スパダリ族はお断り!

赤井茄子

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何でこう何度も遊びにくるんだろう?

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 週明け、舞花は黙々と働いていた。
 広告会社のデザイン課。一応、名刺の肩書は『デザイナー』だったりする。

「木下さん、商品画像共有にいれといたから」
「分かりました」

 忙しなくペンタブを動かしながら、共有ファイルを開いた。ズラリと並ぶ什器やポップ、新しく発売する登り旗の画像の数に、ついため息が漏れる。
 デザイナーと言えば聞こえはいいが、舞花がいるのは商材カタログ部門。華々しく企業向けの広告ポスターやお菓子のパッケージを作っているデザイン部門とは異なり、カタログ制作は地道な作業の積み重ねだ。
 まだまだ下っ端の舞花は、商品画像を処理ソフトで切り抜いたりする雑用が主な仕事でもある。

 ――まぁでも、経験なしでも採用して貰えただけありがたいんだから。

 技術力ならイラストやデザインの専門学校卒の方が即戦力になるだろう。それでも普通の大学出の舞花を拾い上げてくれたのだ。
 画像処理ソフトを開き、むんっと腕まくりをする。雑用は早く仕上げて、社内コンペ用に新作ポップのデザインを考えたい。

「よぉし……、あれ?」

 スマホ画面がチカチカと光る。ロック画面に、LIMEのメッセージが顔を出した。
 メッセージの送り主は、『ヨシくん』である。

『お疲れ。今日そっちで晩飯食っていいか?』
「……またか」
 
 あれから、吉弘はよく舞花のアパートに出没するようになった。彼にも仕事はあるようで、来る日は基本不規則。
 因みに舞花のアパートにやって来る時は手土産持参でやってくる。律儀なスパダリ族だ。

 ――何でこう何度も遊びに来るんだろう?

 幼馴染とまた会えたのは(スパダリ族になっていたことはさて置き)嬉しい。友人もそこまで多くないので、何だかんだご飯を食べたり、のんびり話すのも正直楽しいところもある。
 しかし吉弘が来る度に、彼の私物が少しずつ、ほんの少しずつ家の中に増えるのは頂けない。こないだは一晩泊まっていったせいで、ついに私服の着替え一式がリビングに、専用歯ブラシが洗面台に設置された。

 ――完全にお泊りセットだよね。そのうち布団かマットレスを運び込んできたりして。

「うわぁああありえる……っ!!」

 ぶるるっと背筋に悪寒が走り抜け、舞花は頭を抱えた。
 ああ、姉と舞花、家族だけのお城だった家が、だんだんと侵食されている。おのれスパダリ族、間合いの詰め方が恐ろしすぎる!

 ――でも、断ったら断ったでぜったい凹むよなぁ吉弘が……!

 俺、何か気に障ることしたか?
 とか肩を落としてしょんぼりと項垂れる姿がありありと思い浮かぶ。あの顔をされると舞花は弱いのだ。
 ……あと、憂い顔も無駄にキラキラしているし、落ち込んだ時は背後に咲く花も露を含んで濡れ煌めく。どういうメカニズムか、無駄に耽美さを演出しないで頂きたい。

『分かった、代わりに晩御飯は吉弘が買ってきてね。いつもの時間に帰るから』

 そんな舞花の返信メッセージは瞬時に既読がつき、続いてOK!の文字を抱えたリアルなゴリラがスタンプされる。
 謎のゴリラにほんの少し笑ってから、舞花はスマホをしまうと、また商材の切り抜き作業に集中したのだった。
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