもの」
「へへ、そうよね。…………そうなのよね」
サラは、ヨダレかけから顔をあげた。目元はまだ赤いが、潤んでいた瞳には強い光が宿っている。
「結婚するなら、はっきりさせなくちゃ駄目だわ」
次にマクシムと会った時、もう一度話し合う。そして、決定的な言葉――――『愛してる』を貰ったその時こそ、本当の意味でサラとマクシムは『恋人』になれるのだ。
ヨダレかけを握りしめて奮起する妹を、微笑ましく見守りながらアリアはぽつりと呟いた。
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