スパダリ族はお断り!

赤井茄子

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吉弘という男①

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「びゃーーーーーーーーーっ!! スパダリ族退散ーー!!!」

 風呂上がりに一服、コーヒー牛乳を飲んでいたら真っ赤な顔をした幼馴染がいた。その手にあるのはフィブリーズ……謂わずと知れたスプレー式消臭剤である。

「……俺は悪霊か何かか」
「イヤならさっさと服を着て!!」

 フローラルな香りをダイレクトに感じながらため息をつくと、鼻息荒く言い返された。汗が引くまで涼みたかったが仕方ない。吉弘はしぶしぶ洗面所に引っ込み、シャツを着て首にタオルをかけて出る。
 その姿を薄目で確認し、幼馴染――舞花はやっとスプレーを下ろしてくれた。

「ったく良いじゃねえか半裸くらい。昔は腐るほど見てたろうが」
「子どもの頃の話でしょ!」

 まだ湿り気の残る髪の毛をガシガシとタオルで擦りながら見下ろす。すると、丁度吉弘の鳩尾あたりの高さからキッ!と睨みつけられた。

 ――そんな顔しても可愛いだけなんだけどなぁ。

 と、思っても口には出さない。出したが最後、警戒されてこの家に上がり込めなくなるからだ。
 『男と女だ』と彼女が意識してしまったら、この距離感では居させてもらえないだろう。無害な幼馴染の『ヨシくん』が舞花の中にいるからこそ、この親しい無防備な距離にいられるのである。
 おまけに、今の舞花はスパダリ族嫌い。
 正直、家に上がれるだけでも儲けものだ。

「風呂上がりにこっち来るのが悪いだろ。何か用か?」
「あっ、そうだ! 早くしなきゃ『超常!UMA研究ファイル』始まるよ」

 舞花の後を追って居間に入れば、丁度番組OPが流れるところだった。
 おどろおどろしいBGMと共に、グニャグニャ掠れた文字で『超常!UMA研究ファイル』という何とも胡散臭いタイトルが現れる。

『今宵は皆様を謎と怪奇に包まれたUMAの世界へご案内致しましょう……』

 渋い声のナレーションが響き、様々なUMAが臨場感たっぷりに紹介される。有名どころはスカイフィッシュやツチノコから、国をまたいでチュパカブラにモンゴリアン・デス・ワームまで。時折スタジオで実物大写真の3D映像を見た芸能人が大げさに驚いたり怖がったりケチをつけたりと、画面の向こうでは大変賑やかだ。

 ――たまには、テレビも面白いな。

 コーヒー牛乳の瓶をローテーブルに置き、ちゃっかり舞花の隣を確保した。横目で伺えば、彼女は興奮に頬を染め、目をキラキラさせて楽しそうにテレビ番組にのめり込んでいる。

「見て、翼猫だって!」
「……可愛いな」

 テレビに夢中になっている舞花が。
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